Act.1 超越火力 Part.3
鈴菜、白夜、可憐が降下した。
船坂美智子は静かに息を吐き、目を閉じ1人考えた。
ここまでは上々だ。ラベリング降下は成功した。こいつらなら、本当に教祖を殺せるかもしれない。
隣のパイロットが船坂の方を向く。財閥お抱えの運転手、米兵の息子である白人、船坂の夫。
「美智子、大丈夫かい?」流暢な日本語。
「ああ、心配いらない」船坂は俯きながら静かに言った。
しかし。船坂の頭の中は葛藤で溢れていた。
果たして、自分のやったことが最大限だとしても、数ヶ月前までただの女子高生だったこいつらを生かしていけるのか?今日で全滅して終わりなのでは?敵のほうが遥かに数は多いぞ?
船坂が沈黙している間に、ヘリに残った2人の部員、柏木マリアと橘佐織は狙撃準備を始めた。マリアは日本製の双眼鏡 、TAC-36Mをバックパックから取り出す。FASTヘルメットを脱ぎ、何故かケピ帽を被る。
佐織はペリカンケースからL96A1狙撃銃を取り出し、機内に直接胡座をかき、構える。そしてマリアにアイコンタクト。
マリアが船坂に「準備完了」と報告した所で船坂は我に返った。実戦の場というのに、何弛んでいるんだ、私は。船坂は自らの頬を軽く両手で叩き、数秒沈黙した後に呟いた。
「了解。標的を捕捉し次第撃て。恐らく中にいるのは信者だけだ。皆殺しにしろ」
そして、隣に座っているパイロットにも聞こえるように「粗方撃ち終わったら、私に報告。私とマリアで残敵掃討にかかる」と言った。
振り返ると同時に射撃音。L96A1の7.62ミリが火を吹いたのだ。
それを聞きながら、船坂は黙々と準備を始める。愛銃のMk-18 mod1は米海軍特殊部隊御用達のアサルトカービン。船坂独自のツテを使い純正品を取り寄せていた。
ヘリコプター用のヘルメットからFASTヘルメットに被り替えている最中にも佐織の狙撃は続く。射撃音と排出された薬莢の響く音、マリアの「命中」という声がローター音に混ざる。
普通、観測者は双眼鏡などの光学機器を用い、狙撃手の補佐を行う。しかし佐織にはそれすら不要だったようだ。しかも揺れるヘリコプター内部で、である。
そんなまさか!そこまでだったとは!
船坂は内心佐織の技量に驚きながらも、それを一切態度に出さないように努めるのに必死だった。
大方の準備を船坂が終えたところで、佐織が「目標、確認出来ません。大体撃ち殺したか窓から隠れたものと思います」と簡潔に言った。そして補足。
「スコープから見ていましたが、先輩方の戦いぶりは正に鬼神です。残敵なんていませんよ」
マリアはそれに対し「油断は隙を生むわ。実際行かなきゃ分からないわ」と制し、船坂に「射撃終了、私の準備も出来ていますわ」とだけ伝えた。
それを聞いた船坂はパイロットに着陸を指示。建物の前に粉塵を上げてヘリコプターが降り立った。
「なんでケピ帽を被りっぱなんだ。まあいい、行くぞ!」
UH-Xから降りた船坂はマリアに指示を出し前進。予め降下組が開けていたであろう玄関から突入し、内部をクリアニングする。一種の安全確認だ。
しかし、目の前には死体のみが存在していた。
ヘルメットを被った元自衛官。教団の服を着てAK47を構えたもの。様々いたが、どれも共通点は苦悶の表情を浮かべたまま、7.62ミリ、9ミリ、5.56ミリのいずれかを受けて死んでいることであった。
船坂は自らの眼が信じられない様に驚き、すかさず他の部屋や2階を確認する。
しかしどの部屋も似たようなものであった。
そこに鈴菜からの無線が入る。
それは聞き取りやすく簡潔なものであった。
「こちら鈴菜、任務完了」。
船坂は隣を向き、死体の山の前で呆然としていたマリアの肩を叩き、自らに確かめるように言った。
「こちら船坂、了解した。ヘリは正面にある、帰投せよ」
言い終えたのち、船坂は思わず目に涙を浮かべた。
その涙には、僅かの期間でここまで成長した部員への賞賛、自らの不安が払拭された安心感、そして己が作り出した怪物達への恐怖が混じっていた。
次回は早くあげます