第0話 男
【更新遅れてしまい、申し訳ありませんでした!】
今作品は本編を元に、より完成度を高める為に改稿を重ね。世界観の諺解を目指したものになります。
故に、内容が多少変化され、ボリュームアップされていますが、今後とも宜しくお願いします!
【前書き】
作者は同名で主に「カクヨム」で活動しています。
「小説家になろう」では自信作をピックアップし、投稿しています。
なので、他作品も閲覧したい方は「カクヨム」にて。
2062年――栄華と狂乱の時代。
世界の中心的存在である聯邦は、宇宙産業と謂う名の巨大科学を新たに計画・実施した。
その計画の源流は、2019年には既に存在し、実現可能でもあった「スカイフック」或いは「テザー推進」と呼ばれる方法。
宇宙空間に巨大な振り子を作り、宇宙船を投げ飛ばすと考えてもらえば判り易いだろう。
聯邦はその方法を利用し、貴金属や未知の資源を含めた、太陽系の資源を驚異的な早さで集め始めた。
先ずは火星、次に水星・金星という順に、徐々にその範囲を広げ、近々火星に人が送られるという話もある。
人々はそれをアポロ計画の続きだと賞賛し、その未来に夢を見た。
然し、他国からすれば面白い話ではない。
当然。諸外国共々、挙って手を出し始め、再び科学競争が始まったと思われた――が、然し。この計画にはテザーを利用する為に専用のシャトルを造る必要があったのだ。
加えて、テザーを利用する際にも多少の難点があり、それを解決するには時間も費用もかかった。故に、聯邦政府・NASAはそれを踏まえて事前に設計、建造、実行し、一時的な独走状態へと持ち込んだ。
その計画は大成した――
そして、この事変は聯邦を大きく変えた。
高度成長期の訪れと、第二次冷戦――新たな技術戦争の幕開けだ。
当然、社会環境も変わり。適正技術とされるものは日々進歩し、人口の増加率も上昇に傾向している。
そして、聯邦の経済は世界に影響する為、今回は世界経済が潤い。発展途上国が増加、世界の平均“ 国内総生産“は高まり、人類は新たな世界を迎えようとしていた。
然し、栄華ばかりで済むほど世界は甘くない――新たな問題が擡頭するまで、そう時間はかからなかった。
時代が動く時、活気付くのは犯罪者も然り――と謂うように。犯罪のレパートリーに科学技術を用いた多様性が生まれ、政府はその対応に追われるようになった。
だが今は、人も技術も発展に発展を重ねる時代。数のある変質的犯罪に、対応策を講じる時間すら惜しまれた。
そこで政府は原書に還った――つまり、罪刑法定主義の起源とされるハンムラビ法典の、同害刑に基づく法を施行したのだ。
ソレの名は『即時死刑執行権』――通称『I.Ex.P』
然しソレも、刑罰の限界を定めるという元来の同害報復とは違い。重犯罪者には死を以て償わせるという曲解の下、歪な姿形になって発現してしまったのだ――或いは、意図的にそう書き換えたのだろう。
即時死刑執行権は当時、高度成長期に乗じて警察国家を目指そうとした聯邦にとっては、大きな賭けであった筈だ。
然し、それでも施行されたのは実験的な意味合いも兼ねていたのだろう。
即時死刑執行権は始めからその姿で完成していた。そして聯邦政府は、州に権限を与え、実験的に幾つかの州に施行させたのだ――それも、州に多額の報酬を与え、都市開発に協力するという形で。
執行権限は警察と、法施行と同時に独立される特捜部に与えられ。対象の重犯罪者を「その場で死刑執行する権利」を与えた――人の手に余る“同害報復“だ。
無論、それが悪法かどうかは人によって違うだろう。事実、例外を除けば施行した殆どの州の犯罪率は低下している。「傷付けなければ、傷付けられない」ある意味では、新たな相互監視社会とも謂えるだろう。
――だが、事実はそれだけで終わらない。
『人殺し』が法によって正当化されるという異常――それに反対する無法者と市民に、もはや境界など無く。度重なる報復の波が、犯罪者を尚も生み出し続けている“事実“。
人々には贖罪する猶予も、死者を悼む猶予も与えられていない。
未だに皆、進化に追いつくのに必死で、他人の気持ちを理解する為に時間を割けないでいる。
人類は進化することで孤独になったのだ。
進化と堕落が混ざり合い、下水の様に澱む世界――冷雨降る夜中に男が独り。傘もささずに、特捜署の前で小さく、佇んでいた。
靴に付着した暗赤色の液体が、冷雨によって洗い流され、男の視線はそれを待つかのように下へと垂れ落ちている。
終夜灯の冷光を反射する瞳に力は無く。表情筋による皺も少ない。
色褪せたガンベルトを付け、人工革で造られた長い外套を纏い、黒茶色の無精髭と髪を濡らす――時代遅れな体裁の男。
その男の名は『ゲライン・A・シェダー』
職業は特捜――犯罪率を下げる為に、即時死刑執行権を施行した州。その“例外“であるKinkCityに住み、当然殺した犯罪者は数知れず。
その中に市民が居たかどうかにも、既に興味を示さなくなっている、恒常性を保った男。
大それた目標や、多額の資金・借金がある訳でもなく。時折、奇人が起こす奇事を、銃を用いて終わらせる、善人ではない人種。
人殺しに慣れてしまった男は、飛行車のテールランプ、キャバレーの終夜灯、ビルのガラスに反射する朝日までもが、全て色褪せ、淡く視えるようになってしまっていた。
靄の様な幻――若しくは、テレビの中の映像の様に、現実味のない三人称で描かれる世界。それも、ブラウン管テレビの様な、淡々とした、つまらないものに。
『“生きているだけの人間“』
いつしか男はそうなってしまい、外道に逸れた事もあった。
男自身、生きる意味を失いかけていたのだ。
死生の波に晒されすぎた人間の末路は、何時の時代も変わらない。
然し、未来を見ない男には予想以上の因果が待ち受けていた。誰も予想し得なかったような、不自然・不条理極まりない怪事。
――世界と人の在り方を改変する怪事。
同害報復環世界の本質が、宙の裏から待ち構えていたのだ。




