お節介執事
「お呼びでしょうか」
「ええ。御足労ありがとうございます、レイ様」
セオドアとアミィールが結婚して8ヶ月経ったある日。
執務室にレイの姿があった。何故呼び出されたのかわからないレイは頭を下げながら考える。
アミィール様に呼ばれるのは珍しいな。セオドアではないけれど、こんな美女と2人で居るとなんというか、緊張するな。アイツが紅くなるのもわかる気がする。というか、こんな美しい皇女に愛されるセオドアは凄いな……………
けど、セオドア以外の男に興味が無いと従者内でも有名なアミィール様が何故俺を呼んだのだろうか?
「頭をあげてくださいまし」
「は」
顔を上げてみると、アミィール様はとても厳しい顔をしていた。………まさか、セオドアが浮気してるかどうか聞くとか「セオドア様について聞きたいのだけれど」___ほらきた!
レイはそう思い、『それはないです』と言う準備をした。
けれど、それは外れていた。
「_____セオドア様は、わたくしと出会う前に女性経験がございましたか?」
「はい?」
思わず聞き返す。アミィールは真剣な顔を辞めず、再び問うた。
「わたくし以外の女を抱いたことがあるのでしょうか?
わたくし以外の女に尊い子種を吐き出した事はございますか?
レイ様、どうかお教え下さい」
それはもう大真面目に聞いてくるアミィール様。…………いやいや、この美しい皇女の口から子種とか出ないだろ。
しかし、だ。
宝石のような黄金色の瞳が妖しく光っている。それはもう射殺す勢いで俺を見ている。これは答えなければ殺される奴だ。
騎士でもあるレイが本能的に悟った命の危機に、口を開く。
「ございません。幼少期__5歳からお仕えしておりますが、セオドア様は知っての通り純情なので、女性に不誠実な事はできない御方です」
「……………そう、ですか。
もしいらしてたらその女を殺そうと思ってました」
それを聞くと、あからさまに安堵するアミィール。
おいおい、サラッととんでもない事を言ってるぞこの皇女様。しかも殺すのはあくまで女の方って…………
軽く引いてるレイをよそに、アミィールは寂しそうな顔で自分の下腹部に触れる。
「_____セオ様の初めての子種が欲しいですわ」
「_____!」
その言葉に、嫌な予感がした。
レイはポーカーフェイスを少し崩して、再び口を開いた。
「………………発言をお許しください、アミィール様」
「ええ。どうぞ」
「毎日閨を共にしておられますが、まさか……未だに……」
そう尋ねると、アミィール様は一層悲しそうな顔をした。それはもう泣きそうな顔をしている。泣きそうな美しい顔である。
あの馬鹿ヘタレ乙女野郎………………!
レイは心の中で毒づく。愛する女になんて悲しい顔をさせているんだ。サクリファイス大帝国の皇配執事としても長年の友としても怒りに似た思いを抱く。
その表情の変化に気づいたアミィールは慌てて弁解する。
「レイ様、お怒りにならないでくださいまし。
わたくしが魅力のない女だから………………わたくしが悪いのです」
「……………ッ」
そう思うのはこのユートピアで彼女1人である。むしろ魅力しかない完璧な美少女にここまで言わせている。
でも、セオドアの事も知っているから強くも言えない。アミィール様を深く愛し、大事にしたいからこその行動だろう。アイツはそういう男だ。
しかし、アミィール様がここまで悲しみに暮れているのに知らぬ存ぜぬはできない。
アミィール様の不安が拭えるように。
そして。
…………………未だにビビってるのであろうあの馬鹿主人の背中を押すために。
「_____私にいい案がございます」
お節介執事は静かに口を開いたのだった。




