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特攻列島  作者: みやこのじょう
第二幕 招集
14/102

第十四話・別れ 後編

挿絵(By みてみん)

 保護対象者はここでバスから降ろされた。


 外からは無骨なコンクリートの壁にしか見えなかったが、内部は意外にも綺麗な造りをしていた。扉も機械で制御されており、片隅には監視員の詰め所らしき小部屋まであった。様々な配管が壁添いに張り巡らされ、それらは全て地下へと伸びていた。


 シェルター職員の女性が車内に乗り込み、寝たままのみゆきをゆきえの手から預かった。そっと抱き上げ、小さなリュックと着替えの入ったカバンを一緒に受け取る。体が離れる瞬間ゆきえは辛そうな顔をしたが、すぐに笑顔を取り繕い「お願いします」と頭を下げた。


 ひなたとみつるは荷物を抱え、自分の足でバスから降りた。ひなたは涙を流していない。祖父の多奈辺(たなべ)が必ず迎えにくると約束したからだ。年下の女の子が泣いていないのだから、みつるは泣くわけにいかなくなった。兄のさとるをこれ以上困らせないよう必死に堪えている。


 ちえこは一旦右江田(うえだ)が抱きかかえて降ろし、専用の車椅子に移された。医療スタッフらしき白衣姿の女性が数名迎えにきている。それを見て安賀田(あがた)は安堵の溜め息をついた。


 協力者の四人は車内に残り、窓から家族の姿を名残惜しそうに見下ろしている。これが最後だ。



「では、出発します」



 運転手の合図で扉が閉められた。


 ひなたが大きく手を振り、多奈辺も小さく振り返した。みつるはただ立ち尽くして、寂しそうに笑う兄を見つめるしか出来なかった。みゆきを抱いている女性職員が窓のそばにきて寝顔がよく見えるように向けてやると、ゆきえは泣き笑いの表情で何度も「ありがとう」と繰り返した。安賀田はもう妻のほうを見ることが出来ず、自分の席でじっと俯いて座っていた。


 マイクロバスが走り出した。ホールから出て、再び山間の道を通る。


 協力者達はまだ行き先を知らない。共に乗っている勧誘員の三人も同じ作戦に参加するということも知らない。



「皆さん、これから我々は海に向かいます。最寄りの港ではありませんが、それほど遠くもありません」



 真栄島(まえじま)の説明を聞いて、安賀田は頭の中の地図を呼び起こした。


 移動中、別に目隠しをされていたわけではない。高速道路のどこで降り、どの方面にどれくらい走ったかは覚えている。つまり、現在のおおよその位置は把握している。住んでいる地域には大小幾つか港がある。最寄りではないということは……という具合に予測していく。



「もしや目的地は登代葦(とよあし)港ですか」

「おや、分かりましたか」



 安賀田の予測は当たっていたようで、真栄島は驚いていた。他の三人はキョトンとしている。


 登代葦は海に面した地方都市だ。行き先は工場地帯に隣接された工業港で、一般にはあまり知られていない。安賀田はたまたま仕事柄その場所を知っていた。



「今からその港へと向かいます。おっと、まだお昼を食べていませんでしたね」



 サービスエリアにあるフードコートで食事と休憩を取った。


 家族を安全な場所に預けられたことで、協力者達は精神的に安定している。別れの時は辛かったようだが、今は安心感の方が強い。


 車外に出る際には、真栄島や運転手が一人一人にさり気なく付き添うようにしていた。念の為の見張りだ。しかし、誰も錯乱したり逃亡を企てる気は起こさなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まだ明確に死が見えてないものね。 覚悟を越すほどの錯乱は起きないよね~。 これからでございますな( *´艸`)
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