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あおいと《幼馴染は家族ですか?》  作者: Mt.danple
プロローグ《小学生時代》
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Let's JHS!

更新が絶望的に遅れました。もし、覚えて頂いている方がいらっしゃったら、ここ一ヶ月くらいはこのようなペースになると、先に謝罪しておきますorz

 「じゃあ、塾行ってきます!」

 「はーい、行ってらっしゃい。」

 

 お母さんに見送られて家のドアをくぐった。

 一年前、僕達は学校に行くのを辞めた。逃げ出したのだ。そう言えば悪い言い方になるけど、僕は間違った事をしたとは思っていない。彩葉のためにも僕のためにもこれしか道は無かった。

 でもそんな逃げも手段もさておいて、僕達だって学校に行かないと勉強はどんどん出来なくなってしまう。僕達は、中学校は小学校の生徒はほとんど行かない所が校区内にあるから、そこに行くことに決めた、のだが勉強が出来ないと、前みたいにいじめを庇わなくとも浮いてしまうことも考えられる訳で…。そこで塾に行ってある程度勉強ができる僕が彩葉に勉強を教えることとなった。

 彩葉は勉強が上手い訳ではないが、要領が悪いということも無い。中学生までの内容なら、つまずく事はないと思う。


 話を戻す。塾には僕の数少ない友達がいる。僕がクラスメイトに見放され、虐げられていると知っても離れずにいてくれたのがそいつだ。


 「あ、緑間。相変わらずの勉強っぷりで。」

 「ああ、青原か。最近風邪が流行りだしてるけど、調子はどうだい?」

 「普通。なんともない。」

 「そうか、それは良かった。」


 蛋白な会話だと思う。彼‐緑間昇はあまり人と喋らない。喋ってもこんな老人みたいな内容ばかり。でも、彩葉の口数が少ないのとは、また別物。そもそも人と話したくなさそうにしている。周りには興味なさげにしているし、「世捨て人」というのが、適切な表現なのかもなぁ。失礼だけど。

 しかし、彼は賢い。ただ単に勉強ができるなどでは無くて、頭の回転が早いのだ。IQは140だとか、小学生算数オリンピックの予選に出場しただとか、とにかくあることない事噂が流れている。その真実は、おそらく誰も知らないはずだが。(小学生 算数オリンピック 優勝 とネット検索してみたら、彼と瓜ふたつなM.Nくん(11)が出てきたけれど、本人は否定している。)

 

 授業中も重要な所だけをノートに取って、それ以外の時はつまらなそうに机の中に隠した「坊っちゃん」を読んでいたりしている。かと言って努力していないのか、と言われればそうでも無く、この前、みんなが帰った後の塾の教室の隅っこで理科と社会と数学と国語の問題集を机にいっぱい広げて、凄まじい速度で問題を解いているのを目撃した。


 「じゃあ、またね。」

 「ああ、また明日。」


 授業が終わり、唯一の友達と軽い挨拶を交して家路につく。自転車のペダルを回して下り坂を駆け下りていく。

 

 塾が終わるのは、少しお腹が空き始める2時頃。僕はその後に週に2回くらい彩葉の家へと向かい、勉強を教えに行く。


 彩葉の家は僕と同じ住宅街の裏にある。家の窓から彩葉の部屋が見える程近い。でも、裏手にあるから、実際に行こうと思ったら、近くにある住宅街とマンションを迂回して5分くらいかかってしまう。僕の家と彩葉の家は、そんな微妙な位置関係にある。


 

 〜ピンポン〜

 「はーい、陽日くんね。どうぞ、彩葉も待ってるわよ。」

 彩葉のお母さんは僕がこの時間帯に来ることを分かっているから、インターホンを押してすぐに開けてくれた。

 彩葉のお母さんに促されるまま、彩葉の部屋へ入る。

 「あ、陽日!」

 彼女はベットに座って少女漫画を読んで待っていたらしい。マンガ本がいくらかベッドに散乱している。

 「こらこら、彩葉。ちゃんと片付けなさいな。だらしないですよ。」

 「わかってます!」

 少し頬を膨らまして見せる。女の子っぽい仕草をするようになったなぁ。

 

