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皇女の婚約の申し込み

 



 「コロンブス公爵家のマフィン嬢との婚約解消はちゃんと終わったぞ」




 「……………申し訳ございません」





 夜、群青色のオールバック、緑の瞳、鼻の下に少しだけ髭を生やした父・セシルに呼ばれたセオドアは頭を下げる。この婚姻は、同じ公爵である両家の繋がりを強くする為の政略結婚であったのに………………




 罪悪感に苛まれるセオドアに、セシルは首を振った。




 「お前は悪くないさ。コロンブス公爵家の令嬢を私は好きではなかったし、寧ろこのような婚約を結んだ私を許しておくれ」



 「そんなことはっ…………」



 「いいんだ。私が悪かった。セオ、すまなかったな」




 優しい父はそう言って泣きそうな顔をする。そんな顔をさせたくなかった。



 「お前の意志のある結婚をして欲しい。

 それを踏まえて考えてくれ。


 今日、お前宛に正式な婚約の申し込みが届いた。

 相手は___サクリファイス大帝国の皇女、アミィール・リヴ・レドルド・サクリファイス様だ」







 「____!」






 アミィール様が、本気で俺と婚約を…………?



 セシルは静かに言う。




 「アミィール様は、自分が嫁いでもいいと仰っている。だが、お前も知っているだろうが…………サクリファイス大帝国現皇帝・ラフェエル陛下、皇妃・アルティア様は皇位継承争いをさせたくない為か"悪しき血"を増やさないためか…………御子はアミィール様ただおひとりだ。



 立場や実力、サクリファイス大帝国国民の支持率を鑑みても次期皇帝はアミィール様で決定だ。つまり……お前が婿に入らねばならない」




 「…………………」




 その話は、知っていた。

 サクリファイス大帝国現皇帝・ラフェエル陛下とその皇妃・アルティア様。ゲームには全く出てこなかったから、調べたのだ。他国ということもあり詳しくとまでは行かなかったが、御子は1人しか産まないと豪語し、アミィール様を産んだ。



 "悪しき血"というのは、分からない。

 箝口令が敷かれていて、大人は誰も話さないのだ。




 「……私はコロンブス公爵家との婚約をよかれと思って受けたが、お前の気持ちを失念していた。


 だから、セオ。次はお前がしたい、と思う女性と婚約をし結婚して欲しい。


 難しく考えず……皇女様といえど、無理に自分を犠牲にはしないでくれ。最も、お前が皇女様と婚約を結びたいならそれはそれで止めないが」






 セシルはそう言ってから『すまないな』と眉を下げた。父上は何も悪くないのに、である。コロンブス公爵家との婚約は半ば強制的だったけれど、それは自分がこのギャルゲー『理想郷の宝石』の主人公であるのだから仕方ないことなのである。




 ………それはともかく、アミィール様と婚約をしたらこの国を離れるのは必然だろう。サクリファイス大帝国で共に生き____って、だから!身分があるから無理だってそれは!




 いや、しかし、この婚約をお断りしたら国交問題になるか…………?不敬になってしまうか………?



 いやいや、そうだとしても俺が婿になるのも不敬だろう……どちらの道も不敬ではないか……?詰んでる、どっちの道を選んでも不敬でしかない。




 「か、考えてみます………………」




 セオドアは弱々しくそう言った。







 * * *





 「はあ………………………」





 セオドアは、大きな溜息をつきながらキッチンで菓子を作っている。エクレア、ミルフィーユ、フロランタンにメレンゲ、スコーン………………綺麗で可愛い様々なお菓子達が山のように積もっている。それを見ていたレイはとうとう口を開いた。





 「今日もまたすごいですね。そんなに悶々としておられるのですか」




 セオドアは小さい頃から極度のストレスや悩みがあるとお菓子を延々と作るという奇行に走るのだ。なので、オーファン家で働く使用人と家族は当然のようにお菓子を沢山食べる羽目になる。



 レイはそのお菓子達を使用人の分と家族で食べる分を慣れた手つきで仕分けながら言う。





 「………………またアミィール様のことですか?」




 「うっ……」






 セオドアの手がぴたり、止まる。図星である。執事という以前に長く時間を共にした友である。今度はレイが溜息をついた。




 「正式な婚約の申し込みが来たのでしたらもう少しお喜びになればよろしいのではないですか?」




 「……………素直に喜べないだろう。私は公爵と言えど父上のように頭がいいわけでもなければ兄上のように剣を操る身体能力があるわけでもない。


 どう考えても釣り合わないだろう?」



 「それでもいいとお考えでアミィール様は婚約を申し出たのではないですか?アミィール様は聡明な御方だと聞いております。その方に選ばれたのであれば名誉の高いことでしょう。



 それに…………セオドア様だって、アミィール様の事をお慕いしているではないですか」




 「そ、そんなことは………………」



 「おや?可笑しいですね、ここ最近ずっとアミィール様の事を嬉嬉として私にお話しているではないですか」




 「うぐ………!」




 セオドアは思わず持っていた絞り袋を思いっきり握って中に入っていたホイップを撒き散らした。












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