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あべこべ夫婦

 




 突然の状況で、セオドアは言葉を失っていた。アミィール様が男口調で、低い声を使うなんて初めてだったから。



 戸惑うセオドアをちらり、と見たアルティアは少し考えてからふわり、笑った。



 「____わかったわ。退出を許可します」



 「ありがたき幸せ。………行くよ」




 「ッ、は、はい…………」





 アミィール様は颯爽と俺を抱えて歩き出す。

 お互いがあべこべな格好をしている状況に、お互いの口調も相まって___俺は、王子に助けられたお姫様の気分になって。



 不思議そうに見ている従者の視線を感じつつも、そのかっこいい王子様から目が離せなかった。






 * * *




 「セオ様」



 「………………アミィ」




 俺達は、寝室に逃げてきた。

 服装は勿論、そのままで。………俺はドキドキしながらも、不安だった。

 だって、男が、夫が、こんな服を着て、化粧をして、貴婦人たちと女子の話をしていた。

 無理やりだったとしてもそれは事実で。




 ……………気持ち悪がられても仕方がないことだって、思うから。



 そう思うと涙が出てきた。乾いていた涙を濡らすように、頬を伝っていく。



 「ッ、アミィ、ごめん、俺、……すごく気持ち悪い格好していて、それで____ッ」




 泣きじゃくりながら言葉を紡ごうとするセオドアの唇を、アミィールは奪った。押し倒し、彼女らしくない程乱暴に唇を重ねる。セオドアは驚くも、それでも服のせいか化粧のせいか女になった気分でそれを受けた。



 甘い、甘いキス。お互いの甘い吐息が、甘い唾液が交差する。そのキスは気持ち悪いどころかひとつの絵のように美しい光景だった。


 暫くそうしてから、覆いかぶさっていたアミィールは唇を離し、セオドアの口端についた唾液も、涙も舐めとった。



 優しい愛撫に、甘いキスで既に朦朧としているセオドアは素直に受ける。それでも不安そうな顔をするセオドアに、アミィールは静かに言った。



 「_____セオ様は、わたくしのこの格好を気持ち悪いとお思いですか?」



 「そ、そんなことない!アミィはどんな格好をしていても、アミィだ!」



 思わず反射的に本心を言ってしまう。慌てて口を抑えようとするセオドアの手首をアミィールは小さな手で押さえつけ、目を細めて笑った。



 「_____そう仰ってくださると思っていました。



 そして、わたくしも同じ気持ちです。

 セオ様がどんな格好をしていても、……セオ様は、セオ様。



 わたくしの大好きな、愛おしい我が君なのです」




 「ッ、う………」




 アミィール様の優しい言葉に、また涙が出てきた。次は不安とか、怖いとかじゃない。嬉し涙だ。


 ……………こんな格好をしていても、アミィール様は俺を愛していると言ってくれる。それがこんなにも嬉しい。



 泣き始めるセオドア様。…………最初見た時は、驚いた。すぐにセオドア様だとわかった。けど、この愛らしい御方がいう『気持ち悪い』という感情は抱かなかった。



 ____美しい、と思ったのだ。



 男の格好の方が似合うわたくしよりも、全然美しい、可愛らしい愛する御方の姿を見てどれだけわたくしが心を乱されたか貴方にはわからないでしょう。



 でも、セオドア様は泣きそうな顔をしていた。楽しそうにお話をしていたけれど、それでも泣きそうだった。それを黙って見ていられるほど軽い愛を持った覚えはない。




 「_____セオ様、可愛い。可愛いわたくしの旦那様」



 「ッ……………アミィ、アミィは格好よすぎるよ………俺の奥方は、格好良すぎる…………」




 「ふふ、…………ねえ、セオ様……いえ、セオ。今からこのドレスを脱がせて差し上げます。


 そして____沢山、沢山愛させてくださいまし」



 そう言った男らしい格好をした女は、顔を赤らめている女らしい格好をした男のドレスを脱がせながら再び唇を落とした______













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