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過去作品(更新停止)   作者: 遊観吟詠
ここまで改稿済み
46/105

3-(19) 女神は気まぐれ

*次回の更新は9/28もしくは9/29です

 黒々とした宇宙――。

 輝く星々は宝石のごとく――。

 そこを静かに進むは巨大艦隊。

 ヌナニア軍、国軍旗艦瑞鶴こくぐんきかんずいかく以下120隻は敵を求めて邁進まいしんしていた。


天儀総司令てんぎそうしれい!」

 

 俺、参月義成みかづきよしなりは息せき切ってデスクワークする天儀総司令の前へと飛びでた。

 ――なんだ?

 というように気のない表情で天儀総司令が顔をあげたので、俺ははやる気持ちを抑えつけ規律正しく敬礼してから報告を開始した。

 

「なんと紅飛竜こうひりゅう艦隊の正確な位置が判明しました!」

 

 瞬間、天儀総司令の顔色が変わった。戦闘で発生した大量の事務処理作業という単調なデスクワーク。眠気と格闘しながらの退屈な仕事。だが、俺の一声で天儀総司令の顔には生気がみなぎり、瞬時に臨戦態勢だ。

 

「本当かそれは、でかしたぞ! 偶然にしても幸運だ」

「はい。3分前に花ノ美少佐(かのえしょうさ)のストライダー部隊から通信があり紅飛竜艦隊のより正確な戦力と座標が送られてきました。ご覧ください」

 

 俺はそういいつつ天儀総司令のデスクにデータを転送。


「義成、俺はな。花ノ美とアバノアならなにかもってると思っていた。俺が渇望するのは敵位置。敵将紅飛竜は所在はいかん。おおよその場所が検討ついているが、交戦するには曖昧すぎる位置情報だ。彼女たちならやってくれると思っていた。昔から幸運の女神というだろ? 彼女たちはそれだな」  

「あいつらが幸運の女神ですか……。どちらかというと邪神なきがしますが……。って、あ、すみません。マップを送らずに測量図を転送してしまいました」

 

 しまった俺が天儀総司令のデスクに転送してしまったのは、紅飛竜艦隊の位置が描き込まれた宙域のマップではなく。測量部の取ってきたデータと煩雑な図面だった。素人ではなにが描いてあるかまったくわからないものだ。

 

「ああ、いい。わかる。ちゃんとしたマップは、あとで測量部に催促する。お前が持ってきたのだってどうせまだ描きかけだろ」

「しかし、その点しか描かれていないもので、なにかわかるのですか?」

「俺は昔測量やってたからな。大体はな。もちろん正確には正式に完成したマップ見なきゃわからんぞ」


「え、測量部にいらしたのですか……?」

 と俺は驚いた。宇宙でも地上でもマップの作成は重要。そして軍隊は通常航路を大きく外れて行動することだってありえる。そう。艦隊は時と場合によっては宇宙を開拓しながら進むのだが、当然そうなってくると測量と天文観測が必須となる。未知の宙域では星を見て位置をしり、測量士が宙域図を作成する。


 これはもちろん、とっても重要な軍務なのだが、軍総司令官となるような人間が測量部に配置されることは絶対にありえない。測量部はプロフェッショナルだがエリートではない。

 だが、俺の驚きと困惑に天儀総司令は、まともに答えてはくれなかった。


「いや、違う。地上で測量やってたんだが、試験に宇宙測量の分野もでるからな。なるほど座標点の桁からして星系座標系でなく、宇宙座標系だな。で、おそらくこのLFって書かれている点が紅飛竜の艦隊で、UNって書かれているのが花ノ美とアバノアの部隊だろう。なんにしても二人はでかしたぞ」

 

 未知の単語が天儀総司令の口から次々と飛びでていた。俺は絶句。一角の司令官になるには、こんな知識まで必要なのか……。打ちひしがれたような気分だ。宇宙測量の知識なんて微塵もないぞ。だいたい測量は高度な分野だ。いまから勉強して覚えるには大変すぎる……。