 「それで、今日は何を教えてくれるの?」

 「今日は理科がちょっと難しいから、それを教えるよ。あと、漢字のおさらいもね。」

 「はーい。」


 教科書を開く。もうそろそろ彩葉は13歳になる。誕生日は8月31日だ。中学生になるまでもう半年を切った。思えばこの一年はあっという間だった。楽しかった。


 「陽日くん、いつもありがとうね。はい、これ、おやつ。」

 ドアを開けて入ってきたのは彩葉のお母さん。手にはお盆にアイスクリーム。美味しそうだ。

 「あ、彩葉のお母さん。わざわざすみません。」

 「いいのよ。こんな娘のそばでいじめられても何されても、ずっと一緒にいてくれてるんだもの。それで勉強も教えてもらってるなんて、こんなんじゃ感謝しきれないわよ。」

 「そんな、僕はやりたくてやってるだけなんで、そんなに感謝されても困ります。」

 「本当に…陽日くんは昔からそうねえ。」

 「はるはもう少し自分のことも考えなよ!たまに無理させてないかとか、心配になるもん!」

 「だから僕は大丈夫だって。」

 早口で言ってからアイスクリームを一口スプーンで掬う。冷たくて頭が痛くなって押さえたら、彩葉に笑われた。


 「まあ、隠してても分かるけどね。もうはるは家族みたいなものだし。」

 家族か…。彩葉と僕はかれこれ8年の付き合いになる。はじめに彩葉と出会ったのは4歳の頃だったか。


 僕の彩葉との出会いは全然特別なものじゃ無くて、単純に幼稚園に入ってなんとなく仲良くなって、一緒に遊ぶようになっていったからだった。でも、それだけ小さい頃から一緒にいても、中々喧嘩になることが無いのは、彩葉と僕の性格があっているからだと思う。もう彩葉の嘘を付くときに絶対に目が泳ぐ素直さを知ってるし、お風呂に一緒に入った事もあるし、口数が減っても、まだおしゃべりが好きだって事も知っている。家族と言っても過言ではないと思う。


 「まあね、僕も妹がいるみたいな気持ちだね。」

 「ええ、私がお姉ちゃんでしょ。」

 「まさか。」

 

 再び頬をふくらませる彩葉を無視して、理科の問題をペンでつつく。彩葉は黙って数秒その問題とにらめっこしていたが、すぐに答えを書いた。大体一時間くらいで教材の一単元を終えた。


 「まあ、これだけできたら大丈夫だと思う。今日はこんくらいにしよっか。」

 「うん。いつもありがとうね。」

 「いいよ、じゃあ、また。」


 こんな具合で、僕達はマイペースに中学生までを過ごした。このときは二人で過ごすのが当たり前だったし、中学生になってもそれは変わらないだろうな、と思っていた。


 夏が過ぎて秋が過ぎて、街に赤がいっぱい見られるようになったと思ったら、桜の蕾はもう開きかけていた。あっと言う間に一年半が過ぎ去った。


 「しかし、あんた背伸びたわねえ。もう165くらいあるんじゃない?」

 「かもね、まあ、もう中学生になるんだし。」

 新しい、ちょっと大きめの制服に身を包む。黒いブレザーと初めて付けたベルトが新鮮で、自分成長したんだな、と過去に思いを馳せる。ふと窓の外を見れば桜の花が所々に見えて、雲一つない青空に桃色の花弁が映えていた。今日から、僕らは中学生になるのだ。


 ドアを開けると、少し風が強い。花びらが控えめに舞っている。住宅街の折り返しが待ち合わせ場所だ。どうやら彼女はまだ来ていないようだ。ふと彩葉の家の方に目をやれば、彼女が家から出てきているのが見えた。こちらに気づいて手を振る。彼女も大きな制服を着ていた。膝より丈の長いスカートがふわりと揺れる。そんな姿が春らしい風景にとても映えた。


 「お待たせ、行こう。」

 「うん。」

 …口数が少ない。口調も少しわざとらしく明るい。やはり不安なのだろう。当然だ。小学校であれだけの目にあったのだ。

 

 「大丈夫だよ。」

 彼女はちょっと驚いたように目を開き、それから少し俯きがちに微笑んだ。

 「はるには隠し事が出来ないねえ。」

 「同じクラスになれたらいいね。」

 そう言うと彩葉は軽く首を振る。

 「そうだね。」

 俯いたまま、彩葉は言った。

 「もし離れても話しかけに来てよ。」

 「えー、そっちが来なよ〜」

 ちょっと寂しげに彼女は笑う。

 「嘘、はると話さないと、なんだか安心出来ないから。」

 心の傷は塞がらない。彼女は一年半のインターバルを置いた今も、いじめと戦い続けているんだ。

 そんな気持ちをぬぐい去ろうと前を見たら、上り坂に差し掛かった。毎日登るのが大変そうな急な坂だ。


 そして、お互いに喋ることが無くなった。黙ったまま、黙々とまだ来たことのない学校への道を行く。これからこの道は毎日通ることになるんだ。


 「おや、青原じゃないか。おはよう。」

 背後から声がした。小学校を卒業してすぐとは思えないこの蛋白な口調。誰だか考えるまでもないし、そもそも彩葉以外の同世代の知り合いはこいつ以外居ない。


 「ああ、緑間か。おはよう。」

 「良かった。中学はしっかり行くんだね。安心した。」

 「あれ、言ってなかったっけ?」

 「言ってたね。僕が言いたいのはそうじゃなくて、ここの学校にだよ。君の学校の生徒もごく少数入るって言うしね。大丈夫かと思って。それはそうと、隣の子は誰かな?」


 話に出た彩葉の体が強張ったのが感じられた。ここは人慣れするためにも、心を鬼にして、話させておいたおいた方がいい気がする。おそらく彼は僕といることも多いから、自ずと話すこともあるだろうし。


