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過去作品(更新停止)   作者: 遊観吟詠
第三章 泊地パラス・アテネ
82/105

4-(12) フライヤベルクの動静(5)

『戦線の諸隊は規律よし。ただし敵に攻勢の動きあり』


 あれから2日。参月義成みかづきよしなりは、当たり障りにない内容で、国軍旗艦瑞鶴こくぐんきかんずいかくへの中間報告をおこなった。

 

 いまは第一戦線フライヤベルクを参軍事レアル・カミロとして取り仕切るランス・ノールにとって、俺の仕える天儀てんぎ総司令は二重の敵だった。

 

 最早過去の話だが、2人は二度も敵味方の関係だったのだ。一度目は、旧セレニス軍と旧グランダ軍として敵対し、二度目は戦後に反乱軍と鎮圧軍として対立した。旧セレニス軍は、天儀総司令が率いた旧グランダ軍に撃破され、その後ランス・ノールが起こした反乱は、天儀総司令も参加した討伐軍に鎮圧された。

 

 どう見ても対立軸にしかない2人だが、ランス・ノール参軍事は、

 ――天儀には恩がある。

 と俺の目を見て熱っぽく吐いていた。どうにも俺には、2人の関係は見えてこないが、ランス・ノールは熱心に戦ってくれそうだという印象は持てた。

 

 天儀総司令のフライヤベルク戦線への懸念は、加害者根性とでもいえばいいのか、後ろめたさからくる一方的な不信感かもしれない。戦線司令官のシャンテル・ノールは、ランス・ノールの妹だ。シャンテル戦線司令の言動から推察するに、彼女が天儀総司令へのわだかまりを抱えていることは間違いない。天儀総司令は、レアル・カミロの正体を調べろなどといったが、本心はあのランス・ノールの妹が自分に楯突いてこないか心配なのだろう。


「しかし天儀総司令が、ランス・ノールへほどこした恩とはなんだ?」


 あれから俺が調べた限りでは、ランス・ノール関連のデータには、恩といえるような情報はなかった。かなり個人的な関係上の話なのかもしれない。そうなってくるとしっている人間は限られる。

 

 ――情報を持っていそうな人物といえば……。

 

 俺はある人が頭のなかに思い浮かんだが……。あの人だけには聞きたくない。俺を特殊工作員として育て上げ、さらに兄の死に不審を覚えて軍内を探っていた俺に情報を与えてくれた人でもあるが、なるべく会いたくない存在だ。こうなってくると自力で調べるか、天儀総司令に聞くかだが……。とにかく直接口頭で、ランス・ノール参軍事の言葉を伝えるときに天儀総司令の反応を見てみよう。それが一番いい。

 

「さて、そろそろいくか」

 

 ここに滞在する間、俺はランス・ノール参軍事の主簿しゅぼとして仕事をするように命じられたからだ。

 これは俺に軍内を嗅ぎ回られないように、直接監視するという意味もある気がするが、自身の仕事ぶりをつぶさに見てもらって、なにも怪しいことはしていないとアピールするためというのが理由だろう。

 

 俺は与えられた部屋をでて、足早に通路を進んだ。軍用宇宙船のサイズはピンきりだが、いま俺が乗艦する神世級じんよきゅうのアマテラスは、軍用宇宙戦では最大クラスのサイズで全長3kmだ。当然徒歩で移動していては話にならない。

 

 艦内の移動は基本的に、メインストリートとよばれる船体中央部を船首から船尾を貫く巨大な空間をつかっておこなう。このメインストリートへは、どの部屋からも通常5分以内、最大でも10分以内で到達できる作りになっている。

 

 メインストリートにでてからは、カート乗って目的地に一番近いショートステーションで降りて担当部署へ。今回の俺の場合はブリッジだな。例外はあるけれど艦内の移動はだいたい15分を見ておけば、どこにでも到達可能だ。

 

