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過去作品(更新停止)   作者: 遊観吟詠
ここから最新の改稿(9/20~9/21改稿分)
45/105

2-(21) 勝利への算数

「義成。ファインプレーだ。謎の一体感が生まれて会が終わった」

「それは褒めていただけているのですよね?」

 

 天儀総司令の言葉に困惑する俺の背後では、後片付けが開始されていた。トートゥゾネ総監部側の人々はすでに去り、六川軍官房長や星守副官房が率先して動いている。

 報告会と銘打った波乱の祝勝会は、一同が一斉に笑声をあげるという一体感をだしたところで終了したのだ。


「もちろんだ。これから攻撃計画だ。皇統派こうどうはの連中は、トートゥゾネで戦いたいと考えている。勝利の形だ。退けたじゃなくて、撃破したというわかりやすい勝利だ。そして俺もだ。意見は一致している。だが、感情的に確執していて難しい状況だった。それがお前のおかげで、うまくいく可能性がでてきたぞ」

「そうなんですか?」

「俺は、苦肉の策で、帝の威厳を引っ張り出して、皇統派を統率しようと考えていたんだが、会を模様してみれば状況はそんなに甘くないと痛感して内心悲嘆に暮れていた」


 そうだったのか。そんなふうには見えなかったが、とにかく天儀総司令は、あの状況で皇統派と同連携を取るか模索していのか? だが、違う。

 ――皇統派をどう始末するか。

 考えるべきことはこれじゃないのか。いまのヌナニアにあって彼らの思想はあまりに危険に思える。それこそ未来型AIミカヅチが、危険視してあえて死地においたことが納得できるぐらいの右派軍人だ。


「中々の側近ぶりだったぞ義成。早くもわかってきたじゃないか」

「それよりトートゥゾネです。このまま戦うのですか? 会では誰もがそう考えていたようですが、敵の攻勢をくじいたということに満足して帰るという手もあると考えます」


「ふ――」

 と天儀総司令が嫌な感じで笑った。お前は戦いがわかってない、と露骨に見下されたと感じたのは俺の被害妄想だろうか。

 

「義成。戦いはターン制のゲームじゃないんだよ。自分が殴ったら、次はあなたがどうぞじゃいつ戦いは終わるんだ? 終わらんだろ」

「たしかに、そうですが……」

「戦いはターン制じゃないか。うむ。我ながらいいこといったな。これはわかりやすいじゃないか。今度の訓示でつかおう」

「ですが、攻撃は難しいと思います。飛龍艦隊の損害が大きすぎます」

 

 だが、天儀総司令は聞いちゃいない。皇統派もといいトートゥゾネ総監部側と連携が可能だという兆しに、かなり強い可能性を見出したようで興奮気味だ。


「戦いが難しいのは当たり前だ。俺には勝利が必要だ」

「それは誰にだって必要です。それこそ政府も軍も勝利が欲しい。全軍人が、いえ、ヌナニア連合全体が欲しいものです」

 

 天儀総司令が、だろ? という顔した。なんかこの人の口車に乗せられて、発言したような気がしてしゃくだったが、天儀総司令の次の言葉を待った。


「誰もが勝ちたいのに、俺の統率力は、いまは制度的に制約をうけた状態で、これではとても力を発揮できん。宇宙的規模の戦場全体を統括するには、権力の一本化が不可欠といっていい。現状は違う。これには解決策はある。勝つことだ。勝って本国の制服組に、最前線特権の行使を認めさせることだ」

 

 なるほど筋はとおっている、と俺は思った。


「戦場では、勝利だけがすべてを解決する。いまは、すべての状況的に戦うしかない」


 天儀総司令は、このまま帰るなんてとんでもないという感じだな。だが、勝算はあるのだろうか……。廉武忠の艦隊はほぼ無傷だろうし、紅飛竜の艦隊もこの近くにいるはずだ。二つの艦隊に合流されると、

 ――敵は約二倍!