 「そうだ、紹介する。幼馴染の彩葉だよ。ほら、前言った。」

 「この子がそうなのか。ああ、僕は緑間昇。一応青原と友達なんだ。これからもよろしく頼むよ。」

 「あ…えっと…ワタシは、糸川彩葉です。よろしく、お願い、しマス」


 ガチガチだ。やはり僕が居ないとまずいかもしれない。

 「はは、そんなに固くならなくていいよ。一応同い年だし。敬語も使わなくていいし、ああ、気軽く緑間とでも呼んでくれたらいいよ。」

 いつになく朗らかに言う緑間。空気の読める奴だ。

 「あぅ…うん!…ありがとう!よろしく。」


 そのまま僕らは三人で入学式の会場へと進んだ。上級生が物珍しそうな目でチラチラこっちを見ている。靴箱に靴を入れて進むと、部活動の紹介がこれでもかと貼られた掲示板があった。生徒会役員らしき人の引率に従って講堂へ入った。

 

 講堂は思ったより広かった。大体バスケットボールのコートが2つ分くらいか。大体生徒は500人くらい?いるようだが、全員しっかりと入っている。とりあえず彩葉と緑間と隣同士で、用意されていた席に付いた。もう半分くらいの席は埋まっていて、入ってくる人もちらほら見られる。


 皆が集まったところで始業式が始まり、先生の話や注意事項や生徒の心構えなどを話され、始業式は終わった。

 さあ、いよいよクラス分けだ。名前とクラスが書いてある紙が柱に貼ってあると、先生は指示していた。

 皆が柱にむらがっている。なんだか凄く緊張する。


 「やった!同じ組だね。」

 「またオメエと同じかよ。面白くねえな。」


 そんな声が柱の前の方から聞こえてくる。皆がある程度去った後、なお少し残っている人混みを掻き分けて柱の紙を見に行った。

 「あ、あった。」

 緑間が3組に自分の番号を見つけて歩いていった。

 僕も自分の名前を見渡す。どこだ。何組だ。

 しかし、先に声を上げたのは、彩葉の方だった。


 「無い…」


 彩葉の出席番号は2組の3番。普通なら糸川の前に青原が来るから、その前に僕はいるはずなのに、でも、その組の一番と二番に僕の名前は無かった。背骨に冷たい血が流れる。

 ふと、彩葉の顔を見ると、泣きそうな顔で、えも言えないまま柱を眺めている。わかってはいたけれど、胸が痛い。


 「そっか。」

 それ以上、彼女は何も言わなかった。でも、何を言いたいかは分かっていたし、僕もその事を望んでいた。


 「ごめん。また帰るとき。」

 何も言わない。あまりに居たたまれなくなって、その場を逃げ出した。


 彩葉はどうなるんだろう。しっかり友達が出来るだろうか。クラスが一緒にならないかもしれない、なんて分かってるふりだけして、結局僕らは今までの()()()という関係に甘えていたんだ。心の奥では、本当に離れるなんて想像もしていなかったのだろう。いじめを二人で逃げ出した僕らが頼っていたのは、離れた時の解決策じゃなくて、なんだか一緒にやっていけそうだというとりとめのない自信だった。


 「どうしたの?」

 ふと、背後から声がした。振り返ると、そこに立っていたのはなんだか小動物のような女の子だ。

 「あ、いや、ごめんね。なんだか一人だけ教室に行かずに佇んでたから。初対面だけど、気になっちゃって。」

 僕が少し怪訝な顔をしたからだろうか。彼女はそう続けた。

 「いや、ありがとう。僕は青原陽日。君は?」

 「おっと、名乗り忘れちゃってた。私は宮原夏葵(みやはらなつき)。それで、そんなことするって事は、なんか悩みごとでもあるの?余計なお世話かもしれないけど。」

 そこで一つ考えが浮かんだ。初対面の僕を気にしてくれるようなこの子なら、彩葉と友達になってくれるかも。藁にも縋るような思いで聞いた。

 「えっと、宮原さんは友達いる?それとも遠くの小学校から通い始めたの?」

 「ああ、私はわりと遠い方かな。多分同じ学校の人も学年に10人くらいしか居ないと思う。でもなんでそんな事聞いたの?」

 「いや、ちょっと僕も遠い方なんだけど、僕には幼馴染の女の子がいるんだよ。その子がちょっとコミュニケーションが苦手で。いい子だから友達になってあげてくれない?」

 「ああ、そういう事ならこっちも願ったり叶ったりだよ。紹介してほしい!」


 良かった。頼ってみて正解だった。


 「2組って言ってたっけな。宮原さんは何組?」

 「あ、私も2組だ。じゃあその子がなんて名前かだけ教えてくれない?青原くん…だったよね?に言われたってのを口実に話しかけに行く。」

 「ありがとう!糸川彩葉っていう名前だよ。ちょっと不器用だけど、仲良くしてあげて!」

 「うん!こちらこそ、急に話しかけたのにしっかり話してくれてありがとう!またいつかね。」


 そう言って彼女は走り去っていった。柱の前に残っているのは、もう僕だけみたいだ。そこからは、僕の名前はすぐに見つかった。3組。緑川と同じクラスだ。

 彩葉と隣同士のクラスに入れて多少張り詰めた心の糸をほぐした。

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