 そして、そうこうしているうちに、もうブリッジだ。アマテラスのブリッジは瑞鶴とはまた違った形で洗練されている。アマテラスの場合は、司令部と指揮座が一番高い位置にあり、ひな壇式に下がっていくタイプ。ブリッジへ入って数歩で、ビルのワンフロワー分のスペースが一望でき壮観だ。おお、みんな真面目に働いてるな。ここで働くものたちは、船務科のなかでもブリッジ要員とよばれ一段高いあつかいをうける。

 

 ブリッジへの出入り口は、最上段に2箇所。他にはこのサイズのブリッジなら閉鎖され普段は使われない脱出口が4箇所あるはずだ。最小サイズの艦は、合計2箇所の出入り口を確保する規定となっている。

 

 ブリッジには、司令部、操艦設備、速力装置、機関座、各種電子兵装のコンソール、主砲指揮所、電子戦指揮所、艦の航空管制などの艦中枢部が集まっている。……ここをやられたら戦闘継続は、絶望的だな。不可能じゃないが、ブリッジがやられると指示をだす艦高官がほぼ全滅するから、そういった意味で戦えない。なお、二足機の戦闘指揮所は、ブリッジにない場合が多い。

 

 俺はすぐにランス・ノール参軍事を見つけ挨拶。しばらく世間話をしたが、ランス・ノール参軍事は唐突に、

「ところで義成くん。君の指揮経験がしりたい。どのクラスまでの艦を指揮したことがある?」

 と問いかけてきた。


「恥ずかしながらありません」


「そうなのか……」

 とランス・ノール参軍事は首をかしげ、少し考える素振りをした。そうだろう。俺はヌナニア星系軍士官学校の出身だからだ。


 普通なら士官学校卒業後に士官候補生の身分で、副艦長クラスの待遇で現場の艦に配置され実地の訓練をうける。その期間を終えると、正式な任官をうけて護衛艦なり駆逐艦あたりの艦長なり副艦長で配置され、という流れで出世していく。

 

 なお、新のエリートは、正式な任官をしてから短いものでは、半年で最上位のエリート育成所である星系軍アカデミーへ入学する。アクセルや花ノ美(かのえ)などのアヘッドセブンなんてよばれている連中らはこれだな。というか二期生は、俺以外の全員が軍アカデミーへ進学できたんじゃないのか……。

 

 話が長くなってしまったが、つまり普通なら俺は、とうに護衛艦なり駆逐艦なりで、指揮官の立場での艦上勤務の経験があってしかるべきなのだ。それがないということに、軍をよくしるランス・ノール参軍事は疑問を覚えた。こういうことだ。ただ、ランス・ノール参軍事は、すぐになにか思い当たったようだ。さすがは三つ先を見通す男。少し考えて、この俺に艦の指揮経験がないことの背景を洞察したのだろうか。


「ああ、なるほど面白いかもしれない。義成くんは普通じゃない道のりをいったようだね」


 やはりランス・ノール参軍事は、俺に艦の指揮経験がない理由をいくつか思いついたようだ。きっとそうだ。

 

「……落伍です」

「そうだろうか。人生の道のりは一つじゃない」

 

 俺は苦い思いを抱え黙った。ヌナニア星系軍士官学校を卒業してすぐに、秘密学校ナカノへ送られたのは、どう考えても司令官としての資質なしと見做されたからだ。俺は艦上勤務もなしに、指揮能力なしと判断されるぐらいのバカ野郎だ。

 

「だが――。天儀が側近として選んだのは君だ。いまの新米ルーキーどものなかでもとくに優秀なやつらをアヘッドセブンというらしいが、そのアヘッドセブンではなくな」

「……気まぐれでしょう」

 

 まさか暗殺しにいって、そのまま側近にされたとはいえないので俺は、そう答えた。

 沈黙が流れた。俺は気まずさを覚えたが、ランス・ノール参軍事は違うようで、口元に涼しげな笑みがある。

 

 ――この人はすごいな。

 と俺は思った。この人は独立戦争に失敗した。これは巨大な挫折のはずだ。それも常人が絶対に経験することのないような特大の失敗。それなのに俺のように、すねていないというか、腐っていないというか。とにかくポジティブだ。身にまとう空気にネガティブ感が一切ない。燦然さんぜんとすらしている。俺がこの人と同じ挫折を味わったらどうだろうか。二度と立ち上がれない気がする。いや、逆だ。この人から見れば、俺の挫折など小さなもかもしれない、そんなことを俺が思ったとき、

