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特攻列島  作者: みやこのじょう
第四幕 死闘
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第四十四話・拠点襲撃

挿絵(By みてみん)

 役場跡地は鉄筋コンクリート製の建物である。

 周辺の民家に比べると大きいが、島の住民以外から見れば小さな施設だろう。その程度の規模だ。だが、民家に比べて造りが頑丈で余分な間仕切りが少ない。それに、島のメインストリートの突き当たりにある。真っ直ぐ南下すれば港という、拠点を構えるには適した立地といえる。


 その役場跡地付近では、四、五人の武装した兵が銃を構えて巡回していた。


 彼らが『作戦前の物資調達と気晴らし』で島から出ていた一日足らずの間に山頂に配備した兵器が破壊されてしまったからだ。残しておいた見張りが誤って壊したという可能性もあった。だが、見慣れぬ船が停泊しており、島内を不審な車が走り回っているという報告も届いている。明らかに侵入者の仕業。

 最早任務を遂行することは叶わないが、邪魔立てをした侵入者を皆殺しにするまでは本隊への帰還もままならない。


 全員が殺気立った状態で()()()()()()()()






 住宅街の建物と建物の隙間を注意深く通り抜けながら、さとるは役場跡地に向かっていた。


 無人島になって数年。

 庭木や雑草が伸び放題で、狭い路地は視界が悪い。それはつまり、相手からも見えづらいということ。時折蜘蛛の巣に引っ掛かりながらも、出来るだけ音を立てないように気を付けながら一歩一歩進んでいく。


 このルートを考えたのは、ゆきえだ。


 最短距離で見つかりにくい道と目印を教えてくれた。島の地理など何一つわからないさとるは、その言葉に素直に従った。


 指定されたルートは役場跡地の一本裏にある舗装されていない道、その脇にある幅の広い側溝だった。

 先ほどの地点で三ノ瀬(みのせ)と別れてから住宅街を突っ切ってこの側溝を目指し、役場跡地付近までこの中を通って移動する。屈めば遠くからでは姿が見つかる心配もない。堆積した土砂が足音を消してくれている。

 その側溝の分岐が目印だ。ここで外に出て山を背にすれば目的地の真裏に着く。


「ほんとに見つからずに着いた……」


 さとるは昂ぶる気持ちを抑えるように服の胸元をぎゅっと掴んだ。

 戦いを前にして興奮しているのではない。安全なルートを示してくれたゆきえに対する尊敬や感謝の気持ちが溢れ出しているのだ。ここで結果を出せば、ゆきえは褒めてくれるだろうか。頭の中を支配するのはそればかりで、これから自分がやろうとしていることに何一つ疑問を抱くことはなかった。


 前方約十メートルの位置に建つ役場跡地。

 茂みに隠れて更に近付き、割れた窓から内部に向かって手にした塊をぶん投げた。そして、すぐに窓枠より下に身体を屈める。

 さとるは三ノ瀬から小銃(ライフル)だけでなく、手榴弾も数個受け取っていた。山頂で使ったものとは形が違うが使い方はほぼ同じ。それを背嚢(はいのう)に全部突っ込んで担いでいる。


 建物の裏手から手榴弾を投げ込み、中に居た者達を全員外へと追いやる。それがさとるの役割。


 不審車を気にして表の道路だけを見張っていた敵方の兵士達は完全に虚を突かれた。爆発音と悲鳴が響く。手持ちの手榴弾を使い果たすまで投げ続け、その後は再び先ほどの側溝まで戻った。


 一方、役場跡地から命からがら逃げ出した数人は銃弾の雨に曝されていた。二百メートルほど離れた場所から身を隠した三ノ瀬が機関銃を乱射しているからだ。あちらから狙い撃ちされないよう身体を伏せた状態で撃っている。


「やっば、これはハマるかも〜!」


 何人かには当たったが、それでも一網打尽にするには弾数が足りない。連射状態は長くは続かず、すぐに打ち止めとなった。弾切れの機関銃を放棄し、三ノ瀬は民家の塀の陰に逃げ込んだ。


 銃撃が止むと、辛くも難を逃れた残りの二人が反撃を開始した。三ノ瀬のほうに狙いを定め、一気に距離を詰めてくる。


 前方だけを見て銃を構え、前進していた彼らの真横から銃弾が襲った。民家の間から小銃を撃ったのは、さとるだ。弾はひとつも当たらなかったが、彼らの気を引き、一瞬足を止めることには成功した。


「さとる君ナイス!!」


 ここまでは計画通り。

 その隙をついて、機関銃から小銃に持ち替えた三ノ瀬が物陰から二人を狙い撃った。こちらは全て命中し、二人の兵士はひび割れたアスファルトのど真ん中で崩れ落ちた。

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