 

 ヌナニア軍は、俺達の総司令部機動部隊サクシオンと、李飛龍艦隊の残存兵力を合わせてやっと廉武忠の艦隊と同等の戦力か、少し上回る程度だ。しかも、廉武忠が下がった先も、紅飛竜艦隊の位置も不明。

 

 俺達は、常に二倍の敵の影に怯える状況に置かれてしまったといっていい。どこから現れるともわからない敵を求めて進み。不意に目の前に敵。驚いたら後ろにも敵。わからないということほど恐怖を煽るものはない。


「それより天儀総司令。皇統派は、この会を天儀総司令に文句をいう機会にすり替えました。これは大問題です」


 俺は側近として、いうべきことはいう。いまは戦うことも重要だが、大東提督ら皇統派の処分も念頭に入れるべきだ。戦ったあとに処分するにしても彼らの思想はあまりに危険だ。それなのに天儀総司令は、まったく気にもとめてないふうだ。


「奴らが俺と直接会えるなんて滅多にないからな。ま、ああなるだろうとわかっていた」


 なんだそんな話をしたいのかって顔だな。だが、天儀総司令は、彼らの態度に問題を感じないのだろうか。いや、あえて装っているだけなのかもしれないが、それでは認識がかるすぎるように思う。


「わかっていたのなら何故対策を講じなかったのですか。あれでは総司令官の威信は地に落ちたも同然です」

「もとから俺の威信なんてゼロみたいなもんだろ。経歴抹殺刑ダムナティオ・メモリアからの復帰だぞ」

「そうですが、だからこそです。ただでさえ低い威信が、これ以上貶おとしめられる状況は避けるべきです」

「はっきりいやがる。だが、あんな奴らほっときゃいい。あれも世論の内だ。封殺は無意味どころか危険だ」

「意外に大人しい意見をいうんですね」

「そりゃあ国民軍の総司令官だ。大人しいさ」

「皇軍のとき、つまり旧軍グランダのときのようにおやりになってよかったケースだったと考えます。相手は旧軍出身者ばかりで、しかも旧グランダ軍。昔のあなたの部下で、いまもあなたの部下だ」


 俺の強い言葉に、天儀総司令は苦い顔で黙ってしまった。だが、人食い鬼といわれた男がなにを今更。部下を統率できないんじゃ戦う以前の問題だ。そもそも皇統派の天儀総司令への糾弾は、誰がどう見ても難癖だ。あそこは強くでるべきだったんだ。

 

「総司令官権限で、警務部を動かして事前に会の趣旨を伝えるべきだったと考えます。軍警務部長がメッセンジャーとして現れれば、身に覚えの多い皇統派は震えあがって会では沈黙したでしょう」

「バカをいうな。反乱に発展しかねんぞ。仮に反乱なんてなってみろ、とんだ不祥事だ。それこそ俺の統率力が首相から疑われる」

「反乱になりません。いまの皇統派に、そんな準備はないですよ。大げさなことをいって自分を丸め込むのは、無理だとお考えください。お忘れのようですが自分は、秘密情報部です」

「あーそうだったな。内部情報には詳しいわけか。面倒くせーぐらいにな」

「皇統派へ罰を与えろとはいいません。ですが、いまからでも厳重注意すべきです」

「はぁー義成ぃい。お前は、どこまでも義成なんだなぁ」

「どういう意味でしょうか。自分は常に参月義成ですが」

「わかってる。わかってる。お前は義成で、どこまでもド真面目の馬鹿正直だ」

「皮肉なんでしょうが、残念ですが褒め言葉にしか受け取れませんね」

「……はぁ。わかった特別に教えてやる。勝利の算数をな」

「いいです聞きたくないです。自分は、いまいきどおりを持っています。なにを聞いても貴方に幻滅するでしょう」


「いいから聞けよ」

 といって天儀総司令が、俺の肩に腕を回してきた。この人の強引さは、何故か心地よい。不思議だ。ムカついていても、このスキンシップに悪い気はしない自分がいる。

 

「いいか義成。俺は、いまから戦いたいんだよ。それにはトートゥゾネ戦線総監部。つまり皇統派の協力が不可欠だ。奴らはベテラン兵で優秀だ。数的に考えても頼みになる。冷静になれ義成。総司令部機動部隊サクシオンが単独で、トートゥゾネ内の敵に艦隊決戦を挑むなんて無謀だろ」

「だからって……。皇統派の態度は不誠実そのものです。彼らは、天儀総司令が取るものも取り敢えずトートゥゾネに駆けつけたとわかっていて、ああやって責めたんですよ」

「細かいことを気にするな。ガキは駄々をこねたいんだよ。こねさせときゃいい。対して俺達は大人だ。大人には、なにが重要か。わかるだろ?」


 天儀総司令が意味深に言葉を切って、六川軍官房長や星守副官房が見た。二人共こちらの視線に気づき、六川軍官房長は会釈したが、星守副官房はベーっという顔をした。

 ――これが大人……?