「あらお二人とも仲良く並んで、なにをお話していたのかしら?」

 という声とともにシャンテル戦線司令が姿をあらわした。

 

「世間話だね。他愛もないね」

「あら、カミロさんったら秘密主義なのね。男の人同士の話かしら。ちょっと妬けます。女性ってどうしても殿方同士に割って入れない友情というものを感じてしまうことがあるのですよ」

 

 口元に手をやりながらクスクス笑うシャンテル戦線司令を見て俺は、

 ――この人がいるからか?

 と思った。ランス・ノール参軍事が、巨大な挫折を経験しても立っていられるのは、妹のシャンテル・ノールの存在が大きいのかもしれない。こんな可憐な妹がいれば、心配で心配で、ヘこたれてなんていられないだろう。


「そうだシャンテル戦線司令。私は義成くんを次の作戦の指揮官に任命したいと思うだがどうだろうか」

「あら、まあ!」

 

 シャンテル戦線司令は、手を打って、なんて素敵な提案! というような反応を見せてくれたが、俺はすかさず掣肘せいちゅうに入った。

 俺には指揮官の能力が欠如している。だからナカノなのだ。ここフライヤベルク戦線。とくにフライヤフリューゲは最重要の拠点だ。そんな場所で失敗すれば取り返しがつかない。これは失敗したら出世に響くとか俺個人の問題ではなく、戦争全体の問題だ。あとは、俺を指名してくれたランス・ノール参軍事やシャンテル戦線司令、それに天儀総司令にも大迷惑がかかる。だいたい俺は、ただの特殊工作員。キャリア組からは完全にドロップ・アウトしているので、失敗して出世がどうのなんて大した問題じゃない。

 

「ですが俺には――!」

 

 口調を強くして勢いよく言葉を吐いた俺に、その勢いを受け流すように、ランス・ノール参軍事は、

「天儀の横で戦闘を経験したのだろう?」

 と俺の言葉をさえぎった。

 

「まあ、そうですが……」

 

 だが、その天儀総司令だって俺を指揮官は見ていない。指揮官になりたいと自薦したら、ダメだ、とあっさり却下されたしな……。


「横で見ていただけでは……」

「はは、やはり君は面白いな」

「自分は面白くはありません。ヌナニア最高峰の軍事教育施設であるヌナニア星系軍士官学校でて、いまだに艦長の経験がないのは恥です」

「なるほど。だが、君は士官学校卒業して、艦上に送られる士官候補生がなにをするかしっているのか?」

「いえ、その……」

「しらないのか」


「はい……」

 と俺は屈辱を覚えながら返事をした。ヌナニア星系軍士官学校を卒業して、士官候補生として艦上勤務に送られなかった卒業生なんて、今後も俺だけだろう。そう。俺は士官候補生として艦上勤務にいってないんだから、士官候補生なにをするかなんてしるわけがない。


「だろうな。君は士官学校でてなにか特別などこかへ送られた。それをどこかが、言及しないがね。では、シャンテル戦線司令はしっているかい?」

「いいえ、わたくしも存じ上げませんわ」

「え!?」

「あら義成さんたら驚いてしまっていやだわ。だってわたくしって、軍務に従事していただけで軍の学校なんていってませんのよ? 十代からの軍務従事が認められて軍籍が与えられたんですよ」

「な、なんと……」

「わたくしが手ほどきをうけたのは、お兄さまの家庭教師だけ。ま、ちょっと千金つんでも雇えない優秀な教官に教えていただけたとう特別なところはありますけどね」


「信じられない」

 と俺は思わず正直に口にしていた。そんな素人に戦線司令官が任されていることも、シャンテル戦線司令が、士官学校をでていないのに、これほど優秀だということもだ。俺が見るかぎり彼女の軍組織の管理能力は並の軍人ではとてもおよばないほど高い。


