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斑鳩の柩 - イカルガのクルス -  作者: Code-Alice/コードアリス
第壱話: 亡霊 - Ghost -
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シーン4

 建材の匂い真新しい格納庫。

「香奈枝さん、これは……」

 通信ヘッドセットを装着したクルスは、真紅(あか)漆黒(くろ)で彩られた巨大な機体を見上げ、

「これは、マシーンと呼べるものなのですか?」

「コードネームは“亡霊(ゴースト)”。――機械生命体、といってもピンとこないわよね」

 強化ガラスの向こうにいる香奈枝は、苦笑しながら疑問に答える。

「ゴースト……」

 まるで彼岸花であるかのように十二枚の翼を――否、金属と細胞が融合したかのようなX形状の主翼を広げた異形の機体。

「……」

 操縦室(コックピット)と呼べる箇所は見当たらず……。

 機体後部に回り込んでみると、動力炉とおぼしき青白い球体が浮遊しており、

「どこにも武装が見当たらないが、機体内部に収納されているのか?」

 双翼の、刃を連ねたような尾を持つ別機体を一周したキャシーは、

「んー、それは自身で理解してもらうことになるわ。たぶん説明しても、常識の方が追いつかないと思うから」

 香奈枝の意味深な返答に眉をひそめる。

「はぁ? 意味わかんねーし」

「ところでキャシー。この機体を見た感想はいかが?」

 楽しげな声に嘆息したキャシーは、

「ああ、がっかりだよ。こいつを設計した自称“エイリアンさま”とやらは、どこか精神を病んでいるに違いない」

 両手を軽く持ち上げ、設計者であろう香奈枝に向けうそぶく。

「あらあら、ひどい言われようね」

「こんなの、まっとうな技術者が考える代物じゃないからね。航空宇宙工学を無視した、実に無意味で無駄な設計。――まともに(そら)を飛べるかも怪しいもんさ」

 得意顔となったキャシーは先を進めようとするが、

「そもそも、こんな異星体のような……うおおっ!?」

 橙と白色で彩られた触手によって、まるで水面(みなも)に引きずり込まれたかのように機体に飲まれ、

「アイズマン少尉!? って……えええーーっ!?」

 同じくしてクルスも、紅の機体の内部へとさらわれてしまう。

 そんなふたりの様子に苦笑しながら。

「は~い、ふたりとも大人しくしてね。別に取って食おうってわけじゃなく、その子たちはじゃれているだけだから」

 ペンの端を口にくわえた香奈枝は、コンソールを素早く操作し、

「そ、その子たちって!?」

 無数の触手に囲まれたクルスは、思わず声をうわずらせる。

「ああ、紹介が遅れたわね。――クルスが搭乗している子はアイン、キャシーが搭乗している子の名はツヴァイよ」

「アイン……」

「ヒルデリカが搭乗しているのはドライ。――ちなみに主任権限を活用し、私が命名しました。シンプルで知的で、とっても可愛いらしい名前でしょ?」

「名付け親はあんたかよ! ドイツ語で一、二、三とか適当すぎるだろ――じゃなくて!」

 おそるおそるクルスを(つつ)いては、即座に触手を引っ込めるアインとは異なり、

「まずはこいつを、なんとかしろォォーーッ!」

 積極的に絡みついてくるツヴァイに、キャシーは声を張り上げるが……。

「パイロットスーツが……形成されていく?」

 呟いたクルス同様、衣服と同化し形成されゆく異形のスーツに唖然となる。

生体装束(バイオアバター)。アインたちの生体組織から作られたリンクユーザー専用のスーツよ。――加速Gを大幅に抑えたり、戦闘で負傷しても治癒してくれるわ」

 脈動する肉壁は操縦桿や計器へと変わり、格納庫内の光景を映し出し、

「そんな魔法みたいな装備、あるはずが……」

 紅と黒のスーツに包まれたクルスは、まるで理解が追いつかぬ現象に言葉を失う。

 されど肩裏から伸びた二対の触手が、操縦席の裏側へと接続された途端、

「おい、クルス……」

 キャシーのこわばった声が、形成されたヘルメット内に届き、

「お前の機体……なんかそれ、浮かんでねーか?」

「え?」

 吸気音とともに上昇した視界。

 隔壁が強制開放されると同時、航空電子情報(アビオニクス)と思われる奇怪な数値群がバイザーに表示され、

「うそ……なんでいきなりアインを動かせるの?」

 香奈枝の声が高周波音に掻き消された直後、

「~~~~ッ!」

 緑玉色の六つ眼を開いたアインは、爆音を置き去りにクルスを闇の彼方へと連れ去り――。

「あの子、想像以上だわ……」

 くわえペンを落とした香奈枝は、紅の亡霊が消えた格納庫を呆然と見つめていたが、

「ヒルデリカ!?」

 藍と黒で基調されたスーツに身を包んだ少女の姿に――ゴースト・ドライを浮遊させたヒルデリカの姿に瞠目し、

「ドライ、アインを追って」

 制止する間もなく飛び出した青藍(あお)の機体は、逆デルタを示すかのような三枚羽からスラスター光を爆発させ、稲妻のような速度で月の海を駆け抜け、

「雪坂クルス。貴方の真価をみせてもらう」

 凍てついた炎のような義眼には、電子とは異なる光が浮かんでいた。


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