 六川軍官房長は大人だが、星守副官房は優秀な人だが子供っぽいところが多い人だと思う。

 

「俺達大人は、目的が重要なんだよ。大人の俺は、戦って勝ちたい。トートゥゾネの廉武忠や紅飛竜を撃破したい。繰り返すが、それには皇統派の協力が必要だ。感情で動いては勝てない。トートゥゾネで戦うためなら俺は、奴らの足の裏だって舐める。わかったか」

「……」

「ふん。黙りこくりやがって、だがその目はムカつくが、頭では理解したって目だな。偉いぞ義成」

「やめてください。頭をなでるだなんて!」

 

 俺は、振り払おうとしたが天儀総司令はやっぱり強引だ。俺をグイっとより引き寄せてからさらに言葉を継いだ。

 

「いいか義成。皇統派には弱みがある。帝という弱みがな。やつらは自分たちが戦功をあげれば、グランダ国内での帝のステータスを上昇させられると考えている」

「……皇統派が主力となって勝てば皇帝に政治権力を取り戻させられるというわけですか。ですが簡単ではないでしょうし、現実的ではありません」

「だろうな。だが、やつらはそう考えている。俺とあいつらは、良好な関係とはとてもいえんが、戦いたい、そして勝ちたいという考えは一致している」

「やはり難しいと思います。彼らはあなたを嫌い抜いている」

「大丈夫だ」

 

 でた。天儀総司令の根拠なき断言。これまで幾度かあったはずだ。例えばトートゥゾネで戦いたい、というのもこの人の頭の中の納得だけだ。持論を言葉巧みにして、雰囲気で総司令部の幹部達を納得させてしまったんだ。天儀総司令だけじゃない。ワンマンなタイプのトップは、できもしないのにやれると平気な顔で断言する。

 俺の不信感は、顔にでていたのだろう。天儀総司令は、オイオイ、という顔になった。


「義成お前は、俺の話をぜーんぜん聞いてないな」

「自分がですか? そんなことはない。自分は、天儀総司令の言葉は一言一句聞き逃すまいと常に必死です」


 俺がムッとして反論すると、天儀総司令の嬉しそうに笑って、

 ――喜憂は同じ門に集まり、吉凶はさかいを同じくする。

 といってさらに継いだ。


「そして好きと嫌いは、巣を同じくするというわけだ」

「……なるほど」

「わかったか」

「はい。嫌い抜いているからこそ、嫌いな相手をよく知っていると?」

「そうだ。あいつらは俺を嫌いだからこそ、俺をよく知っているんだよ。俺の強さをな。帝に政治的権力を取り戻させるほどの大勝利が奴らは欲しいが、それには誰に戦いを指揮させるべきか」

 

 皇統派が望む大勝利には、天儀という男が不可欠だと皇統派はわかっているということか。なんて自信だ。勝てる前提じゃないか。

 ――だが、問題だらけだ。

 いまは、戦いを発生させるのも難しい状況だぞ。廉武忠はどこへ下がったかわからないし、紅飛竜の艦隊だってどこにいるかわからない。


「ご自分に都合のいい部分だけを見て、戦いに突き進んでいるように感じます」


 俺は、はっきりと懸念に思ったことを口にしたが、

「違うな。善きところだけを発揮し、短所を見せる前に仕留める。これは戦いの基本だ」

 天儀総司令は、俺の忠告を否定するようなジェスチャーをして部屋からでていってしまった。


 ――危険だ。

 たしかにトートゥゾネの皇統派は、旧グランダ軍なかでも中核を形成した部隊ばかり。しかも士官も下士官も戦いなれしている。彼らは、天儀総司令の戦い方を体でしっているし、天儀総司令も自分のだした指示で、彼らがどういう動きを見せるかわかっている。命じる方も、命じられる方も相手の癖をよく理解しているのだ。

 

 だが――。

 

 戦いは、一番やられて欲しくないことが、一番やられて欲しくないときに必ず起きる。お互いの長所だけを発揮して勝つなんてことを、本気で考えているなら危険すぎる。

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