「義成くんそんなものだよ。きみもやれる。だいたい誰でも最初は未経験だ」

「いやですが…‥」


 俺は、歯切れ悪く黙り込むしかなかった。時代や状況が違う。いや、国が違う。シャンテル戦線司令が、軍籍を与えられたのはおそらくだが、旧セレニス連合軍時代だろう。いまはヌナニア軍。ぜんぜん違う。それにシャンテルセンセ司令は、セレスティアル家という特別な家柄だ。

 

 いや、俺は二の足を踏んだのだ。戦闘を目の前で見て、指揮官なり艦長になりたいという気持ちはすっかり萎え、いまでは特殊工作員という立場にむしろ幸運を感じている自分すらいた。

 ――アカデミーにいかなくても努力すれば真っ当な司令官コースへ返り咲ける。

 天儀総司令の側近ならチャンスは大きい。口にすれば無様だが、アヘッドセブンのやつらを、同期生を見返せる。最初はそう考えていた。

 

 だが、いまは、自分の判断一つで多くの命が失われる。その責任が恐ろしい。

 ―― 一人一人の死に責任を持ちたい。

 俺が艦長なり指揮官になるなら、そういうボスでありたい。だが、何百人、何千人の命に責任を持てるのか? 宇宙線に被爆し瀕死だった紅葉。焼き付いた体にできたケロイドは、いまの医療技術でも消し去るのは困難だろう。俺には彼女1人の命ですら重かった。


「まあ聞くんだ義成くん。君はしらないようだがから教えてやる。初の艦上勤務で士官候補生がやることは、艦長の横で見ているだけだ」

「え……」

「つまりきみが天儀の側近に任命され、いままでやってきたことと変わらないのではないかと私はいいたんだがどうだろうか」

「いや待ってください。簡単な実務なりを任されないんですか? 候補生といっても軍人として乗艦するんですよ。学生の身分じゃない」

「いやはや、やはり君は面白よ。というか有り体にいえばプライドが高い。自分をどれだけ特別視しているんだい。候補生のガキンチョが、艦上へいって意見を求められたり、指揮を任されたりすると思っていたわけか。そんなわけはない。だいたいは、じゃまものあつかいされつつ、暇なときに口頭で色々教えてもらうだけだよ」

 

 だろ? というようにランス・ノール参軍事が、シャンテル戦線司令を見た。


「うふふ。わたくしは戦線司令官として士官候補生のかたのお相手をするときは、お茶をしてますー」

 

 ニコニコしていうシャンテル戦線司令に、俺は、それでいのか? 本当か? と大困惑だ。

 

「あの天儀のことだ戦闘に関する雑務を君に押し付けたろ。あの男は事務仕事とかは絶対に苦手だ。座りながら居眠りするタイプだと断言できる」

「……うッ」


 俺は山のように与えられた書類の山を思いだし青い顔になった。書類の山といってもデータなのだが、A4用紙に印刷したら分厚い紙束になる量だ。

 ――明日までだ。

 といって、天儀総司令は気軽にいってくれるが、毎回死ぬほど大変だ。ただ、どれも軍高官が扱う書類ばかりで、まっとうな司令官に憧れる俺にとってはとても面白いものだったが……。あの量はない。なんで溜め込むのか。勘弁して欲しい。

 

「はは。図星だな。つまり、きみは私より天儀という男の戦い方をすでにしっているともいえるぞ。私はあいつと殺し合った。お互い大軍の奥底に居座って、殺すのは簡単じゃない。勝つには相手をよく知る必要がある。つまり、やつと戦ったことは最高の相互理解の一つだったすら思うが、それでも真横で指揮を見ていたことのある君にはおよばないだろう」

「カミロ参軍事にとって天儀総司令が、どんな手順で戦うかまでは推測の域をでない、とうことでしょうか?」

「そういうことだ。君は天儀の戦闘のスタッフワークやった。これは天儀の手の内の一端をしるということで最高の軍事的教育をうけたとうことでもあるんだぞ」


 ――確かに……。

 俺は、気持ちが萎縮してからも、自分が指揮官だったら、司令官だったらと考えなかったかといえば嘘だ。ただ、ここはフライヤベルク戦線で、そのなかでも最重要のフライヤフリューゲ。俺の指揮官デビューなんてやっている余裕はないはずだ。だが、ランス・ノール参軍事は。


