一人の人間として
※若干BL展開あります。ご了承ください。
_____先日、アルティアの小娘の産み落とした子供が結婚した。
群青色の髪に緑色の瞳。造形はいい方だけれど『弱そうな子』と思っていた。
星の妖精神・ゼグスが『すごい力を持っているんだよ』なんて、呑気な声で言ったけど信じていなかった。
なのに。
その男が、自分の手首を切って弱っているアタシに血を落とした。
そしたら_____枯渇していた魔力が、妖精神としての力が漲ってきた。緑の光とともに湧き水のように全身から溢れてきたのだ。苦しかった呼吸も、だるかった身体も、ぼんやりとしていた視界も良好になっていって………………起き上がれた。
おかしい。
おかしいわ、この子。
妖精神を癒す人間なんて_____いないはずなのに。
『アンタ、なにそれ………』
思わず、聞いてしまった。
男は優しい笑みを浮かべて、口を開いた。
「私達人間のせいで傷つけてしまい、申し訳ございません。私にできることは___これしかありません。お力になれたかわかりませんが…………少しでも元気になったようでよかったです」
これしか、って……………その『これしか』が凄いんじゃない……………
海の妖精神・マリンは呆然としながらそう思った。
* * *
「セオ様!」
わたくしが駆け寄った頃には、緑の光は落ち着いていた。苦しんでいたマリン様が起き上がっていらっしゃる。
____セオドア様のお力・"治癒血"。
ありとあらゆる生命を生かし、治す癒しの血。死人さえも生き返らせる人智を超えた力。
それを使ったのはわかった。けれど、それが問題なのではない。
「アミィ?………っわ」
わたくしはセオドア様の腕を見る。傷は浅いけれど、血が出ている。セオドア様のお身体に傷など残してはならない。
「……………治癒魔法」
アミィールはそう言って傷口に治癒魔法をかける。先程の緑の光よりも淡い光が傷口を包み、傷を癒した。
それが終わってから、アミィールは涙目で怒った。
「セオ様!何故、何故自分で傷を作ったのですか!貴方の身体はッ………傷をつけてはならないのに!」
「アミィ…………ごめん、勝手に身体が、動いてて」
「…………ッ」
そう言ってしゅんとするセオドアの姿に、アミィールは言葉を詰まらせる。この顔には弱い。本当に悪いと思っているからこそしているのを知っているから。心優しいセオドア様がこの話を聞いて使わないわけがなかったのも理解している。
けれど……………
「ッ……!」
アミィールはそこまで考えて、自分の胸にセオドアの顔を埋めた。ポロポロと涙を零しながら、か細い声で言う。
「わたくしはッ……セオ様に傷ついて欲しくないのです……だって、セオ様の身体はわたくしの身体ですもの……………大事な、大事な身体なのを理解してくださいまし…………」
「………ッ、アミィ………」
セオドアはアミィールのすすり泣く声に、目尻が熱くなって。自然と抱き締め返していた。
* * *
『ありがとう、ありがとう、セオドア、アミィール』
男の子___水の精霊・アクアはぺこり、頭を下げた。もう泣いていない。
セオドアはアミィールに腕を抱かれながらほ、と安堵する。よかった。治癒血が効いて…………
そんなセオドアに、海の妖精神・マリンはツン、としながら口を開いた。
『アタシは頼んでないもん』
『マリン!助けてくれた人にそれはないよ!ダメだよ!』
『なによ、アタシが悪いって言うの?』
『当たり前だろ!』
そう言い合う2人はまさに双子である。とても可愛くて心が和む。
そんなほわほわとした気持ちを持っていると、アクアが『それより!』と声を上げてセオドアを見た。
『セオドアにはお礼をしなきゃ!』
「お礼?必要ないですよ、私はただ___ッン!」
「!?」
答える前に____一瞬で目の前に来たアクアは、俺の唇にキスをした。




