2-(10) サクシオン(下)
「……チッ。こいつは使いたくない手だったが仕方ない」
天儀総司令が、そういったかと思ったら俺の肩に手を回し、
「いいか義成。手伝えよ」
とささやきバッと立ちあがり懐からなにかを取りだし掲げた。
「諸君には、これがなにかわかるか!」
どこからそんな声がでたのかというほどの大音声だ。あの収集不能に見えた議論が一瞬にしてやみ天儀総司令に注目が集まった。なお、俺は手伝えといわれてもなにを手伝っていいのかわからず天儀総司令の行動を見守るしかない。
それにしても天儀総司令が、掲げているものはなんだろうか、白くて縦長の紙で……。
――封筒か?
と俺が思った瞬間に天儀総司令から答えが飛びでた。
「そう。ご存じ密命令――!」
会議室内に驚きが広がった。
――封密命令。
往古それは決められた場所と日時に合わせて開封するときめられた絶対命令書。俺たちヌナニア軍においては、なにがあっても変えてはいけない基本方針が書かれたもの。例えば具体的には敵を撃破しても敵の領土内には進行するなとかだな。
なぜこんなものが必要とされたかというと儀式的な意味合いが強いが、役割もちゃんとある。いまの情報化が進みに進んだ時代だからこそ絶対に揺るがない、変えがたい命令を封書でだすのだ。
情報の流れは早く、状況も変わりやす。だが、いちいちコロコロ変わる状況に、つど判断を変えていたのではむしろ逆効果。悪手を打ってしまいかねない。こんなことをしていたらそのうち戦争の目的すら変わってしまう危険がある。そう。封密命令は基本方針。戦争の大前提をあらかじめ提示しておく最上級の命令書だ。
なお、基本的に開封はしない。おまじないのようなものといえるかもしれない。これを目にできる人間は、ほんのごく一部の軍幹部だけ、いや、総司令官だけかもしれない。だから幻の命令書ともいえる。
そう。これは幻の命令書だ。戦争目標は勝利だが、その具体的な勝利とプロセスは開戦時に閣内で決定され文書化される。だが、普通は命令書として発行などされない。大事にしまっておかれるだけだ。
「これは特別だ。出発前に首相から直接手渡された。困ったときにつかえと仰せだった。いまが、そのときだな」
着任して間もない天儀総司令。いくらなんでも困ったときにつかえが繰り出されるのは、早すぎるのでは……?
天儀総司令が、封密命令を手でもてあびながらフッと笑った。これに書いてあることがわかるか? というように。
「あ、私ってば、わかっちゃいました。それに攻撃が命じてあるんですね!」
率先して発言したのは、花ノ美だが、誰もが同じようなことを考えていた。政府は、戦況が芳しくないのを承知しているし、一刻も早いわかりやすい勝利を望んでいるというのが軍幹部の認識だ。
「チッ。封密命令の内容は、敵主力の撃破か……? まったく文民様は、おめでたいぜェ」
アクセルのいうとおりだ。いまどき寡兵で、奇襲食らわして一発逆転なんてことは夢見物語にすぎる。大会議室内の誰もが、
「天儀は、封密命令の内容を開示して艦隊決戦を主張してくる」
と暗く危惧した。戦うことが政府の意向となれば、反対は難しい。現場にはケース・バイ・ケースの裁量があるといっても、トートゥゾネを失うことはこの戦争の敗北を意味している。だが、艦隊決戦を挑んで勝てるのか? トートゥゾネに到着しても李飛龍艦隊が壊滅していていれば勝てる望みはほぼない。
要は、問題は攻撃かトートゥゾネの放棄ということなのだ。李飛龍艦隊が、泊地パラス・アテネへ後退できないとなれば、その二つしかない。だが、どちらを選んでも破滅。でも、それでも大会議室内の面々からすれば、戦力の温存が正しいように思えるのだ。トートゥゾネへいって増援ごと壊滅するより、手元に戦力を残せばなにか手があるかもしれない。