「私は君をきたる作戦の司令官として起用する!」


 強い宣言だ。そして間髪入れずにシャンテル戦線司令官が、その身に先鋭さをおびガラリと雰囲気を変え、

「シャンテル・ノール・セレスティアの名によって命じます。参月義成。わたくしの騎士シシスベとなって敵へ鉄槌をくだしなさい。艦隊の女王たるわたくしは、戦線の冠たる立場を望みます」

 と俺へ向けてはなった。理不尽にも俺の心は奮起し、高揚した。いや、理不尽だからこそ心が灼熱した。少し忘れていたが、これが軍人としての闘争心。忘れていたが思いだした。シャンテル戦線司令には、やはり人の上に立つ資質がある。

 俺は跳ねるように背筋を伸ばし敬礼。ハイ! と短く大きく発していた。


「うふふ、頼もしい騎士義成シシスベ。わたくしを艦隊の女王から、フライヤベルクの女王にしてくださいましね」


 笑っていうシャンテル戦線司令は、やはり可憐だ。そしてランス・ノール参軍事も俺に言葉をかけてくれた。


「立場ある誰もが、無能は近くには置かないし、見込みがあるやつをつかいたい。義成くんはプライドが高い割に、自己評価が低いな。改めるべきだ。全軍の総司令官である天儀が、君を側近に起用したということに自信を持つべきだ」

 

 天儀総司令は、俺に期待してくれているのだろうか。若干怪しいところだが……。

 

「……参月義成は、努力をしても無駄ということを証明してくれる存在」

「なに?」

「自分の星系軍士官学校時代のあだ名みたいなものです。嫌でした。お前の努力は本当に結果につながらないな、と教官からすらいわれました。俺の成績は、入学から卒業まで47番でしたから」

 

 ランス・ノール参軍事は、なにもいわなかったが察し顔になった。


「ですが今回そんなことはない、と証明しますよ」

「ああ、必ずできる」


 ランス・ノール参軍事は、清風が吹くようにあっさりと断言してくれた。ただ、この人が、あまりにあっさりいうので俺はつい、

「本当に大丈夫ですかね?」

 と問い返してししまった。


 ランス・ノール参軍事が、俺を見ろ、というようなジェスチャーをした。その姿は自信満々だ。それを見て俺は思わず笑ってしまった。そうだ。この人からしたら俺の悩みなんて、やはり小さいものだろう。シャンテル戦線司令も笑っている。


「義成さん騙されてはダメですよ。カミロさんと比べてしまったらなんだって大丈夫なんですからね」


 そう。独立戦争が失敗すれば騒乱をなしたたんなる重罪人。建国の英雄にして国家元首が、一気に反転すれば奈落しかない。失敗したこの人は、反乱軍の首魁しゅかいとして捕らえられ公民権停止の軟禁状態。これに比べればなんだって〝大丈夫〟になってしまうはずだ。

 

 そのあと俺は、ランス・ノール参軍事から作戦会議の準備をするように命じられブリッジをあとにしたのだった。

 

 ランス・ノールが、慌ただしくブリッジをあとにする義成を目で見送りながら、

「ふん。天儀め回りくどく、かつストレートなことをしてくる」

 とシャンテルへ向けていった。

 

「あらなにかありました?」

「これを見ろ」

「あらまぁ……。あの男らしいといえばそうですが」

 

 ――そちらの戦線司令部より提案されし作戦を許可する。

 ――ただし総司令部は、迎撃戦力の司令官に参月義成を指名する。

 

 ランス・ノールがシャンテルへ見せた端末の画面にはこうあった。

 

「天儀のやつめ俺の正体に気づいているかはしらないが、見事にマウントをとってきたな」

「ほんとですね。この通達文からは、軍のトップは俺様だ、というあの男の圧力を如実に感じます」

 

