集う古き英雄たちよ #4
『ふふ、エリアスとバッタリ会うなんて奇遇だねえ』
「光栄ですわ、星の妖精神様」
そう、この人は………………『理想郷の王冠』の攻略対象キャラで、ヒロインの先祖の星の妖精神であり『理想郷の王冠』で最も女性に愛された男____ゼグスである。
ラフェエル皇帝様の顔をどこかで見たことある、と思ったら星の妖精神か………!うわぁぁぁぁ美しすぎる………!俺もこのキャラをやった時、あまりのストーリーの良さに泣いた。神に自分の子孫を見守れと言われ、死ぬ事を許されなかった男、ヒロインがその傷を癒す……………って、アミィール様が!?
嫌だ。絶対嫌だ。
セオドアは腕の中にいるアミィールを強く抱き締める。その度に幸せそうに顔を綻ばせるアミィール。
その様子に、大人軍団はほんわかする。可愛すぎないかこのカップル……………
ほわほわと和んだゼグスはラフェエルとそっくりな顔でラフェエルがしないような柔らかい笑顔を浮かべて睨みつける美男子を諭す。
『誰もアミィールを奪ったりしないよ。私とアミィールは先祖と子孫の関係だよ』
「ッ………しかし…………」
「………セオ様」
未だにモゴモゴと言葉が吃りながらも守ろうとする愛しい人を見上げるアミィールは優しい口調で言う。
「____わたくしは、貴方の女ですよ」
「………………アミィ…………」
優しい笑顔、俺にだけ向けられている。
それだけで、不安なんてどうでも良くなる………けれど、アミィール様がヒロインであれば気が抜けない。この愛おしい御方を他の誰にもやりたくない。
「ふふ、セオドア、一年前とは別人のようですね」
「エリアス女王陛下……それと、星の妖精神様……挨拶せず、申し訳『いいよいいよ、それより2人で仲睦まじくしていてくれ。それだけでお腹いっぱいだ』………?」
首を傾げるセオドア様。そんな様子も愛らしくてわたくしの頬の筋肉が仕事をしません。……………今すぐにキスをしたいけれど、流石にこれだけの各国の重要人の前で出来ない。ましてや、フラン様などは騒いで大変だろう。
抱き締められているし、それで満足しよう……
そう思っている時に、部屋の扉が開いた。わたくしの両親が来たのは見なくてもわかった。
「……………アミィ、セオドア、この神聖な部屋でなにをやっている…………?」
「まあ、いいじゃないの。…………全員揃ってるわね。
ガロ、リーブ、そしてレイヴも入りなさい。
会食という名の"密会"をしましょう」
静かに怒るラフェエル皇帝様をよそに、アルティア皇妃様が明るくそういった。
* * *
「治癒血……………か」
全員が席に座った所で、俺のチート能力の話を再びされた。クリスティド国王が囁くように反芻している。
………俺、本当にここに居ていいのかな………
改めて部屋を見ると驚くほど凡人顔がいない。みんなイケメンで美女で、俺だけが浮いている気分になる。たった1人だけモブだ。『理想郷の宝石』のイケメン(仮)主人公なんて肩書き、ここでは通用しない。
でも、逃げ出さないで居られるのは___アミィール様が俺の手を握ってくれているから。それだけで安心する。
そんな乙女な主人公を他所に、大人達は話す。
「……オーファン公爵家特有のものか、わたくしが調べましたが、そうでは無いらしいです。セオドアが"特殊"なようです」
エリアスは目を伏せながら静かに言う。それに続くようにガロ、リーブも口を開いた。
「……………私も調べましたが、このような事例はありません」
「亜人達にもこのような力を持つ者はいませんでした」
その言葉を受けて、『はいはーい!』とフランが手を上げる。
「やっぱり主人公効果だと思いまーす!異世界転生の魂で特殊な力を持つは定番の定番ですよ!」
「フランは黙ってなさい。………セオドアくん」
「はい」
アルティアは軽くフランの言葉を蹴って、セオドアを見る。いつものおちゃらけた様子はない。
「___貴方の力は特別よ。戦争の種になりうる程のね。私達が情報共有を図って貴方を責任持って守るけれど、貴方が危険な事をしたら意味が無いわ。
悪いけれど、基本この皇城と、貴方の実家以外は制限させてもらうわ」
「…………………はい」
仕方ない事だった。それだけの力がある。その力をここに居る各国の重要人が共有するほどの。
そりゃあ、アミィール様と旅行に行ったり、街に出てお忍びデートとかを夢見ていたけど、仕方が「待ってください」…………?
俺の思考を止めたのは_____アミィール様だった。




