ACT.0 PROLOGUE
あなたは何ゆえ、わたしによこしまを見せ、何ゆえ、わたしに災を見せられるのか。略奪と暴虐がわたしの前にあり、また論争があり、闘争も起っている。
(旧約聖書ハバクウ書第1章3節)
戦後、「武装解除」が明言されたものの冷戦構造に巻き込まれ、公私共に銃器が再び出回り始めた極東の平和主義国家、日本…。
日本初の経済特区にして、有史史上最大の人工島、六天シティ6区。
ラブホテル・シーサイド最上階の廊下。
肥満体の男、部屋にいる他のチンピラに比べるとまだ犯罪に慣れていない男、は見張りに回された悔しさのあまり、既に5本もハイネケンを空にしていた。
くそ、なんで俺が見張りなんぞ、中では誘拐したオンナを廻してるってのに!
そこにエレベーターが到着した。
また馬鹿な記者が来たのか。つい先日、ヤバいトコまで探り込んだ金髪ボインの記者を拘束したばかりなんだが。男は怪訝に思いつつも消音器を装着したMac10サブマシンガンを、エレベーターに向けて腰だめで構えた。誰か来たら生け捕りにしろと命じられていたので、男は脅しの意味合いを込めていた。
ドアが開く。男は「誰だ!」と言った、筈だった。
しかし目に映ったのは日本刀の切っ先。次の瞬間には、最初の「だ」を言うより速く喉元に刀が突き刺さった。口から一瞬にして血が吐き出された。
「ぐばぅ…」突然の強襲を受けた男は次に、女を見た。
刀を自分に刺し込んでいる女。セミロングの髪に白鉢巻をし、髑髏柄がペイントされたスカーフで顔を覆っているので素顔は分からないが、露出した目には鋭い光が宿っている。半袖の黒シャツの上に着込んだプレートキャリアには僅かに自らの返り血がついていた。
刀を抜くと更に血が吹き出た。意識が薄れゆく。男はカーペットの上に倒れたが、軽く音がしたのみで部屋には全く聞こえなかった。
女は倒れた男の頭に刀を突き刺し止めを刺すと、男の体をスニーカーで踏みつけ力任せに刀を抜いた。軽く刀を振るい、付着した血を落とす。その後刀を、背中にたすき掛けにした鞘に収めた。
次にエレベーターから、別の女が降りてきた。その女は刀を持っていた女とは違い、キャップを深被りし、青い半袖を着ていた。そして、ダットサイトを付けたM4A1カービンを装備。
黒シャツの女はタクティカルパンツのポケットからスマートフォンを取り出し、トークアプリを操作した。
【伊勢 鈴菜】こちら鈴菜、到着した。見張りは排除。今から突入する
それから間も無く返事が帰ってきた。
【Maria】了解。佐織ちゃんもバッチリ準備してるわ
それを見た鈴菜なる女はキャップの女に対し頷く。そして早歩きで部屋のドアまで移動した。
鈴菜は肩から提げた銃を構え、コッキング。イサカM37、木製のストックが美しい散弾銃だ。
しっかり肩にストックを固定し、下側の蝶番に向け1発。金属が吹き飛ぶ音と鈍い反動が鈴菜を襲うが、鈴菜にはそれすら快感になっていた。無論、耳栓をしっかり装着した状態で、だが。
すぐさまコッキングし、上側に向けもう1発。これでドアを破壊した。
ドアを蹴飛ばし、頭を下げる。中にいたチンピラ達はようやく自分達が襲撃されることに気付いた。一斉に腰から銃を抜くが、その内最もドアに近いところにいた1人の体に3発の弾痕。青いシャツの女が、鈴菜の肩を依託して射撃したのだ。ナイス、白夜!と鈴菜は思った。別の男は安物拳銃で乱射するも、動転している為か22口径弾は鈴菜の近くに着弾するのみ。すかさず白夜が素早い指切り射撃で頭に命中させ、脳漿を飛び散らせた。この間、僅か5秒。
鈴菜がイサカM37を肩に下げ、日本刀を取り出そうとした刹那、別のチンピラがAK47アサルトライフルを構えた姿を目にした。
「伏せて!」
鈴菜と白夜が姿勢を低くした刹那、廊下の壁にけたたましい音と共に弾痕が刻まれる。すぐさま撃ち尽くし弾切れ。相手は錯乱してそれに気付かず。鈴菜は素早くホルスターからPx4ハンドガンを抜き、チンピラをAK47ごと3発射撃し葬った。
姿勢を戻した白夜はすぐ様ベッド上のチンピラとヤクザに連射。2人は誘拐された女を囲んでいた為、それに対応する事が出来ず即死した。裸の女はクスリを盛られていたのか、返り血を浴びたにも関わらず、ヘラヘラと笑っていた。
鈴菜と白夜がようやく部屋に突入。お互いの得物を構えながら残りの敵を捜索する。情報によれば、あと1人居たはずだが…。
白夜が未だ笑ったままの女の手を強引に引き、鈴菜が残るトイレとユニットバスを見ようとした、その時。
トイレからズボンを下ろした状態のヤクザがドスを構えて鈴菜に突進してきた。
鈴菜は難なくこれを躱すと、股間に1発蹴りを入れた。ブーツによる激痛のあまり、ヤクザは転倒した。
男は息も絶え絶えながら、怒りのあまり言葉にならない、野獣の如き絶叫を上げた。それが断末魔にもなった。鈴菜は男の頭に1発。白夜は酷いモノを見てしまった、と顔を背けたが、鈴菜はスカーフの下で僅かに口角を上げた。
敵を片付けた鈴菜は、Mariaに対し「任務完了」とだけ送信し、男が飛び出てきたトイレを確認し、直ぐにユニットバスを見た。
そこにいたのは猿轡を噛まされ、亀甲で縛られた金髪の美女。瞳には涙を浮かべつつも、鋭い光が宿っている。
敏腕ジャーナリスト、フローラ・リー。今回の救出対象だ。
鈴菜は哀れさと、多少の申し訳なさを感じながら猿轡を丁寧に外してあげた。
猿轡を外されたフローラは荒く息をした。白い柔肌が紅潮する。
フローラは、自らを救出した、白馬の王子様、もとい女騎士に対し、
「Who are you?」とのみ言った。そこには声にこそしていないが、感謝の念がこもっていた。
それに対し鈴菜は、スカーフを外し、丁寧な英語で答えた。
「We are Heart Mail Valkyrie.
high school girl mercenaries.」
令和始まってすぐのやつを消してまで始めました
早く次回作上げます