甘い悩み #皇女視点
「はあ………………………………」
アミィールは執務室にて、羽根ペンを置いて大きく溜息をつく。
結婚をして3ヶ月が経った。とても幸せな日々を過ごしている。1人の頃はいつ何時も執務の事や鍛錬の事ばかり考えていたけれど、セオドア様と出会ってからはセオドア様のことばかりを考えて、結婚してからもわたくしの脳内を占めているのはセオドア様だ。
……………結婚をして毎日顔を合わせていればそういうこともなくなるのだろうか?なんて不安になったこともあったけれど、それは杞憂だった。セオドア様は共に居てもなおわたくしの中に居続け、さらに実物までわたくしのそばにいて……………自分が緊張などすることがないと思っていたが、セオドア様のことに関してはそうではないようだ。
セオドア様と一緒にいる時はドレスを着たいし、セオドア様と居る時は剣を振るう姿を見て欲しくないし、セオドア様といる時は執務を全て投げ出したいと思ってしまうし。皇女としては失格である。
それだけセオドア様を愛しているのだけれど、最近、悩みがあった。
それは_____セオドア様が、わたくしの大切な所に欲望を吐き出してくれない事だ。
セオドア様はお優しい。わたくしを抱く時もそれは変わらず、優しくわたくしに触れ、優しくわたくしを愛してくれている。それはそれですごく幸せなのだけれど……………………わたくしは、満足していない。
それは、わたくしがセオドア様のとても大きな男の象徴を受け止めきれていないからだろう。わたくしの身体のなんと不甲斐ないことか。愛する男の大事な部分をしっかり受け止めるには普段から受け止める場所を鍛錬する必要がある。
セオドア様が猛々しくなれるように、欲望の赴くままにわたくしを抱けるように全ての部位を鍛える必要があるわね。
それは今後の課題である。今の現状はそれ以前で、セオドア様の欲望を未だに受け止めていない。セオドア様はその欲望をわたくしの中にではなく、腹に吐き出すのだ。これは由々しき事態なのです。
子供が欲しいというわけではありません。………いえ、セオドア様との子は欲しいです。きっとセオドア様のように美しく可愛らしいのでしょう。それは将来必ず得ると決めております。でも、今すぐ欲しい訳では無いのです。
ただ、わたくしはセオドア様の欲望を身体の中に注ぎ込んで欲しい。先日、やっとセオドア様が口で受け止めることをさせてくださいました。とても濃く、雄の匂いがするというのにどこか甘く、美味しく頂きました。毎日しております。
ですが、わたくしはわたくしが思うよりも我儘なようです。
その甘い欲望を、ちゃんとした所で受け止めたい。その気持ちは日に日に強くなります。………もっとセオドア様の男の象徴を締め付けられる身体にしなくては…………………いえ、セオドア様のご意思で吐き出して欲しい………………やはり、念入りに脳内に刷り込むべきでしょうか……………
「…………………なんでそうなるんですか」
そんなことを思っていると、わたくしの侍女・エンダーが呆れたようにそう言った。心を読んだのだろう。エンダーは読心術を使えるのだ。
「わたくしの心を覗くのはおやめなさい。わたくしは本気で悩んでいるのです」
「アミィール様がお悩みなのは心を読まずともわかります。けれど、その考えは誤っていると思われます」
わたくしの思考に異を唱えるなど生意気な侍女である。けれども、わたくしはセオドア様以外に抱かれたことがない。経験豊富なエンダーに聞くのもひとつの手段、でしょうか。
「では、正解はなんだと言うのですか?」
「……………それは、アミィール様が察するべき案件です」
「………………………」
「わたくしが答えを言ってよろしいのですか?……夫婦というのは、他人任せで答えを探すのですか」
アミィールは睨みつけるのを辞めて、考える。
確かに、そうよね。仮にエンダーが答えを言ったらわたくしは嫉妬に狂うでしょう。
………こればかりは、慎重に、セオドア様のご意志を尊重するべきだわ。セオドア様がわたくしに欲望を押し付けたくなるようなレディにならなくては。
その結論に至ったアミィールは、再び羽根ペンを手に取ったのだった。




