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特攻列島  作者: みやこのじょう
第二幕 招集
21/102

第二十一話・ウォーミングアップ

挿絵(By みてみん)

 上陸予定の島が近付くにつれ、協力者達は口数が減っていった。それぞれ船壁にもたれたり、車の座席に座ったりして身体を休めている。


 そんな中で、ひとり柔軟運動をする者がいた。一番若い協力者、井和屋(いわや)さとるだ。彼は畳スペースで腕立て伏せや腹筋、屈伸などを黙々と続けている。



「さとる君、休まなくて大丈夫かい」

「さっき少し寝たんで目が冴えちまって。それに、俺が一番手榴弾を遠くに投げれると思うんで、肩あっためておかねーと」

「そうか。それは頼もしいな」


 見兼ねて安賀田(あがた)が声を掛けると、さとるはニッと笑って答えた。返事をしながら肩を回している。


 手榴弾は重い。訓練もなしに投げられるものではない。実物を手にして実感したからこそ、さとるは少しでもコンディションを整えて本番に備えているのだ。



「ふむ。なら、私のぶんも任せようかな」

「えっ」

「君が持っていた方が役に立ちそうだから」



 そう言って安賀田は自分の車に積まれた手榴弾を持ち出し、さとるの車に積んだ。


 既に車の割り振りは済んでいる。運転歴の長さや元々乗っていた車の車種を考慮して決められた。


 安賀田はSUVスポーツ・ユーティリティ・ビークルだ。他の車種より車高が高く、悪路でも走行可能。フレームも頑丈に作られている。多少の障害物なら無視して突っ込める。


 それに対し、運転歴の浅いさとるに充てがわれたのは軽自動車だ。車体は小さい。小回りは利くが段差や衝撃に弱く、先陣を切らせるには頼りない。だからこそ、手榴弾を渡して後衛を任せることで戦力のバランスを取ったのだ。



「……こんなに俺が持ってていいのかな」

「はは、そんなに気負わなくても」

「いやだって、よく考えたら手榴弾投げる場面てそんなに無くないですか? 俺ら車で突っ込むんでしょ?」

「うーん、それもそうだ」



 手榴弾を持たされたのは作戦に必要な武器だからではない。自衛隊の在庫を誤魔化して持ち出せたのがコレだけだったからだ。遠距離から狙撃できるようなライフルなどは一切ない。


 せっかく任されるのならば無駄にはしたくない。数だけあっても使わずに終わったら意味がない。安賀田の好意を無駄にしたくはないと、さとるはそう考えていた。



「実際手榴弾がどんなものかも分かってないからね。真栄島さんたちに仕様を詳しく聞いてみようか。何か有効な使い道があるかもしれないし」

「はいっ」



 そのやり取りを視界の端に入れながら拳銃を手にしているのは多奈辺(たなべ)だ。思うように肩が動かせないため真っ先に手榴弾を放棄し、さとると右江田(うえだ)に全て譲渡済みだ。その代わりに拳銃を貸し与えられている。ずしりと重いそれを色んな角度から眺める。


 協力者最年長の多奈辺だが、戦後生まれだ。もちろん戦闘経験は皆無。穏やかな性格で、これまで他人に危害を加えたことはないし、そうしたいと思ったことすらない。銃は他人を傷付ける武器だ。当たりどころが悪ければ命に関わる。そんなものを果たして扱えるのか。多奈辺は自問自答を繰り返していた。


 やらねば日本が戦場と化す。


 孫娘のひなたはシェルターで保護されているが、万が一戦争に負けたらどうなるか。日本政府が管理出来ない状況に陥れば無事では済まないはずだ。


 ひなたを守るためならば、誰であろうと撃つ。


 多奈辺は腹を決め、撃ち方のイメージトレーニングに没頭した。






 畳スペースでは、ゆきえが島の地図を食い入るように見ていた。


 協力者の中で一番非力なのは女性であるゆきえだ。それ故に敵対者から狙われる可能性が高い。割り当てられた車は、さとると同じ軽自動車である。狙われたらひとたまりもない。だからこそ行き当たりばったりな行動は出来ない。


 協力者を率いるのは安賀田だ。先程済ませた打ち合わせで、上陸後の動きは大まかに決まっている。しかし無策では作戦の成功率に関わる。決行中に地図を確認する余裕はない。

 ゆきえは島にある道を全て頭に叩き込んだ。

登場人物紹介を挟んで次章に移ります

いよいよ特攻開始です

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