第五十六話・謎の男
冷静さを取り戻すために小休止が挟まれた。江之木を会議室に残し、真栄島達は職員用の談話室へと移った。そこへ最上層のホールから戻った葵久地が合流する。
「葵久地さん、右江田君は」
「えーと、今ちょっと人前に出せる状態ではないですね」
多奈辺の遺体と最後の別れに立ち会った右江田はひなたと共に号泣し、今は二人揃って別室で休んでいる。謝り続ける右江田に戸惑うばかりで、ひなたのほうが逆に落ち着いてきているという。
「他のご遺族の方にも順次伝えていく予定ですけど、ご遺体がないので話しても信じてもらえるか……」
「そうだね、時期をみて話をしてみよう」
真栄島のチームの犠牲者は二人。
多奈辺の遺体は運良く発見して連れ帰れたが、もう一人……安賀田は回収出来ていない。山頂での爆発の規模を考えれば綺麗な状態で遺体が残っているとは考えにくい。
安賀田の妻、ちえこはシェルター内にある医療施設に入院している。外の状況と夫の安否はまだ伝えていない。ここを普通の病院だと信じているかもしれない。迷惑を掛けたくないのか自分からあれこれ尋ねるようなことはせず、大人しく治療を受けている。
「ウチも犠牲者を出してしまいましたが、遺体を回収する余裕もなく現地に置き去りです。有人の島なので、地元の警察が身元不明の遺体として保護されていることを願うばかりです」
そう言いながら視線を落としているのは杜井だ。真栄島と同じ勧誘員で、別チームを率いて作戦行動に当たっていた。協力者達の身体能力を鑑みて割り当てられたのは無人島ではなく有人の島。故に難易度は高い。チーム五人中、犠牲は一人。
「残されたお子さんになんと説明するべきか……まだ小学校低学年なんですよ。今から頭が痛いです」
杜井はこめかみに手を当て、深く息を吐き出した。
「行方不明の件もありますからね」
「そうなんですよ! ああ〜、江之木さん怒ってますよね……私だって同じこと言われたらキレ散らかす自信ありますし」
「とにかく誠意を持って対応しましょう。葵久地さんは聞き込みを。何か新しいことが分かり次第知らせて下さい」
「了解です!」
葵久地は情報収集のため別行動となり。真栄島と杜井は会議室に戻った。
先ほどは怒鳴り散らしていた江之木も、時間を置いたことで冷静さを取り戻している。三ノ瀬と共に医療施設に行っていたさとるも、処方された薬を飲んで再び会議室にやってきた。
説明役は杜井が務める。
「えー、居住エリアのスタッフの話では、昨日の夜七時頃に食堂で夕食を済ませてから二人の姿を見ていないそうです。部屋で休んでいると思っていたそうなんですが、深夜の見回りの際に発覚した、と」
昨夜さとる達が泊まったのは成人用の個室フロア。それより下層に保護者不在の未成年者専用居住フロアがあり、みつるとりくとは他の保護対象者と共に男性用の大部屋で寝泊まりしていたという。
シェルターに来てからまだ二日。
ルームメイトと仲良くなるまでには至っていない。また、新たにシェルターに送られてくる人々もいる。多少人数が増減しても、同室の子ども達は不審に思わなかったようだ。
「間違って外に出ちまったんじゃないのか?」
「このシェルターは職員以外が自由に出入りすることは出来ません。ホールの外扉は常時ロックされていて権限がないと開けられないんです。ましてや、子ども達だけでウロウロしてたらすぐに見つかります。監視カメラもありますから」
「現に居なくなってるじゃねーか」
「そ、そうなんですよね……でも、もし誤って出ただけなら近くにいるはずですし……」
もう怒鳴りはしないが、江之木は不機嫌さを隠そうとしない。向かいに座る杜井達を睨みつけている。
保護対象者の管理はシェルター側の義務だ。協力者として、きっちり役目を終えてきた江之木やさとるには怒る権利がある。だが責任を追及する前に、とにかく行方不明の二人を探さねばならない。今や外の世界は安全とは言い難い。いつどこで何が起こるか分からないからだ。
「それと、シェルター職員が一名居なくなってまして現在調査中です。時期的に、二人の件で何か関わりがあるかもしれません」
そう言って差し出された書類には一人の男性の顔写真と略歴が書かれていた。
尾須部 とうご。
二十代後半の青年で、シェルター内での未成年者教育要員として採用されたうちの一人。もちろん事前に身辺調査は済んでおり、偏った思想の持ち主ではないとされている。
しかし、彼の写真を見て江之木が反応した。
「──コイツ、どっかで見たような……」