 

「作戦会議を開くぞ。義成準備しろ。ここから紅飛竜の艦隊へ直進すれば1日半ででくわせる。出会ったが最後。やつらを叩きのめす!」

「あ、はい!」

「やつらは俺達の位置をまだしらない。正確な位置をな――!」

「あの天儀総司令、意気込んでいるところ悪いのですが、もう一つ報告が」

「なんだ。まだあるのか。早くいえ。早くいって準備しろ」

「花ノ美たちからはもたらされたのは紅飛竜の艦隊位置だけでなく、その正確な数です」

「1個艦隊だろ? だいたい多く見積もっても150隻ぐらいだ。もういい。早くいけ」

「いえ、違います」


 俺が暗い雰囲気をだしていっても天儀総司令ときたら興味なさげで、

「なんだ。紅飛竜は多いのか」

 と、あまり真剣には取り合ってくれない。だが、数は重要だ。単純にやれることは増えるし、砲門の数も多い。砲門の数が多いということは攻撃力に優れるということだ。


「……はい。200です」


 天儀総司令が、一瞬ぽかんとして停止。

「200か……」

 といった。


「はい」

「わかった。対処はある。義成お前早く作戦会議の準備に入れ」

「総司令、我々は120隻です」

「――くどい!」


 俺は、うるせえぞ! というにように怒鳴りつけられ驚いて退散。

 ――しかし、いいのか……?

 敵は俺たちより1.66倍多い。艦隊決戦では、敵が自分たちより1.5倍多いと勝利不能と言われている。

 

 一方、そのころストライダー部隊では――……。

 頭にヘッドセットをつけた花ノ美・タイガーベルが、部隊旗艦リシュリューの指揮座で相棒のアバノア・S・ジャサクと通信していた。

 

『花ノ美お姉さま敵を見つけたのは、いいのですけれど………』

「早晩こっちも紅飛竜に見つかって、排除の戦力が向けられるでしょうね」

『ええ、そのときはどういたしますのお姉さま? 敵はおおよそ25倍。普通なら距離を取るのがベターですけれど』

「まさか。バカ言っちゃって。向けられた敵戦力を回避したら紅飛竜の艦隊を見失いかねないわよ。それじゃせっかく見つけたのに意味ないじゃない」

『では、迎え撃つと?』

「ま、基本はね」

『ハー……。どう考えてもバットエンドコースですの』

「そうかしら?」

『そうですわよお姉さま。ハアー。……では、お姉さまもう一つ問います。敵が戦力をわけずに、そのまま1個艦隊でこちらへ突っ込んできた場合はどう対処しますの?』

「あら、それいいじゃない最高のケースよアバノア」

『お姉さま……。25倍とわたくしが口にしたことをお聞きになっていなくて? 1個艦隊とは120隻から200隻規模。わたくしたちの偵察結果で判明したのは紅飛竜の戦力は大小艦艇あわせて198隻で未発見の可能性も加味すると約200隻。8隻では天変地異でも起きなければ……、そう例えば偶然たまたま巨大な隕石群が一万年に一度の周期で、ここを通り過ぎ敵艦隊に直撃! このクラスの幸運でもなければ勝てる可能性はないと思いますけれど?』

「あら、そんな隕石群が通り過ぎたたら私たちの部隊も無事じゃないわよ。むしろ私たちのも全滅? ま、なんにせよ紅飛竜艦隊が消滅するからトートゥゾネの戦いはヌナニア軍の勝ちね。やったわラッキー」