大会議室内は静まり返った。下手なことをいえば地雷を踏む。マシに思えるトートゥゾネ放棄を選択したいが、どうせ封密命令には攻撃の意向が書かれているだけ。誰もが黙り込むなか、六川軍官房長が、
「で、その封密命令には攻撃の意向が書かれているのですか?」
と口にしにくいことを、平然と口にした。
「いや、違うだろうな」
「おや、違う……。これは不思議だ。僕はてっきり……」
「てっきり六川軍官房長は、私が虎の威を借る狐を演じると思ったか。首相の威を借り艦隊決戦を強要すると」
「そこまでは、いいません」
六川軍官房長が首をかしげるなか花ノ美が、
「嘘。天儀総司令も中身をご存じないのですか?!」
と驚きの声をあげた。
「首相からは、頼む、と念押しされて黙って渡されたからな。内容は聞いていない。だが、中身はわかる。私は透視能力をもっている」
「ア……、アハハ。じゃあ私の下着も見えちゃったり? 恥ずかしい。アハハ――」
天儀総司令……。花ノ美が引きつった作り笑いをしているじゃないですか。花ノ美が対処をもてあますような冗談はやめてください。あなたの信者のこの女が困るぐらいの冗談だと、俺たちはもっといたたまれない。だいたい冗談をいうような状況じゃないんですよ。
場には気まずい空気が流れるなか天儀総司令がよくとおる声で、
「痛撃講和――!」
と大きくいった。
この天儀総司令の突然の言葉に、ほとんどのものは意味がわからず疑問顔となったが、星守副官房は、
「ゲッ――!」
と、うめいて青い顔になり、六川官房長の冷えた表情となった。この二人は天儀総司令からでた短い言葉の意味が理解できたらしい。
「この四文字が、このありがてえ命令書に書かれている内容だ! 諸君は意味がわかるか!」
この問に即座反応したのは、やはり花ノ美とアバノアだ。
「痛撃は……。敵に大ダメージを与えるって意味よね」
「講和は、文字通りの意味でしょうか。戦争の終わり。平和――」
「じゃあ勝って講和するって意味? あ、そうね。天儀総司令。私わかりました! ズバリ封密命令の内容は、一度勝ってからの講和交渉!」
なるほど、という空気が大会議室内に広がった。結局、封密命令なんて厳しくいっても、内容は勝って即講和という凡庸なものだ。誰もが、そう思った。
だが、俺は違和感を覚えた。なぜなら六川軍官房長は、相変わらず冷えた無表情で沈黙し、星守副官房の顔は怒りで青いからだ。封密命令の内容が、こんな当たり障りのないものなら二人の反応の説明がつかない。痛撃講和には、もっと別の意味があるのか? 俺がそう思ったやさきに天儀総司令が、
「いや違うぞ。二人とも不正解だ」
という否定の言葉を吐いた。俺の違和感は当たったが、大会議室内では誰もが怪訝な顔となった。そもそも、封密命令の内容が攻撃命令でないのなら天儀総司令が、封密命令を持ちだした意図が不明すぎる。
「わからんやつらが多いようだが、星守副官房はわかったようだぞ」
大会議室内の注目が星守副官房に集まると、星守副官房が喋りだした。
「政府は、未来型AIミカヅチが毎日だしている戦況分析のスコアをよくしっています。現実主義者のあの人達が、毎日送られてくる超不利のスコアを見てどう考えるか。勝てると思うかしら。とことん不利なのに逆転を祈るかしら。……私にはそうは思えない」
「…………おい、まさか!」
と、それまで黙っていたアクセルがうめき、
「――政府は、ヌナニア軍が負けるという前提で動いていやがるのかッ……!」
こう叫んだことで、大会議室内には激震が走っていた。
「諸君は、いま、なぜ私が総司令官に任命されたか理解したろう。私が、経歴抹殺刑解除と引き換えに提案されたのは敗軍の将となることだ。適当に戦って負けてこい。ヌナニアは、国家を挙げて未来型AIミカヅチに莫大な投資をおこなった。ミカヅチ指揮下で敗北はまずい。ミカヅチを国家防衛の基本インフラに使おうというミカヅチ計画そのものが吹き飛ぶからな。呼び出された私が、首相と国防大臣から聞かされた話は、おおよそこんなものだった」
