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特攻列島  作者: みやこのじょう
第六幕 追跡
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第六十九話・難しい話

挿絵(By みてみん)

 さとるが次に目を醒ますと休憩所には誰もいなかった。慌てて身体を起こし、壁掛け時計を見る。時刻は三時。窓の外は明るいので昼間だろう。波の打ち寄せる音が微かに聞こえる。

 部屋から出ると、狭い廊下の突き当たりの部屋から人の気配がした。


「……シェルターに関する具体的な話は世間に公表されていない。誰かが上で止めとるんだ。ここいらだと県議会議員の若手グループだな。人権がどうのこうの言って無償解放すべきだと反対しとる。おかげで一般市民のシェルター入りが全く進まないままに爆撃が始まってしまった」

葵久地(きくち)さんからの報告にもあったわ。ホント困るのよね、そーゆーの」

「だから俺らのシェルターも人が少なかったのか。てことは、入れてるのは職員と協力者、保護対象者だけか?」

「入る条件にお金があるから人権のことを言われちゃうと弱いわ。だからって希望者全員を受け入れられるほど収容人数(キャパシティ)は多くないもの。どこかで必ず線引きが必要なのよ」

「要は、カネを持ってない層に対するパフォーマンスだな。そのせいで逆に助かるはずだった命が失われて……まぁ、今更シェルターに入れても意味はないが」


 テーブルを囲んでいるは、社長と江之木(えのき)三ノ瀬(みのせ)の三人だ。アリは別室で休んでいるのか姿はない。大人だけで情報交換をしているようだ。置いていかれたわけではないと知って、さとるは安堵の溜め息をついた。


 難しそうな話をしているようだし、まだどこかに行く様子もない。休憩所の部屋に戻ろうと踵を返したが、話題が自分に移ったことに気付いて立ち止まった。


「それで、あの男の子をどうするんだね。危ないことをするようならここに置いていきなさい」


 その言葉を聞いた途端、さとるは扉を開けて部屋の中に押し入った。突然のことに、室内にいた三人が驚いて顔を上げる。


「お、起きたの、さとる君」


 三ノ瀬が愛想笑いしながら話し掛ける。珍しく動揺しているようで、やや顔が引きつっている。


「オレを置いてこうとすんなよ」

「してねェって。心配してくれてるだけだろ」


 不機嫌さを隠そうともしないさとるに江之木が諭した。そのやり取りを見て、社長は呆れたように小さく息をついた。


「仲間外れにされると思ったかね?」

「……別に。子ども扱いが嫌なだけです」


 ムキになればなるほど自分が子どもだと認めるようで、さとるは言葉遣いを取り繕った。


「コイツは弟を探してんだ。俺の息子と一緒に連れ去られたんでな。だから、今更引き退らねェよ」

「なんだ、誘拐か?」

「誘拐というか、騙されて付いてったというか」


 江之木はハッキリ答えられなかった。

 阿久居(あぐい)せんじろう暗殺云々の話は残された情報から導き出した推測に過ぎない。無理やり連れ去られたわけでもない。

 ただ、安全な場所にいた子ども達を保護者に無断で他人が連れ出した、それだけが唯一の事実。


「本人の意志で付いてったんなら見つけても素直に帰ってこないんじゃないか? 聞き分けがいい子なら、そもそも親に黙って行かないだろ」


 社長の指摘に、江之木は苦い顔で俯いた。

 親子の仲はうまくいっていなかったと、さとるは聞いている。父親より尾須部(おすべ)を信頼しているとすれば、もし見つけたとしても戻ってこない可能性が高い。

 みつるはどうか。尾須部とは今回の件まで面識はなかった。信頼度で言えば、必ずさとるを選ぶはずだ。


「何にせよ、明日になったら会場近くまで車で送るから、今日はゆっくり休むことだ」

「何から何までありがとうございます」

「アリが連れてきた客だ。丁重にもてなさんとな」


 三ノ瀬から頭を下げられ、社長は笑って椅子から立ち上がった。彼ももう休むのだろう。そろそろ休憩所に戻ろう、と他の二人も席を立つ。

 部屋から出る前に、さとるが振り返った。


「あの、アリ……とはどういう関係なんですか」

「単なる昔馴染みだよ。たまーに顔を見せにくる程度の付き合いだ。あの子がこうしてここに人を連れてくるなんて、日系人以外じゃあんた達が初めてかもしれんなぁ」


 あまりにも社長が穏やかな笑みを浮かべているので、それ以上尋ねることも出来ず、三人は休憩所に戻った。

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