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特攻列島  作者: みやこのじょう
第七幕 奪還
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第七十九話・二人の国会議員

挿絵(By みてみん)

『このような理不尽が(まか)り通って良いのでしょうか!』


 声高らかに政府の批判を続ける阿久居(あぐい)

 彼は会場である体育館内にいる聴衆の反応を見ながら言葉巧みに怒りの感情を操り、その矛先を現政権へと向けさせている。


 ステージの上で晒し者のように立たされ、みつるとりくとはひたすら耐えていた。心に余裕があったなら、もしかしたら会場内にいるさとるや江之木(えのき)の姿に気が付いたかもしれない。しかし、二人は大勢から向けられる好奇の視線を避け、足元の床を見つめるだけで精一杯だった。


 そんな二人を気遣い、脇に控えていた尾須部(おすべ)が小さな声で話し掛けた。


「大丈夫かい? 江之木君、井和屋(いわや)君」

「へ、平気です、これくらい!」


 りくとがぎこちない笑顔で答えると、尾須部は満足そうに頷いた。そのやり取りを横目で見ながら、みつるは大きく息を吐き出した。


 みつるは本来ここへは呼ばれていなかった。

 シェルター内で尾須部がりくとに話を持ち掛けている現場に居合わせ、無理やり同行した。りくとを危険な目に遭わせたくなかったからだ。

 尾須部はもっともらしい理由をつけ、りくとをシェルターから連れ出そうとした。保護された経緯や外の状況を考えれば有り得ない話だ。それなのに、りくとは何の疑問も抱いていない。


「もうすぐ終わるからね、あと少しの辛抱だよ」

「はいっ」

「……」


 ステージに立たされるためだけに丸一日以上かけてこんな遠くまで連れて来られたのか。自分達がここに居ることに果たして意味があるのか。

 演説をぼんやりと聞き流しながら、みつるは兄のことを考えていた。

 兄が生還したと尾須部は確かに言った。再会前にシェルターを出てしまったから、きっと心配を掛けているだろう。ここでの役目が終われば会える。それだけを心の支えにして、みつるは耐えた。




「──やれやれ、何ですかこの騒ぎは」




 その時、長々と続く政府批判を切り裂くような声が会場内に響き渡った。低い男性の声だ。マイクを使っておらず、怒鳴っているわけでもないのに充分な声量があり、よく通る。


 演説を妨害された阿久居は喋るのをやめて辺りを見回し、体育館後方にある出入り口に立つスーツ姿の男性を見つけた。その男性が足を前へ進めると、聴衆が道を譲るように左右に割れた。彼の堂々たる姿に気圧(けお)されているのだ。


 カツ、カツ、と一歩一歩ステージへと歩み寄るのは、上等な仕立ての細身の背広がよく似合う初老の男性。後ろに三十代前半くらいの青年を連れている。こちらもスーツ姿だ。

 誰だろうと思いながら、さとる達は男性二人が目の前を通り過ぎて行く姿を見守った。


「随分と楽しそうにお話されていましたねえ?」

『……暮秋(くれあき)! 何故ここに』


 ステージのすぐ目の前で立ち止まった老紳士を、阿久居は『暮秋』と呼んだ。それを聞いて、三ノ瀬(みのせ)が目を見開いた。


「えっ、暮秋せいいち?」

「誰だっけ」

葵久地(きくち)さんが教えてくれた、尾須部の親が支援してるっていう国会議員よ」

「はァ? なんでソイツまで那加谷市(ここ)に?」


 ここは地方都市。国会議員の活動拠点である東京からは遠く、しかも彼の地元ですらない。何の縁もないはずの暮秋が何故このタイミングで現れたのか。


 周囲が茫然としている間に暮秋せいいちと連れの青年がステージへと上がった。暮秋と阿久居は演台を挟み、舞台の左右に分かれて睨み合う。連れの青年が会場スタッフから予備のマイクを貰い、暮秋せいいちに手渡した。


『講演会の邪魔をしないでもらおう』

『これが講演会? 面白い事を言う』


 突然始まった国会議員同士の対立に、聴衆はただ戸惑うばかりだった。先ほどまで阿久居の言葉に感情を揺さぶられていた人々の支配が徐々に解けていく。


『被害に遭われた方々を前にしての政権批判……貴方がそれを言える立場ですか? そもそも、()()()()便()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。──阿久居せんじろう議員』

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― 新着の感想 ―
[良い点] 上手い。 こういう権力者同士の無駄な争いに巻き込まれるのが、さとるたちのような民間人には一番腹がたつ。 さとるの爆発に期待!
[良い点] 暮秋氏の登場は、阿久居氏を追い込めることができるのでしょうか。 カメラの前で売国議員だと言われてしまった阿久居は、窮地においこまれるのか。でも、マスコミもグルだとしたら放送もされない? …
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