『……花ノ美お姉さまったら、冗談を言っている場合ではないのですけれど』

「アバノアあんたが先に言いだしたんでしょ。わかってるわよ。1個艦隊が向かってきちゃったらの対処でしょ」

『ええ、はい。どうそよろしくお願いしますの。できればお姉さまの可愛いアバノアとしては、現実的なものを所望します』

『ふん。仮に紅飛竜が1個艦隊まるまるで私たちの排除に動いたら、それこそ8隻で1個艦隊の誘引の大成功じゃない」

『なるほど、その場合は付かず離れずの距離を保って紅飛竜の艦隊を引き回すと』

「ま、そんなところね。いわば鬼ごっこよ」

『宇宙舞台に壮大な鬼ごっこですこと……』


 そしてストライダー部隊は3時間後に紅飛竜の艦隊の偵察に発見され。二時間後に敵の牽制部隊と交戦。からくもやり過ごし、花ノ美は、

「全艦回頭――!」

 を指示。花ノ美は天儀の本隊とは逆方向にストライダー部隊を進めた。

 

 これを見た敵将紅飛竜は、ストライダー部隊が逃走を開始したと判断。

「もういいだろう。牽制部隊を収容する。敵は小勢。あれは、おそらくヌナニア軍本隊とはまったく別の戦力だ。偵察部隊にしては中途半端にすぎる。どこぞの他の戦線への増援だろう。戦艦2隻というのは甘い餌だ。こんなものに、かかずらっている暇はない。いまは全軍をもって、廉武忠を倒したヌナニア軍本隊を叩く!」

 一路廉武忠が敗退した宙域へと向かった。

 

 が、10時間後……。ストライダー部隊では問題が発生……。


「はあああ?!! こっちの偵察機が、敵艦隊に近づきすぎて敵哨戒機に見つかったですってえ!!!」

『花ノ美お姉さまったら落ち着いてくださいまし。クルーたちも見ていますのに……』

「落ち着いてるわよアバノア! でも、こっちは見つかってなかったのよ。それでいて紅飛竜の動きはバッチリ監視できてたのに! のに! 近づきすぎた理由はなによ?!」

『偵察機から射出した観測ドローンを回収しようとして近づきすぎたらしいですの』

「はああ?!! ドローンなんて捨てておけばいいじゃない!」

『それが偵察機の隊長さんがいうには、ドローンを飛ばそうとしたらハッチが開かずに、乗員が一人宇宙服を着て外から手動でハッチをこじ開けた拍子にドローンもろともその乗員が宇宙に放りだされたとかで。ドローンは遠隔操作ですぐに回収できたらしいのですけれど、哀れその乗員の男はすっ飛ばされてジェット速度での宇宙遊泳』

「それを助けようとして敵の哨戒網に入っちゃったわってわけ!? 欲出してんじゃないわよバカ! バカ! バカ ! バカアアア!」

『そのご発言。ドローンを飛ばそうとしたのが欲張りなのか、乗員を助けにいったのが欲張りなのか問うのが怖いのですけれど、それはアバノア問わないことにしますの』

「バッカじゃないの! バッカじゃないの! 台無し! 台無し!」

『ええ、まあそうなのですけれど……。これで確実にわたくしたちの存在は、紅飛竜の艦隊にしれましたので、いまは悪態ではなく指示をお願いしたいところなのでけれど』

 

 部隊旗艦リシュリューのブリッジでの大画面をつかった通信。このやり取りは当然にブリッジのクルーたちに筒抜け。ブリッジには、

 ――マジカよおい……。

 という白けた空気。相手は200隻規模。もうこうなったら離脱をはかるしかないが、ここまできての作戦中止は白けたものだし、だいたい部隊司令コマンダー花ノ美・タイガーベルの発言もいただいけない。

 

 ――欲出してんじゃないわよ!

 

 これは間違いなく、吹き飛ばされた乗員を助けにいったことへの悪態だ。宇宙服には救難信号の発信装置がついているが、その電波はそう遠くには飛ばないので、壊れたドローンが敵艦隊へ漂うよりはるかに見つかる可能性は低かった。偵察機から放りだされた男を見捨てれば、敵に発見されることはなかったのだ。この微妙な空気の変化を、花ノ美がわからいでか。いや、わかる。花ノ美・タイガーベル野性的勘はピカイチだ。

 

