Act.2 目指せ北端 Part.2
12月18日。
船坂美智子以下5名は授業が終わり次第すぐ様部活の車に乗り込み、六天空港に到着した。そこから約2時間程飛行機に乗り新千歳空港に着地。更に約50分フライトして根室中標津空港に降り立った。
かつては根室港からのフェリーでしか北方領土には行けなかったのだが、去年の領土共同統治後からはそこから小型飛行機を乗り継ぐことにより行けるようになっていた。船坂達は武器や装備を運ぶ為、財閥所有の小型機に乗り換えた。噂によれば、北方領土でもさも当然の如く日露両方の傭兵が武装トラックを乗り回しているので心配は無いという話だったが、念には念を押すのが船坂の流儀だった。船坂、そして部員達はここまでは和気あいあいとして他愛も無い話に華を咲かせていたが、ここからは皆一様に黙り込んでいた。
国後海峡を超え、国後島の上空を飛ぶ。眼下には白い自然の中に、疎らに散らばった原色の屋根の集まりが光に照らされて見えた。択捉島も似たような光景だったが、中心部である紗那村だけは僅かながらに発展していた。
「気をつけろよ、お前ら」船坂は静かに呟いた。「何がいるか、分かったもんじゃない」
ジェット機はヤースヌイ空港に着陸した。部員達が想定していた以上に規模があり、滑走路にはロシア兵が隊を組んで行進していた。
「Su-35だ!」開口一番、佐織が隣に止まっている戦闘機を指さした。どうやら軍民共用の空港らしい。とはいえ自衛隊は疎か付近には日本の警察官すらいない。部員達は自らの置かれた状況に戦慄し、鈴菜と白夜は思わず手を握りあった。
「これはこれは。船坂美智子じゃないか」
荷物を下ろしていると、1人の白髪の男が声を掛けてきた。ロシア陸軍の制服に夥しい数の勲章が光を放っている。
「そのような…ガンケースでしたかな?を持って…。我々とイクサをしに来たのかな?」
「まあたまた。こんな娘達を連れて来るわけないじゃあないです。部活だあよ部活。私の本業は教師ですだ」船坂はロシア語で返した。部員達には意味が分からなかったが、船坂が極力丁寧に返答していること、また酷い訛りだということは一瞬で理解出来た。
「そうですか。是非とも観光を楽しんで下さい。ここは素晴らしい場所ですよ」
白髪の老人はそう言って向こうに行った。
「ヴァルカン・ドラゴヴィッチ。択捉島防衛司令官か…。ご苦労なこった」船坂は苦虫を噛み潰したような顔で呻いた。
「不味いな。出だし早々、私達の正体を知っている奴が来ちまった」
マリアはそれを聞いて、ロシア兵に分からないように僅かに驚いた。
「何故知っているのです?あと、船坂先生はあの老人のことを…」
「ロシア軍で1番日本について詳しい。極東情勢の専門家、『ロシア帝国日本侵略委員会』会長みたいな奴だ。我々が女性軍事情報誌で特集されたぐらい知っているだろうよ。あーあ!」
船坂が突然叫び出したので、ロシア兵が2人掛けてきた。可憐と鈴菜は「何でもありません。更年期なんです」と嘘をついて追い返したが、船坂は可憐と鈴菜の頭を思い切りこずき、更に不満そうな声を上げた。
「それになんだ、『ここは素晴らしい場所ですよ』って。ここがロシアの土地みたいに言いやがる。Ёбтвоюмать」
最後の罵倒だけは流暢なあたり、船坂先生らしいなと一同は感心したが、無論それは黙っておいた。
ロシア語はちゃんと区切ってからルビを振りたかったのだが、10文字以下じゃないとダメだったので残念。次回からドンパチするはず