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苺味の飴玉と貴方

 






 「こんなにお菓子を作ってどうなさったのです?」



 「そ、それは……………」




 セオドアは吃る。ストレスを感じたらしてしまう癖だ、と答えたら『どんなことがありましたの?』なんて聞かれてしまうだろう。俺が女装したことは、この愛おしい御方には知られたくない。




 そう思ったセオドアは顔を逸らし、目を泳がせながらたどたどしく言葉を紡ぐ。



 「えと、次、孤児院に行く時、そ、その、子供達にあげる、ものを、試行錯誤、していて……」





 「………………」





 たどたどしく紡がれる言葉を聞きながらアミィールは思う。


 ………この素直な御方は、嘘をつくのが下手なのです。だから、わたくしでもわかります。尋問と称して少し意地悪をしたい気持ちもあるけれど、ここまで取り乱しているのですから泣いてしまうかもしれません。わたくしの愛おしいセオドア様はとてもか弱いのです。



 なので、無理に聞かずにこのお優しい御方を困らせて差し上げましょう。





 そこまで考えてアミィールはにこやかに笑いかける。




 「_____このような可愛らしく美味しいお菓子を見た孤児達はきっと笑顔になりますね。


 ですが、子供たちのことばかり考えてセオ様の御心にわたくしの居場所がなくなるのは悲しいです」



 「な、っ、そんなことない!私の心にはいつだって………アミィが居るんだ。子供達への気持ちと、アミィへの気持ちはどちらも大切だが、大切の意味は違う!」




 セオドアは必死にアミィールの言葉を否定する。本心だ。俺は子供たちも大事だけど、アミィール様も大事なのだ。………って、俺はそもそも女装を隠すために言った嘘でこのような誤解を産むのは嫌だ。



 あわあわと慌てて言葉を紡ぐ愛おしい男の腰を抱きながら、『でしたら』と優しく甘い声で囁く。



 「わたくしも、このお菓子を食べてよろしいでしょうか?」



 「勿論食べて下さい、私のお菓子も、その、私の心も、身体も………貴方の物なので」




 「!」




 そう言った顔の紅いセオドア様はとても、とても優しくて愛らしくて………些細な意地悪をしようとしたわたくしに自身の醜さを実感させた。こんな愛らしい御方をどうしてわたくしは意地悪をしたくなるのでしょう。



 でも。



 この御方の紅い顔を、もっともっと見たくて。




 アミィールはほんのり顔を赤らめながら黄金色の瞳を細めて言う。




 「では……………ん」




 「え?…………!」




 アミィール様は俺の顔の近くで、ピンク色の唇を開けた。最初は何を意図するのかわからなかったけど、すぐに理解した。これは少女漫画でよくある『あーん』だ!た、食べさせろということなのだ!




 そう思うと、更に顔の熱が上昇する。恥ずかしい。………けど、しなかったら不敬だし………それに、こう甘えてくるアミィール様が可愛くて。



 「で、では飴玉を………ッ」




 セオドアはぎこちなく苺を使った飴玉を1つ手に取って、アミィールの口に運んだ。アミィール様は待ちきれない、と言わんばかりに俺の指ごと口内に含んだ。アミィール様の温かい口内に、俺は思わず手を引っ込めた。



 指をもう片手で包んで、茹でダコのように赤くなるセオドア様を横目に飴玉を舌で転がす。苺の風味のある優しい甘さが口の中に広がって、自然と頬が緩む。……それに、セオドア様の指も、甘くて。




 「とても、美味しいですわ。この飴も、……セオ様の指先も。



 セオ様は甘くて可愛い何かで出来ているのですか?」




 「ッ………あ、飴玉よりも、私よりも……」



 _____そう言って嬉しそうに微笑む貴方の方が甘いです、とは恥ずかしくて言えなかった。















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