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斑鳩の柩 - イカルガのクルス -  作者: Code-Alice/コードアリス
第壱話: 亡霊 - Ghost -
3/8

シーン2

 ダイダロス地下都市、士官宿舎。

「ぁ……」

 薄暗い自室のドアを開けたクルスは、テーブルにあるメッセージパネルが点滅していることに気付き、

「澪――」

 足元を照らす誘導灯を頼りに、軍と民間の共有サイトへとアクセスし、

「おねえちゃん!」

 空間投影された澪の姿に、疲れ切っていた顔をほころばせる。

「よかった……今日は戻ってたんだね」

 ひとつに結った黒髪の房を左肩に垂らし、電動車椅子に腰掛けた十二歳の妹。

「……心配をかけて、ごめんね」

 かすかに視線を逸らしたクルスは、瑠璃色の瞳に対し詫び、

「ううん、わたしのほうこそごめんなさい。……今日も事務のお仕事(、、、、、、)だったの?」

 ブランケットで義足を隠した澪の問いに、

「まだ仕事に慣れてなくて……」

 胸を痛ませながらも、今日も嘘をつく。

「……」

「でもね、本当に戦闘には参加してないから安心して。――ほら、お姉ちゃんって臆病でどんくさいから。軍の人からも戦場では足手まといになるって言われちゃったんだ」

 拭い隠された涙の跡に。

「徴兵期間が終われば無事に帰ってこれる。……叔母さんから澪を引き取り、また一緒に暮らすことができる」

 ブランケットを握り締めた澪の姿に、クルスは精一杯の笑顔を作り、

「それより……お姉ちゃんは、澪のお話を聞きたいかな」

「うん……」

 やさしい嘘をついた姉妹は、束の間の安息に心をゆだねる。

 そして――。

「……」

 静寂となりし薄闇の中、うなだれていたクルスはサイトに映る件名へと視線を送る。

“いますぐ連絡が欲しい――。

    ……息子の安否を知りたい”

 悲壮なる思いに包まれた、無数の遺族たちのメッセージへと。

「怖いよ……怖くてしかたがないよ」

 まもなく、正式に戦死者リストが公表されるであろう。

「今日を生き残れた自分は、たしかに幸運だった」

 ……されど、明日の自分の運命は?

「兵役を終えるまで、あと半年――」

 両の手で顔を覆ったクルスは、大粒の涙をこぼし、

「澪に会いたい……。月の表側にいるあの子に会って、精一杯に抱きしめてあげたい」

 右腕のブレスレットから、臨時召集を知らせるアラームが鳴り響く中、

『クルス少尉。至急、作戦司令部まで出頭せよ』

 上官の指示に力なく立ち上がり、ひとりぼっちの部屋を後にした。


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