 ――あ、ヤバイかも……。

 私たち総参謀部って、前線きてはあれこれ偉そうに指示するウザイヤツラって、やっかまれてる部分もあるのよね。アクレスは督戦でめちゃくちゃしたし、私もアバノアも結構年配の司令官相手にズケズケいったしね。優秀でもいけ好かない集団なんて思われてても仕方ない。いま、クルーの信望を失うのはまずいわよ。だって私はなんとかして、このまま紅飛竜の艦隊を追いつづけたい。それにはクルー達の熱意ある協力が不可欠……。チッ、しょうがないわね。

 

「アバノア!」

『はい。なんですのお姉さま?』

「件の偵察部隊の隊長に通信をつなぎなさい! あんたが報告してきたってことは、あんたのフロンサックで、その偵察機を収容したんでしょ?」

『ええ。まあ、大失態したので直接報告したいとのことでしたので……。でも、お姉さまどうする気で? じかに叱責などはわたくしお勧めしかねますけれど……』


「いいから早く!」

 と花ノ美がしびれを切らせていうと、ブリッジのモニターには、

『申し訳ございません!!』

 という言葉とともに真っ青な顔をした40代の男が映しだされた。なんのことはない。失態を犯した偵察機の隊長は画面に映っていないだけでアバノアのすぐ近くにいたのだ。

 

 深々と謝罪のお辞儀をする男。相手はアヘッドセブンの一人で、生きのいい総参謀部の若手だ。どんな叱責が飛んでくるか、いや、どんな罰だされるか気が気でない。督戦とくせんで訪れる総参謀部員は、失態を犯した兵員に容赦がないのは有名すぎるほど有名だったが――。

 

 花ノ美は、ここで叱責と処分ではなく、

「通信兵! 私のリシュリューを含めた8隻に全艦通信!」

 というクルーへの指示。


『お姉さまなにをする気で?』

「訓示よ。戦闘前のね」

 

 この花ノ美の言葉に、偵察機の隊長は真っ青だ。部隊の士気をあげるために、自分はストライダー部隊の全員の前で叱責され、とんでもない重罰をくだされる。規律を引きしめるための見せしめ。そう、全艦通信とは、艦内の隅々に声をとどくようにするという指示で、スピーカのついている部屋に声が響き渡る。敗北する廉武忠が軍団へ向けて発したのも、この全艦通信だ。なお、宇宙船でスピーカのない部屋を探すほうが難しい。

 

 偵察機の隊長からは、

 ――もう泣きたい気分だ!

 という悲鳴はでないが表情は悲壮感がただよい悲惨だ。リシュリューのブリッジのクルーたちの反応も、ご愁傷さま、という偵察機の対中への同情の沈黙。

 

「8隻への全艦開始まで、5、4、3,2、1、開通――!」

 

 この通信への掛け声とともに8隻の主要モニターには花ノ美とアバノア、そして偵察機の隊長のグループ通話が映しだされた。なお、8隻の乗員たちはできるものは直立し敬礼だ。


「アバノア副司令。彼のおこなった行為と状況を説明して――」

 という言葉にうながされたアバノアの口から、ストライダー部隊が敵にふたたび見つかってしまったことと、その理由が語られた……。偵察機の隊長は口を一文字にし黙って直立。微動だにしなかった。あきらめたのか、醜態をさらしたくないという危害だったか、彼はとにかく黙っていた。アバノアの話が終わると、花ノ美がゆっくりと声を発した。

 

「よくやったわ隊長。私は偵察機隊長の人道的行為を高く評価するわ」


『は、はいいい!』

 と偵察機の隊長が、裏返った声で敬礼。叱責されるはずが、まさかの称賛。だが、偵察機の隊長としては油断できない。持ち上げておいて落とすというテクニックもあるのだ。もしかしたら一転叱責と罰がくだされるかもしれないが、それは勘ぐりすぎだったようで……。


「隊長さん、あなたが助けにいかなかったら私が8隻を率いて助けにいくところだったわ。手間を省いてくれてありがとう。お礼をいうわ」

『恐縮であります!』


 やり取りを見ていたアバノアが内心で苦笑した。だって、お姉さまったら見捨てればよかったのにと思っていたくせに、これはとんだ役者ですの。ウフフ。でも、このアバノア。そんなサイコパスなお姉さま大好き!! アーたまりませんのお!