真実をぶちまけるようにいった天儀総司令は、挑発たっぷりでこう続けた。
「諸君は、政府から見限られたんだよ。この天儀と一緒に負けてもいいやつらとな」
誰もが顔面蒼白となった。怒りでだ。
――負けてもいい。
という政府の態度は、俺たちにとって背信といっていいような冷たさがある……。これにいち早く気づいた六川軍官房長の表情は冷えあがり、星守副官房は怒り心頭だったのだ。
大会議室内が憤懣の感情に満ちていた。暗に負けて講和という意向をつたえられただけなら天儀総司令個人の問題だが、封密命令まででていたら話は別だ。ヌナニア星系軍全体がコケにされたと同意義。最上級クラスの公式文章で雑魚のレッテルだ。腹立たしいなんてベクトルを軽く振り切っている。
「痛撃講和か――。政治は美しく見せることが基本といったものだな。だが、勇ましくいってみても痛撃講和とやらの中身は負けて講和してこいということだ。お前らはコケにされてんだよ政府から勝てねえとな!」
場が悄然とした。誰もが真っ青だ。軍と政府には友情こそないが、信頼関係がある。誰もがそう思っていた。
負けると思われているというのは、あまりにショックが大きい。俺は、足元が揺らぐような消失感を覚えた。いや、この感覚は俺だけでないだろう。集まっている軍幹部たちの顔を見れば簡単にわかる。そんな俺達に天儀総司令は容赦ない。
「内閣はフライヤ・ベルクを太聖銀河帝国へ渡す気でいる。だが、ただで渡せば、さらに要求されるのは必定。太聖側へ甚大な被害をあたえてフライヤ・ベルクだけで満足させる。大損害をあたえて負けてこい。爆弾を抱いて突撃かましてでも被害を与えろ。この際、勝敗はどうでもいい。これが政府様のご意向だ!」
――誰もが屈辱から燃えあがっている。
と俺は感じた。俺の体の中にもフツフツと闘志がわいて、それが指先、いや、毛先まで浸透していくのが感じられた。大会議室内は、いま、無言の怒りという沈黙で静まり返っている。
「軍人がヘタレで勝てないから、政治家様がなんとかしてやる。ああ、政治家様はお偉いぜ。頭もいい。戦力比率は、まともに見たら勝利不能。ならば勝てないのなら勝つ必要があるのか? 負けてもいいのでは? まったく逆説的でかしこい発想だ。戦争は外交の一手段に過ぎない。敗北は必ずしも国益を損なわない。バカな軍人どもよ負けてもいいから最低限の仕事はしてこいとよ! いいのかお前らこれで!」
――いいわけねえよなッ!
という声が総司令部区画に響いた。やはり天儀総司令の声はよくとおる。
「政府は『痛撃講和』という幻想を持っているようだが、これは無理だ。太聖銀河帝国は約百年つづいた内乱を終結させたばかりの飢えた狼。力の原理で生きてきたスペースノイドに譲歩すれば、要求されるのはフライヤ・ベルクだけではすまされない」
大会議室内は、色めき立っているが、まだ迷いの色も濃い。政府の冷淡な感情は腹立たしいが、怒りに任せてトートゥゾネに急行しても勝てない。天儀総司令のいう艦隊決戦にかけていいのか。おそらく大半の幹部達がこう迷っている。
そんなときに天儀総司令が、俺を見た。まるで、いまだ、というように。俺は、とにかく挙手して大声で発言の許可を求めた。
発言は、誰が許可するともなく許された。すでに誰もが勝手に発言し散々議論してきたので、俺が発言しても許される土壌ができていたんだ。大会議室内の注目が、いま、俺に集まっていた。四十七番の俺に……。だが、俺は、ほぼなにも考えなしで挙手していた。唇が震えた。
――だが、迷っていても仕方ない。
いまは、ヌナニア星系軍士官学校で習ったことをフル動員してなにかいうしかない。
「皇帝は独断し、将軍は独行する!」
一言叫べば、あとはつらつらとでるものだ。
