第三十一話・破壊の号令
五台の車が校庭の真ん中に鎮座するトラックに向けて止められている。それぞれ自分の車の運転席に座り、シフトレバー横のボタンに手を掛けていた。
ボタンを押せば、助手席からエンジンルームに突き抜けて設置されている無反動砲が発射される。この無反動砲は助手席に固定されているので、あとから照準を合わせることは不可能。車高の高さは車によって違う。操作自体は簡単だが、狙いたい場所に角度を調整出来ない、という欠点がある。
そこで欠点を補うための案が出された。
車を一台犠牲にして起爆剤とすること。
「よし、撃て!」
安賀田の合図で五人はボタンを押した。
カチッとボタンの沈み込む音がした後、助手席に設置された金属の箱が震えた。次の瞬間、車体が揺れるほどの衝撃と共にフロントグリルを突き破って何かが射出された。車内に火薬と金属の焼けたようなにおいが充満する。
それぞれの車から飛び出した無反動砲の砲弾は、軌道上に煙を残しながら前方の軍用トラックと軽自動車に全弾命中した。
安賀田と右江田の砲弾は狙い通り地対艦ミサイルが積まれた軍用トラックの荷台部分に、車高の低い三ノ瀬、ゆきえ、多奈辺の砲弾は手前に置かれた軽自動車に。幾ら鉄板で強化していても無反動砲は防げない。砲弾は車体にめり込み、そこで爆ぜた。
燃料タンクから気化したガソリンに引火して小規模な爆発が起き、次に車体の下から火の手が上がった。炎が車内に置かれた手榴弾を焼く。テーピング用テープが焼き切れ、レバーを固定するものが無くなっていく。
ドン、ドンと破裂音が響き、時間差で手榴弾が爆発した。開け放たれた車のドアから無数の金属片が飛び出て荷台を襲う。それでもまだミサイル本体の破壊には至らない。射出用の筒が頑丈過ぎるのだ。
ミサイル本体が破壊出来なくても、発射装置が機能しなくなればいい。そのためには、可能な限りダメージを与えなくてはならない。
「まだ足りないか……!」
無反動砲は撃ち尽くした。
手持ちの手榴弾もほぼ使い果たした。
考え得る限りの手段を講じたが、これで任務完了と判断するには早い。
安賀田は燃え盛る軽自動車と、多少表面に傷がついただけの軍用トラックを見つめ、眉間に皺を寄せた。
彼には実行部隊を任された責任がある。
なんとしても結果を出さねばならない。
ふと視線を落とし、自分の乗っているSUV車を見た。ここにある車の中で右江田のオフロード車の次に頑丈な作りをしている。
「……、……そうだな、それしかないか」
ぐるりと周りを見れば、不安そうにトラックを見つめる仲間の顔が目に入った。彼らに新たな指示を出し、活路を見出すことこそが自分の役割だと安賀田は強く思った。
『安賀田さんには、戦争で先陣を切って戦っていただきたいと考えております』
勧誘に来た際、真栄島はそう言った。
まだその期待に応えられていない。
「右江田君。済まないが、みんなを連れて先に山を降りてくれないか」
安賀田は車の窓を開け、隣の右江田に声を掛けた。
「安賀田さんは?」
「私はもう少しあのトラックを壊してから追い掛けるよ。多奈辺さんの車はもう走れないだろうから、君の車に乗せてほしい」
「それは、全然構わないっすけど」
「のんびりしてたらここの責任者が戻ってくるかもしれない。下に行ったら真栄島さんの指示に従って」
「あ、そか。わかりましたッ!」
そのやり取りを後部座席にいたさとるも聞いていた。安賀田がやろうとしていることを察したが、何も言えなかった。