「ところで隊長、機外に放りだされてジェット速度で遊泳してたあなたの部下は無事だったの?」

『ええ、もちろんです! おかげさまでピンピン、いえ、いますぐ軍務に復帰できます! ほら、お前もでてきてお礼を言え!』


 画面には隊長に引っ張りだされるかたちで青年が映しだされた。その青年はすぐさま涙ながらに敬礼した。嗚咽し言葉にならない。彼だって自分がしでかしたことの重大さを、取り返しのつかさなを理解しているのだ。青年だって叱責と厳罰を覚悟していた。

 ――なんで死んでこなかった!

 とすらいわれると思っていたのだ。それが部隊司令コマンダー花ノ美は、とても心配げで、自分の無事な姿を見た瞬間には、心からの安堵と喜びの表情。軍にこんな部下思いの指揮官がいるのだろうか? いや、いない。とくに総参謀部には悪魔しかいない。それなのに自分の上司の部隊司令コマンダー花ノ美は違った。

 

「よかった無事だった……。ほんと心配させんじゃないわよ。戦場は悲惨で、汚く、酷いけれど、あなた達が私のしたにいる間は、そんな思いは絶対にせないんだから」

 

 そのさまは、さも手を取るように優しげにいう女神。通信画面越しなのに、目の前で対面して温かい言葉をかけているように、ストライダー部隊の隊員たちの印象には残った。

 

 ――ああ、美しい。

 とアバノアも感嘆。ええ、ですけど、わたくしアバノアにはわかっております。お姉さまったら内心は、こいつが大失態したとんだバカね! と頭の中の絶対に許さないやつリストに記入中。あら、とんだ死のノートですこと。ウフフ。お姉さは、そんな素振りを一つも見せないので、皆さんとっても感激してるじゃありませんの。

 

「いい、あなたたち! ストライダー部隊は一人だって欠けない。全員で戦い、全員で帰る。そして全員で天儀総司令へ、私たちの戦いを、勇姿を報告する! いい危急に陥ったら私にいいなさい! 絶対に、絶対に助けにいくからね!」

 

 本来は作戦行動中に機外に放りだ人間など見捨てるのが当たり前だが、この花ノ美の言葉で8隻まるごとの士気があがった。各艦はブリッジだけでなくいたる部屋で、

『イエス・マム! アイアイム・マム!』

 の短いが熱い合唱が響いた。

 

 戦争は無慈悲だ。高官にも下っ端にも死は平等に降りそそぐ。たとえ大勝利しても損害ゼロは絵空事。死者は少なからずでる。勝ち戦のアンラッキー。だからこそ部下たちにとって部隊司令コマンダー花ノ美の言葉は感激的だった。たとえいったことが実行不能の約束でも、こんな重大な局面で部下をいたわる気概を見せられるものではない。

 

 花ノ美・タイガーベル。その端正な顔は黙っていれば間違いなく美人。性格は前向きで明るく、そして勇猛。いま、ブリッジの指揮座に敢然と立つ花ノ美は、凛とした美人といったところだが内心では……。


 ふ、ちょろい……。いえ、危なかったわー。ちょっと本音がぽろりとだだもれしたらみんな幻滅じゃない。今後は気をつけなきゃね。ふー。

 

 花ノ美・タイガーベル。参月義成みかづきよしなりいわく邪神。

 けれどアバノアからいわせれば、

 ――女神はいつも、とっても気まぐれですの。

 ということだ。そう。花ノ美を一番慕っているという自負のあるアバノアからいわせれば、女神が崇拝してくる人間へ向けるのは慈悲や慈愛ばかりではない。むしろ理不尽が多い。そして、この場合の理不尽とは、8隻で200隻をかき乱すという非現実的な離れ業だった。熱に浮かされた部隊員たちは、まだそのことを知らない――。

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