「皆さんはなにを迷っておられるのですか。戦史研究の論文では、このよう場合に迷った側が負ける確率は97%! ここで躊躇すれば我々は負けます。見てください一人意見をいう天儀総司令には、迷いがない。ですが、皆さんの意見には迷いがあるように俺には見えます。あなた方は、なぜ自分達の総司令官を信じないのですか。いまは、一丸となって戦うべきときです。天儀総司令は、勝つ計画を持っている。そう、唯一持っている。我々はそれに乗ればいいだけなのに、なぜそれをしないのですか!」
大会議室内の空気が動いた。こちら側にだ。少し考えればわかる。天儀総司令のいうように、どうしたって戦うしかないのだ。トートゥゾネを放棄しても、すぐにまた同じような危機が、もっと過酷な形となって出現する。自分達は、それを先延ばしにしようとしていただけ、と迷っていた軍幹部達が感じ始めていた。
この空気の変化に、花ノ美がすかさず動いてくれた。
「さんせーい! 統合参謀本部の花ノ美・タイガーベルは、義成特命の意見に賛成します!」
すかさずアバノアも、
「統合参謀本部。アバノア・S・ジャサクも賛成ですの。負けてもいいは、わたくしにとって屈辱そのもの。ま、負け犬と思われていても構わないというかたは、お残りになればよろしいんじゃないでしょうか」
と続いてくれた。
そして俺は、祈るようにアクセルを見てしまっていた。あとこの部屋にいる統合参謀本部の人員は、アクセル一人。こいつさえ同意してくれれば。それで、ここでは統合参謀本部の意見となる。しかもアクセルは、少佐だ。統合参謀本部を代表する資格がある。いうまでもないが、統合参謀本部という軍内の大組織の意見は、この大会議室に強い影響力を持っている。
「……チッ。李飛龍が戦うと言い張っていうことを聞かねえ以上、他の選択肢がねェ。見捨てるか、救援するかの二つに一つってわけだが、見捨てれば負けるぜェ」
花ノ美が、満面の笑みを見せた。
「ということで、私達、統合参謀本部の意見は、天儀総司令の艦隊決戦支持です!」
そう花ノ美が、大会議室内の軍幹部達へ放つと、一瞬静まり返ったあとに、一人、また一人と軍幹部が立ちあがり敬礼。賛成の意思表示だ。そして、ものの数秒後には、全員が天儀総司令へ向けて敬礼していた。
「決まったな」
と天儀総司令が静かに立ちあがり、大会議室内を見渡してから喋りだした。
「戦いとは、かりそめにも結果だけを求めることをしないものだ。苦しいからといって道をまげず、回り道のように見えても地道に進む。これは暗闇のなかで棘路を進むようなものだ。だが、それがやがて勝利への道となる。諸君は、いま苦しかろう。だが、それに耐えてトートゥゾネにいたれば必ず勝てる。確約しよう。危機的状況だが、そこにはチャンスがある。苦しさだけが必要なく、勝利だけが欲しいなどという都合のいいことは宇宙にはない。艱難と勝利を同時に掴む。それが真の勝利への道である!」
気づけば大会議室内が、熱い気持ちで満ちていた。これが〝士気〟というものかと俺は実感し感激した。いま、誰もが団結し、俺はこれまで人生で、感じたことがないほどの巨大な一体感のなかにいた。
「敵を徹底的に叩きのめして、講和に持ち込む。勝って講和だ! 勝ってだ! 栄光なくしてなにが星系軍か! 敗北に栄光はともなわない!」
室内の空気が燃え上がるのを俺は感じた。俺自身も押さえつけ難いような衝動に駆られ、今にも飛び出していきたい気分だ。
天儀総司令は、さらに言葉を継いだ。
「政府の幻想も、敵の野望も叩き潰す! 私は、ヌナニア軍総司令官として、ここに総司令部機動部隊の創設を宣言する。私の率いる軍には、栄光がともなう。諸君へ断言しよう。栄光は、勝利のなかにしかない!」
天儀総司令の演説で、ヌナニア軍総司令部はトートゥゾネの増援部隊〝総司令部機動部隊〟の派遣を決定。天儀総司令の企図は、艦隊決戦――!
