酔っ払いの悪ノリ
これは……………大人の悪いノリである。やっちゃいけないノリなのである。
セオドアは震えながら下を向く。
……………確かに俺はフリルもリボンも好きだ。着ているドレスの装飾は本当に可愛くて心は踊る。
しかし。
俺の心は男なのだ。前世で小学生くらいの頃は着たいと思っていたけれど、今世では前世の考えもあり、なおかつ俺には愛らしく美しいアミィール様がいる。男を高めようとしていた半ばでこんな格好をさせられているのだ……………この大人の悪い遊びに利用されているのだ!
セオドアは涙目でこれをした大人たちを見る。大人達3人はにやにやしながら片手にワインを持っている。各国の重要人が!真昼間に!お酒を飲んで!悪いノリを!敢行しているのだ!
そんな涙目さえも可愛い自分の息子に、すっかり出来上がっているアルティアは言う。
「フラン、今回はアンタにしてはいいこと考えたわ!こぉんなに可愛い格好ができる美男子なんてユートピアにはもういないわ!
もうっ、私、アミィールがあの性格だから可愛い格好の子供を持てないと思ってた…………!」
「ふっふっふっ、私の審美眼に狂いはなかったでしょ、先輩!初めて見た時から、"この顔なら女でもいける!"と思ったんですよ~!でも、それ以上に似合いすぎて…………おっと鼻血が」
「フラン様は相変わらず面白いことを考えますね、ふふふ、いいです、これはとてもいい趣向ですわ」
……………大人たちはみんな勝手である。そこに俺の男の尊厳など皆無で、俺の睨みも怒りも可愛いと言わんばかりにガハハと女性らしくない笑い声を出している。立派な見世物である。
あ、やばい、泣きそう。こんな恥ずかしい格好をしている俺のことをアミィール様が見たら嫌われる自信しかない。
ポロポロと泣き始めるセオドアを見て、流石の大人達も悪いと思う。
「わ、わ、泣かないでよ!と、とっても可愛いのよ!?ほんと、アミィールよりも可愛い!性格も可愛いし!?貴方はとても美しい!
You are very cute!」
「はわわ、泣くとさらに美少女……………ギャルゲーも侮れない…………こんな中性的な美男子ずるい………私もやりたかったわ…………じゃなくて!セオドアちゃん!ほんと、可愛いからアミィールちゃんが惚れ直すわ!」
「そ、そうですわセオドア!セシル達が見たら泣いて喜びますよ!」
「うっぐ、ひぐ、私は………男なのに…………こんな姿をした私をみたら、アミィール様に引かれてしまう………私の格好をみたアミィール様はきっと、きっと毛嫌いしてしまわれる……………」
「「「………………………」」」
もうその泣く姿は美少女そのもので、大人達は閉口する。そして全員が心で『女の子じゃん……』と思う。しかしこれを言ったらこの不憫な美男子は更に泣くだろう。 少しは自重しなければと考えるが、それでもアルコールの入った大人達は止まれない。
一番空気の読めないフランは嬉々として語る。
「ねえ、先輩!この見た目ならお茶会に参加してもバレないんじゃないですか!?声も少し高めに話せば、ちょっと声の低い女の子ですし、完璧に騙せるわ!」
「そうねえ、近いうちにこのメンツとこの国の奥方達とお茶会を開こうかしら。お茶会なら政治面ではなく、この子の大好きなお菓子や刺繍などの話もできるし」
アルティアはワインを飲みながら声を弾ませている。アルティアの言葉にエリアスは『まあ!』と笑顔を浮かべる。
「それはいいですわ!わたくしも是非呼んでくださいませ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!そ、それはッ…………!」
それは嫌である。今でさえ恥ずかしいのに他の方に見られるのは嫌だ。しかしそんなセオドアの声はもう届かない。