 そしてシャンテルは、こうも思うのだ。

 ――義成さんがしくじったら全部わたくしたちのせいになさる気でしょうね。

 わたくしは、あの男の狡猾さをよくしっていますからわかります。もし、お兄さまとわたくしが総司令部へ提案した作戦が失敗した場合のあの男の言い分が、すでにありありと浮かびます。


『総司令部の責任? そんなものは知らんなぁ。作戦は戦線司令部そちらの提案だろ』

 

 そして天儀は、わたくしを戦線司令官から解任。あの男は絶対にわたくしの軍事的能力を疑っているに決まってますから。作戦が成功すれば、あの男にとってはラッキーで大得。失敗してもこのシャンテル・ノールを解任する口実になって損なし。そして……。

 

「失敗すれば、義成くんのしくじりも私達のせいにされるだろうな。天儀め自身の手元で、彼を使う余裕がないから、私達に初陣の士官よしなりを押し付けたのだろう」

「ええ、しかも義成に手柄を立てさせろよ。面倒を見ろ。義成に失敗させたらお前達はただじゃおかないぞ。ということでしょうね。あの男の正義とは、この程度のものだとシャンテルは思います」

「はは、シャンテルはいまだ天儀を好まないか。だからといって義成くんに冷たくしてはダメだぞ。彼は少し暗いが好漢だ」

「それですカミロさん聞いてくださいまし」


 そしてシャンテルは、義成がかつてランス・ノールという男が起こした独立戦争のやり方を非難したときの顛末を話した……。


「はは、義成くんは見るからに正義漢といったふうだったが、やはりそうか」

「だからわたくし、いってやりましたの。義成さんが、あのときのランス・ノールの立場ならどうしましたかって」

「おお、勇ましい。で、彼はどう応じてきたんだ。ランス・ノールの乱を手厳しくも不正義だと非難したのだろ?」

「それが、しばらくダンマリです」

「はは、困ってしまったのか」

「はい。可愛らしいぐらいにね。ただ、あのときのわたくしは、お兄さまを非難されて怒り心頭。義成さんは天儀の側近。どうせ強情をおはりになって強弁で言い訳すると考えていたのですが……」

「違ったのか義成くんは?」

「そうなんです。義成さんったら額に脂汗すらうかばせて、――後ろ指をさした相手と同じことをやろうというのは愚かしいですね――。そういったんです」

「はは。これは愉快だ。彼はやはり正直で、正義を愛する男のようだな」

「ええ、義成さんは、自分がランス・ノールと同じ立場なら、ランス・ノールと同じことをしたろうとお認めになって謝罪の姿勢を見せてくれたのです。シャンテルは、義成さんにとても良い印象を持ちました。お兄さま、絶対に義成さんを失敗させてはダメですからね」

「はは、私はカミロ参軍事で、戦線司令官のお兄さまではないが」


 ――あ!

 という顔をシャンテルがして赤くなった。力んで話していて、思わず可愛い口から飛び出たー禁止ワード。公民権停止のランス・ノールが、戦場にいることは秘密なのだ。兄妹2人とQC親衛隊だけの場所だけで、公然とランス・ノールといえる。それ以外はご法度だ。

 

「この参軍事レアル・カミロ。シャンテル戦線司令のご命令では逆らえない。義成くんには必ずやってもらうさ。天儀め義成くんの愚直ともいえる正直さに感謝しろよ」


 ランス・ノールが痛快にいうなか。ランス・ノールとシャンテル・ノールの周囲では、

 ――まーた兄妹がいちゃついてるよ。

 という冷めた空気。もちろん話の内容までは聞こえないが、仲睦まじく会話しているというのは目に映る。レアル・カミロがランス・ノールというのは、すでにフライヤベルク戦線内では公然の秘密で、周知の事実だった。

 

 天儀の前に戦争指揮をおこなっていた未来型AIミカヅチは、かつてランス・ノールが所属した旧セレニス星間連合軍内でもランス・ノールに好意的な軍人を集めていた。

 

 戦線にレアル・カミロとして現れたランス・ノール。

 ――相変わらずの重病級のドシスコンは治療不能か。

 とは思いつつも、フライヤベルク戦線の兵員達は、ランス・ノールの軍事的能力に絶対の信頼を寄せているのだった。

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