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特攻列島  作者: みやこのじょう
第二幕 招集
20/102

第二十話・芝居と交渉

挿絵(By みてみん)

 目的地到着まであと僅か。車の運転席や畳スペースなどを使って七人は体を休めていた。


 そんな時、突然真栄島(まえじま)の携帯電話が鳴り響き、全員の視線が集まった。発信者は船を操縦しているアリだ。



「緊急事態です。敵国の巡回船に見つかりました。念の為、堂山(どうやま)さんと三ノ瀬(みのせ)以外は身を隠してもらいますよ」



 船内に緊張が走った。


 だが、このような事態はもちろん想定内だ。真栄島と右江田(うえだ)は道具箱からロープを出し、ゆきえと三ノ瀬を後ろ手に縛り、口に布を噛ませた。



「カモフラージュです。怖がってもいいですが、何があってもここから動かずにいてください」



 突然の事にゆきえは狼狽するが、隣で縛られている三ノ瀬が目を細めて笑う様子を見て気持ちを落ち着けた。縛り上げた後、男性陣はそれぞれ車の後部座席に乗り込み、積んであった毛布を被って身を隠した。


 数分後に船が止まり、何人かの男達が乗り込んできた。中からは見えないが、船を横付けして飛び乗ったのだろう。明らかにカタギの人間には見えない人相だ。彼らは荒い足音を立て、船内を見回している。


 そして、ついに隅の畳スペースで縛り上げられているゆきえと三ノ瀬の姿を捉えた。



「……ッ」



 目の前に現れた見知らぬアジア系外国人の男達に、ゆきえは体を強張らせた。三ノ瀬も身を捩り、少しでも距離を取ろうと試みる素振りを見せた。


 男達がニヤつきながら二人に近付こうとした時、間に作業着姿の男が割って入った。アリだ。彼はどこの国か分からない言葉で彼らを制し、笑いながら懐から封筒を差し出した。中身を確認した男達はそれを自分の服のポケットにしまい込み、アリに軽く手を挙げて船から降りていった。



「はいはーい、もう大丈夫だよー」



 横付けされた船が離れたのを確認してから、アリは車のドアを叩いて回った。のそのそと男性陣が降りてくる間に堂山と三ノ瀬の拘束を外す。



「いやあ、危なかったね。アリ君がいて助かったよ。あの人達は納得してくれたかい?」

「日本車の密輸だって言ったらスグよー。あっちの組織の名前出したからヘタに手出しされないしねー」



 積んでいる車は盗難車と偽ったらしい。日本車は外国で高く売れる。ここにある車は中古車だが状態は悪くない。助手席や後部座席を見られる前に相手を言いくるめて立ち去らせたのはアリの手柄だ。



「堂山さんも、怖かったでしょう」

「は、はい。ビックリしました……」

「車だけだと怪しまれるので、二人にも一役かってもらいました」

「そーそー。二人とも可愛いんで、人身売買組織に売っ払うってコトにしたんだよー。怯えっぷりもリアリティあって良かったよー」

「は、はあ……」



 笑いながら、アリはまた操舵室へと戻っていった。それを確認してから、真栄島は小さく息をついた。



「彼は日系二世でね、ご家族の保護と引き換えに我々に手を貸してくれている。元々怪しい商売をやってたからか、こういった事に慣れてるんですよね」

「そうだったんですか……」

「あの、それって彼の祖国と戦うってことじゃないですか。大丈夫なんですか?」



 裏切りを警戒して尋ねると、真栄島はにこりと笑った。



「日本が負ければシェルターにいる家族の身が危うくなる。だから、アリ君は命懸けで協力してくれます。貴方がたとなんら変わりませんよ」







 敵対国が密かに支配する海域に入った。


 その後も何度か船を横付けされたが、その度にアリが積み荷を説明し、賄賂を渡して見逃してもらった。そのうちあちら側も情報を共有し始めたようで、船内に乗り込んでまで中を確認される事はなくなった。


 見た目は廃船寸前、積み荷は中古車数台と女二人だけ。目立つ機器や武器はない。それが警戒を和らげる一因になっていた。


 それでも気を抜いたらどうなるか分からない。妙な緊張感の中、協力者達は目的地に着くまでじっと身を潜めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうなることかと思いましたが、良かった! アリ君の状況もわかり、皆同じ気持ちで敵地に向かっているのですね。
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