表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
特攻列島  作者: みやこのじょう
第四幕 死闘
41/102

第四十話・動く囮

挿絵(By みてみん)

 車は身を守る鎧。

 しかし全ての攻撃を防いでくれるわけではない。


 側面のドアには鉄板が仕込まれているが窓は補強出来ない。フロントガラスは砕けにくいが銃弾を喰らえば貫通する。サイドの窓ガラスは緊急脱出用に割れやすく出来ている。タイヤもそう。無人島の管理されていない道路には様々なものが落ちている。鋭利ものを踏めばすぐにパンクしてしまう。


 右江田(うえだ)のオフロード車は頑丈な作りをしているが、ここに来るまでにダメージを受け過ぎた。一時避難のつもりで突っ込んだガレージから出発しようとするが、どうも調子が悪い。エンジンから正常ではない振動を感じる。何発も衝撃や銃弾を受けたことでガタが来たのだろう。


 乗り続けるには心許ないが捨て置くには勿体ない。そこで最後に一役買ってもらうことにした。


 バックでガレージから出し、狭い路地から広めの道路へと戻る。そしてギアをドライブに入れ、サイドブレーキを引かずに車から降り、すぐに近くの建物の陰に身を隠した。


 すると、オフロード車は無人にも関わらずゆっくりと前進していった。

 AT(オートマ)車はアクセルペダルを踏まなくても車がじわじわと進む。ハンドルを握る者がいなければいずれどこかにぶつかる。大きな音を立てれば、それだけで敵の注意を引き付けてくれる。


 動く車を(おとり)にして、右江田は息を潜めた。


 数十メートル先でガシャンと金属がぶつかる鈍い音が聞こえた。その少し後に何発かの発砲音とガラスが割れる音が響いた。敵の人間が一人、囮の車に引っ掛かったのだ。


 民家のブロック塀に衝突して止まるオフロード車。その内部を調べようと近付く軍服姿の男に背後から忍び寄る。不規則なエンジン音が靴音や気配を消してくれた。男が車内を覗きこもうとした時に出来た隙を狙い、右江田は握っていた黒い棒を勢いよく振り下ろす。


 ジャキッと音を立てて伸びた警棒の先が右肩を砕いた。男が慌てて振り向くと同時にもう一度思い切り叩きつける。喉奥から絞り出したような低い呻きを上げ、男はその場に蹲って動けなくなった。

 地面に落ちた小銃(ライフル)を拾い、男の身体に銃口を突き付ける。





()()()()()()()()って言われたんで」





 超至近距離からの一発。

 それだけで男は物言わぬ屍となった。


「あー、やっぱ銃やだ。こんな危ないもの持ち歩くのとか無理。三ノ瀬(みのせ)センパイは何でこんなの好きなんだろ……あーあ、他にも何人か居るよなあ。多奈辺(たなべ)さんも早く見つけないと。港に着いた時に一緒じゃないと怒られる……」


 山を背にして進めばいずれは海に辿り着く。

 直線距離でおよそ三百メートル前後。


 ブツブツと独り言を呟きながら、右江田は小銃を近くの民家の庭に放り投げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