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サクリファイス大帝国の"死神姫"

 


 「アミィール様」




 死体に囲まれた、返り血だらけのアミィールに、全身刃物を仕込んだ、同じく血だらけのガロが声をかける。



 アミィールは返事をしない。

 いつもの黄金色の瞳に輝きはない。



 ガロの目には見えている。

 沢山の黒い光の玉が………………


 小さい頃は分からなかったこの黒い光の玉は、魂だ。


 人狼は、人の魂を視ることが出来る。



 そして。



 アミィールの周りには____どす黒い魂達が舞っている。



 それは穢れた魂のはずなのに、美しいアミィールが纏うと、幻想的にも見えた。



 サクリファイス大帝国の_____"死神姫"。



 親である皇帝の次に強い女と恐れられる彼女は、反乱因子・世界を乱す者たちにそう呼ばれている。



 彼女の歩く道に生きている者などいない、とまことしやかに囁かれている。



 ……………まことしやか、という言葉は間違っている。事実なのだ。彼女には____温情が一切無い。



 返事をせずに、死神姫は1人空を見上げる。ぽつりぽつりと雨が降ってきている。




 ____空が悲しんでいるようだ。



 ガロは、そう思って泣きそうになる。

 "死神姫"___アミィール様が、こんなことをしなくてもいいのに、と。


 でも。



 この道を歩むと決めたのは_____"死神姫"本人だった。この世界に自ら贖罪をする、と。…………彼女自身には、何も罪がないのに。



 「ガロ」



 そこまで考えて、声を掛けられた。青紫の髪を自分たちと同じように血だらけにしたダーインスレイヴだった。



 「…………レイヴ様」



 「悲しむな。…………アミィールの覚悟を踏み躙るな」





 「………………はい」




 悲しい顔をする2人を他所に、"死神姫"___アミィールは、雨に当たりながら小さく囁いた。




 「_____セオ様に、会いたいな」




 雨はどんどん強くなる。

 けれども、アミィールが浴び、すっかりこびり付いた返り血を流す事は出来なかった。




 * * *





 サクリファイス大帝国、セオドアの自室にて。





 「…………………雨だ」




 セオドアは紅茶を飲みながら、ぼんやり外を見てそう呟く。



 ……………………孤児院のことを考えていたらもう1日が終わっていた。もうやりたい事は決まっている。やろうと思ってたけど偏頭痛がして今日は休養することにした。



 どうやら、偏頭痛の理由は雨だったようだ。偏頭痛持ちには辛いな……………



 「セオドア」



 「ん?」



 「……………大丈夫か?」



 レイが突然そんなことを聞いてきた。わからなくて、首を傾げながら聞き返す。



 「何が?」



 「……………寂しそうな顔してるから。そんなにアミィール様が来なかったのが寂しかったのかなと思ったんだ」



 「……………………」




 この執事の友は…………本当に意地が悪い。考えないようにしてたのに。言葉こそ心配してる風だけどニヤけてるぞおい。



 でも、事実である。アミィール様はいつも仕事を抜け出して、1度は俺に会いに来てくれる。しかし、今日は来なかった。もう夕方だ。……………どうやら俺は、アミィール様に少しでも会えないと気分が落ち込むらしい。とことん女子である。



 でも、男の端くれとして、それを認めるのは少し抵抗がある。



 「……………そんなことない」



 「顔に"アミィール様に会いたい"って書いてあるぞ」



 「ぐ、……………」



 セオドアはその言葉に自分の頬を思い切り押す。

 この顔ー!本当に!アミィール様は執務で忙しいんだから!我儘言うな!素直に顔に出すな!



 ……ポーカーフェイスを身につけねば……!




 そこまで考えた所で、コンコン、というノック音が聞こえた。もしかしてアミィール様かも、と思うとこのノック音が幸せを与える。



 「どうぞ!」




 「失礼致します……………セオ様」




 「アミィ!」




 セオドアはアミィールの姿を見るなり、飛び上がるように立ち上がった。







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