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特攻列島  作者: みやこのじょう
第三幕 決行
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第二十六話・情報収集と時間稼ぎ

挿絵(By みてみん)

 車から降りた安賀田(あがた)は、悠々とした足取りで校舎へ向かって歩き出した。武器は手にしていない。全くの丸腰の状態だ。


 服装は背広。無人の離島に似つかわしくない、どこからどう見てもごく普通のサラリーマンである。招集にあたり『動きやすい服装で』と言われたにも関わらず、これしか浮かばなかったからだ。

 私服よりも着慣れた背広は彼にとっての戦闘服。戦場には不釣合いでも、気合いを入れて大仕事に挑むにはこの格好以外に有り得ない。


 ガガガッと連続した銃声が響き、目の前の地面が何ヶ所か抉れ、砂埃が舞った。威嚇射撃。あちら側はライフルのような武器を所持していることが判明した。


 当たれば命に関わる。銃口を向けられ、内心ヒヤヒヤしながらも、安賀田は表情を変えずに歩き続け、校舎から二十メートル程の位置まで近付いた。



『失礼。ここの()()()()()はいらっしゃいますか』



 声を張り上げ、日本語ではない言葉で流暢に語り掛ける。

 これにはあちらも驚いたようで、割れたガラス窓の隙間から向けられていた銃口が空を彷徨い、一旦降ろされた。

 それを見た安賀田はにこりと笑みを浮かべ、更に言葉を続けた。



『船の故障で港への停泊を許可してもらったので御礼に来ました。よろしければ責任者の方に直接ご挨拶させてください』



 口調も物腰も柔らかいが、有無を言わさぬ強さがある。校舎内にいる者たちの困惑した気配が感じられた。


 自国の言葉で丁寧に話し掛けられれば問答無用で撃つような真似はしづらい。しかも相手は責任者を指定して呼んでいる。下の者が無断で攻撃をするわけにはいかない。そう考えているのだろう。


 安賀田の勤める会社はアジアに広く展開する自動車部品メーカーで、海外に幾つか工場を持ち、国外のクライアントも多い。妻の難病発症前は直接海外に赴いて担当者とやり取りしたこともあり、数ヶ国語の日常会話は可能。

 船での移動中に乗り込んできた男達や、上陸直後に一人を制圧した際にどこの人間かを把握し、その国の言葉で語りかけているのだ。


 それに、迂闊に危害を加えれば後ろに控えている強面の右江田や銃を構えた多奈辺が動く。それを恐れ、相手は下手に動けない。


 返事がないことでハッキリした。

 現在ここに敵方の責任者はいない。

 残っているのは見張りだけ。


 つまり、地対艦ミサイルの発射権限がある者がいないと言うこと。


 無防備な状態で敵の前に姿を晒したのはそれを確認するためだけではない。

 実際にミサイルが積まれているトラックを見て、三台のロケットランチャーのみでの破壊に自信が無くなった。故に、別ルートから来るであろうゆきえ達の到着を待っていたのだ。


 情報収集と時間稼ぎ。

 彼は一人でそれをやっていた。


 校舎の裏手から近付いてくる複数の車のエンジン音を聴きながら、安賀田は小さな声で呟いた。



「……君らも同じ境遇なのかもしれないけど、私達にも事情がある」



 窓の隙間から見えた人影。

 安賀田には彼らの姿が見えていた。

 軍服ではない。

 訓練を受けた様子もない。

 言われるがままにここを守るだけ。

 予定外のことが起きれば動けない。



『そこから出なければ怪我をせずに済むと思いますよ』



 深々と頭を下げてから踵を返し、安賀田は来た時と同じように悠々と歩いて自分の車へと戻った。

 撃たれないと確信しているわけではない。堂々とした態度で居ること、不安な気持ちを悟られないこと、それが自分を守る盾になると分かっているからだ。


 安賀田が車に乗り込むとほぼ同時に、裏手の道から三台の軽自動車が校庭になだれ込んできた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 安賀田さん、味があるな~ [気になる点] もう少し、相手の見えない身体の部分に緊張の印を強調してもいいかも。 相手から見える部分と見えない部分の差異が、大きければ大きいほど、安賀田さんの心…
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