シーン6
「あれは……」
まるで破壊神のような三眼と、蒼玉にも似た外殻に覆われし巨人。
クルスが瞠目するさなか、一瞬にして変形――否、ファントムと同じく別形態へと変身したドライは、ヴリトラが抱く地球に向け飛翔。
光翼と化した三枚羽根から燐光を閃かせ、
「敵性体による追撃を確認」
二体のファントムから放たれしビームを飛燕のごとくかわし、
「プラズマブレードを形成」
触腕を雷剣へと変質させ、灼眼の輝線を闇に180度ループ、180度ロールにて反転。
「水平宙返り旋回……すごい」
一瞬にして異形たちを屠った闘神の姿に、しばしクルスは我を忘れていたが……。
「なっ!?」
数百メートル先、砂塵を巻き上げ着地した異星体の姿に青ざめ、
「ヒルデリカ、助け――」
超絶的な技量を持つ少女に救援を求める。
「……」
なれど、虚空に静止したドライは動かず、
「どうして……」
『見ツケタ……』
単眼の、女型の巨人となりしファントムの思念にクルスが震えるさなか、
「雪坂クルス。――貴方は試練を乗り越えなければならない」
「ヒルデリカ!?」
「アインとともに、自らの運命を切り開かなければならない」
――運命を切り開く?
彼女はいったい、なにを言っているのだ?
「ヒルデリカ、冗談を言ってる場合じゃ――」
『私タチノ蝶……ヤット見ツケタ』
焦燥のさなか、ファントムは触腕をライフル銃へと変え、
「ぁ、あ……」
ゆらと向けられた銃口に、クルスが己の死を悟った直後、
――澪を残したまま、わたしは死ねない。
「ゲ、アアアァァァーーーーッ!」
朱に染まりし瞳に浮かぶは、黄金色の十字架。
聖痕を刻んだクルスの咆哮とともに、アインは鋼鉄の巨人へと変貌してゆく。
六つの鬼眼と、渦巻く触手によって形作られた――
まるで人のようであり、紅の竜のような姿へと。
「超えてみせなさい雪坂クルス。――ヒトの遺伝子の限界を」
ヒルデリカが刮目するさなか、異星体から放たれし終わりの一撃。
「偏向障壁を展開」
されど十二枚の光翼を拡げたアインは、飛来した粒子ビームを捻じ曲げ、
「プラズマブレードを形成。戦術思考を近接戦モードへと移行」
凛としたクルスの声とともに触腕を雷剣へと変化させる。
刹那、交差するは生と死の幾何学模様。
『蝶チョウ、蝶チョウ……コノ指、トマレ』
うねくる触手を高周波振動刃へと変質させた漆黒の幽鬼は、背部と腰部に突出した角状の翼から燐光を爆ぜアインへと格闘戦を挑む。
が、月面に衝撃波が炸裂した直後、
「天へと昇れ」
冷笑を浮かべたクルスは詩句を返し――胸部に浮かぶ核ごと両断されたファントムは、不倶戴天の敵を背に塵となり果てた。