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皇女はあからさまに憤る

 






 すっかり忘れていた。ここは『理想郷の宝石』というギャルゲーの世界だった……



 最近、アミィール様が俺と一緒にいてくださり、他の攻略対象キャラが絡んでくることがなかったから忘れていた。



 ロヴェンは嬉嬉として駆け寄ってきて、飛びついた。




 「セオドア様~!」




 「ッ!」




 思いっきり抱きついてきたから、思わずカバンを手放してしまった。そしてそのせいで……ロヴェンが、カバンを踏んだ。




 あの中にチョコブラウニーが入っているのに……!




 「ロヴェン、離れてくれ!」



 「嫌ですぅ~最近全く会えなくて寂しかったんですよ~!なので、今日一日は付き合ってくださいよォ」



 甘ったるい声に鳥肌が立つ。こんなに不快になる声があるか?



 セオドアの耳元に唇を寄せ、ロヴェンは言う。





 「……セオドア様、最近サクリファイス大帝国の皇女と仲良くしていらっしゃるんですよね?学園で話題の的ですよ?


 セオドア様は素敵ですが……相手は皇女なんですから、そんな女はすぐに男を捕まえますって。きっとセオドア様と話しているのだって暇つぶしですよ」





 「それはッ…………………」





 ロヴェンの言葉に、言葉が詰まる。

 そんなこと、アミィール様はしない。わかっている。けど、……ロヴェンの言うことも、わかる。



 アミィール様にはもっと素敵な人がいる。俺は主人公補正で好かれているだけで、それ以外の魅力なんてない。


 暗い気持ちになっているセオドアに、追い打ちをかけるようにロヴェンは続けた。



 「ですから…………ね?そろそろ、わたくしで妥協しませんか?後悔はさせませんよ」




 「……………………」





 俺は、どうすればいい?

 この女の言う通り、アミィール様と離れて、ロヴェンとくっつくべきなのか?




 だけど、だけど______





 「……………面白いこと、話してるじゃない」



 「………!」





 低い、凛々しい声が聞こえた。

 今度こそ、本当に……………アミィール様だ。




 振り返ると___とても不機嫌な顔をしたアミィール様。アミィール様はコツ、コツとヒールを鳴らして、ロヴェンに近づいた。



 近づく度に顔を青くするロヴェンはぎゅう、と俺の腕を抱きしめた。すると、黄金色の瞳が冷たく光った。





  「………………その手を離してくださらない?セオドア様がお困りのようですが」




 「ッ、そんなことありません!あ、貴方こそ、セオドア様を誑かすのをやめてください!は、はしたないですよ!」




 「はしたない?…………婚約者でもなければ妻でもない女が殿方の腕に胸を押し付けて何を仰っているのです?



 もう一度言います。____その手を離せ」





 「ひ、も、申し訳ございません!」





 とうとうロヴェンが頭を下げた。それくらい強い圧を感じた。見ていた俺も恐怖を感じるほどに。アミィール様は再び口を開いた。





 「視界から失せなさい。………これ以上わたくしを怒らせないで」



 「はい!去ります!で、では!」





 ロヴェンはそう言って走って逃げた。

 俺とアミィール様が二人きりになる。アミィール様は……もう怒った顔をしていない。心配そうな顔で近づいて、踏まれていたカバンを御手に取った。





 「……………ひどい子。セオドア様のカバンを踏むなんて。礼儀以前の問題ね。



 大丈夫ですか?セオドア様」




 「わ、私はだいじょ…………!」




 は、と我に返る。チョコブラウニーは……!



 急いでカバンを開いたら____包装袋はしわくちゃで、チョコブラウニーは粉々になっていた。



 こんなもの、アミィール様にお渡しできない……





 そう考え泣きそうになるセオドア。そんなセオドアを見て、不思議に思ったアミィールは『失礼致します』と一言述べてカバンを覗き込んだ。そして、中に入っている物を見て____目を輝かせた。




 「それ、チョコブラウニー、ですか……?」




 「ッ…………はい」




 「も、もしかして…………わたくしの、為に?」





 「………ですが、このようなもの、渡せません」




 「わたくし、それが欲しいです!」




 「……………え?」










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