Act.1 超越火力 Part.2
「教祖様、お慈悲を下さい」「教祖様」
コンクリート製の建築物、教団が『聖堂』と呼ぶ神聖な場所奥深くの教祖の自室。
裸の美女4人に囲まれ、教祖こと芥子野煌聖は紫の服を脱ぎながら悦に浸っていた。
教団を結成してから早5年、様々なことがあったが今や信者数1万人。かつてこの地に本拠を構えた教団を凌ぐ勢いで勢力を拡大している。様々な説法を通して信者を獲得してきたが、それも全て今のような快楽に浸る為だ。我ながら上手くいっている。
そう思いながら芥子野は後ろを振り向く。
下品な腰使いをしながら女達が這ってくる。財閥の支社から盗んだ新型媚薬が効いてきたのだ。女達からしたら芥子野はキリスト、いやそれ以上の救世主に見えるはずだ。もしかしたら芥子野の膨張した股間しか見えていないかもしれない。
「こらこら、慌てない」
芥子野は口調こそ静かに諭すが、下半身は既に堪らないようになり、女達に向け盛大に飛び込むべく膝を曲げて構える。
そこで芥子野の服に入れてあるスマートフォンから呼出音が鳴る。完全防音の部屋にいる為、同じ屋内であっても連絡は電話であった。
「なんだ?」芥子野は上着を掴み、ポケットから出すなり不機嫌そうに応対する。
「教祖…。大変なことにな…」信者の声が爆発音や銃声で掻き消され、途切れ途切れで聞こえてきた。
「なんだ?誰が攻めてきたんだ?警察か?右翼か?」芥子野は声を荒らげる。
「いいえ教祖、傭兵です!しかも、女です!」
「女だと!」教祖は激昂する。女如きが私に逆らうのか。足にまとわりついた女を手で強引に払う。芥子野の力が入りすぎたのか、女は吹き飛び、笑いながら壁に衝突し頭蓋骨を割った。
「『白愛戦士』はどうした!元自衛官もいるだろ!?」
「は、はあ」と口に出したと同時に、鈍い炸裂音。後ろで別の信者が見つかって片付けられたようだ。信者は息を殺しながら話す。「直ぐにやられました。ここはもう…。地獄です」
芥子野は怒りに任せてスマートフォンを床に投げつける。画面が破壊される直前に、銃声が携帯から鳴り響いた。
芥子野が上着だけでも羽織ろうと動いたところで、耳を劈くような音が鳴り響き、壁の一部が吹き飛んだ。侵略者達がブービートラップの驚異をくぐり抜けるべく、穴を開けたのである。
「あわ、わ、わ」勃起させながら、口から泡を吹き、持っていた服を落とす。
女の中に一人混じっていた護衛の女がレッグホルスターに手を伸ばす。
しかし、銃を出すところまではいかなかった。5.56mm弾の雨を受け、拳銃にかけていた指を飛ばしながら倒れた。
穴の向こう側で軽機関銃を構え、射撃したのは片桐可憐。ヘルメットの上に猫耳バンドを装着している滑稽さが、アイセイフティの奥の冷たい目とギャップを作っていた。
「んんっんー!!!」声にならない悲鳴。
芥子野の前に女が2人立った。いや、女の子か?
「なんだあ、つまんないの」ヘルメットの下に白鉢巻を頭に巻いた鈴菜が思わず口に出す。手にはイサカM37。
「こんなもんじゃない?」鈴菜の隣にいるのは伊勢白夜。FASTヘルメットの上にゴーグルを装着し、ポニーテールに纏めている。逆にそれ以外は鈴菜と一緒だ。双子である。
「な、なんだてめぇら!何が目的だ!?」芥子野が叫ぶが、2人の女子高生は鼻で笑って返した。
「だってさ」「分かってるでしょ。防衛本能」鈴菜はそう言いながら、激昂したように吹き飛んだ指を探す女を散弾銃で一撃。芥子野の隣に脳髄が吹き飛んだ。この間、ずっと無表情である。
「ひえ…」芥子野は失禁しながらも、服の中から拳銃を取り出すことに成功した。ジェネシスJA-22。大教団の教祖が所持しているとは思えないほどチンケなピストルである。
しかし、鈴菜の動きは芥子野が照準を定めるどころか、「死ね!」と叫ぶことすら許さなかった。
背中の鞘から刀を引き抜き、右肩から左脇腹にかけて一閃。例え日本刀のコピーであるこの刀だろうと肋骨をへし折り、分断させることが出来るのも、鈴菜の練度の高さによるものだろう。
芥子野は断末魔すら上げる間も無く倒れた。
鈴菜の顔に芥子野の血飛沫が降りかかるも、鈴菜は瞬き1つせず、強襲に備えるように刀を構え直した。
芥子野が落とした拳銃に群がる女達。
「おっと、それは無いでしょ」と白夜は冷たく言い放ち、M4A1のセミオート。最小限の射撃で女達の頭を撃ち抜くと、刀を振るって血を払う鈴菜に一瞥。鈴菜は静かに頷くと、プレートキャリアに付けたポーチからスマートフォンを取り出し、船坂美智子に電話をかける。
はっきりと、そして僅かに誇るように。
「こちら鈴菜、任務完了」
ちょっとミスってしまいpart.3を先にしてしまった。
申し訳ない