俺はこのとき身と心に興奮から震えを覚えたのを一生忘れない。だが、同時に天儀総司令をとんでもない煽動者だとも思ってゾッとしたのもよく覚えている。
なにせこのとき天儀総司令からは勝てると確証できる根拠が、なに一つ提示さていなかったのだから――。
誰もが熱に浮かされて艦隊決戦を選択していた。いや、自ら選択したと思いこんでいた、と俺は思う……。
方針を決める大会議が終了した。終わるやいなや、ほとんど幹部達が足早に退出していった。準備を一刻も早く済ませる必要があるからだ。旗手長が、トートゥゾネまでのルートを決定した二時間後に今度は作戦会議がある。
俺には、すでに国軍旗艦瑞鶴全体が慌ただしさに包まれているように感じられた。
「よくやった義成。想像以上だ。ああいうときに、俺一人が長口舌しても白けるんだよ」
と天儀総司令が俺に肩にぽんと手を置きいってきた。よかった。俺の発言は、天儀総司令にとって好印象だったようだ。あのとき俺はとにかく必死で、頭が真っ白になるのをなんとか食い止めて、言葉を紡ぎだしたんだ。
「皇帝は独断してなんちゃらって、古代史好きのあんたらしい切り口だったわね」
腕組みする花ノ美だった。その横には、当然アバノアもいた。瑞鶴に乗り込んでいるとはいえ、それは勉強会のため。統合参謀本部の花ノ美とアバノアは、いわばお客さんの身分。これと決まった仕事はないのだ。
「あれは皇帝も将軍も最後は、一人で決定するという意味ですの?」
「まあ、大体そんなところだ。より正確にいえば、他人の意見に左右される皇帝は信用ならない。将軍は戦場で誰よりも早く決断するということだな」
「ほう。とにかく知識を鼻にかけたところが、義成ぃらしかったですのー。そうは思いません花ノ美お姉さま?」
「でもよかった。ほんとよくいったわ義成。少し見直した」
「それはいえますの。いつも調子で気持ちばかりが先走って行動して、いざとなったらヘタれて、なにもいえない義成ぃが飛び出ただけならどうしようかと、わたくしハラハラしましたの」
……二人が、俺を褒めた。初めてだ。戸惑いを感じた。どう対応していいかわからない。取り敢えず褒められたんだから、褒め返すか。黙っていると不自然だ。いや、印象を損ねる。またいつもの険悪なムードになりかねない。星系軍人は紳士たれ。ここはスマートに対応すべきだ。
「よ、よく見ると二人とも美人、いや、可愛い……と思う。うん。そう思う。いままで色々あって、俺は二人が邪神にしか見えなかったが、少し誤解をしていたようだ。そのなんていうか……すまなかった」
俺が慌てて繰り出した言葉に、花ノ美もアバノアも、
「はぁ??」
と呆れた顔でいってから大笑いだ。くそ、そんなに変なこといってしまったのか。……いったな。どうして、俺は緊張して慌てるとこうなんだ。
「義成。こいうときは、ありがとうでいいんだよ。変に気取るから恥をかく」
そういってくる天儀総司令も笑っていた。
「……そうですね。二人を意識しすぎましました」
「うわっ。キモッ!」
「あら義成ぃやっと花ノ美お姉さまと、わたくしの魅力に気づいた? ですが残念。花ノ美お姉さまはわたしのもので、わたくしは花ノ美ものッ! 哀れ義成ぃの淡い恋の芽生えは終了。秒で失恋ご愁傷様ですのー」
「違う。そんな意味じゃない!」
だが、二人は顔を真赤にする俺など無視。すでに天儀総司令すがって質問を開始していた。……遠巻きに見れば、華を添えられた将軍は絵になるものだ。花ノ美とアバノアが、しきりに天儀総司令にたずねているのは李飛龍の実力。
彼の人となりは、トラス陣形の配置の知識はどこまであるのか、具体的にどうやって布陣するつもりなのか、旧グランダ軍の精鋭といってもどれほどの実力なのか、不敗と伝説になっている兄とは似ているのか、兄弟仲はどうだったのか、などなど。それこそ李飛龍将軍本人に聞けよということまで、とことん質問攻めだ。
二人からの質問の嵐に天儀総司令は、気分を害したふうもなかったが、二人の口の動きがやっと止まったところで、
「李飛龍は、永世英雄である。よく大命をはたすだろう」
とだけいって大会議室からでていってしまった。残された花ノ美とアバノアはポカンとしていた……。
はたして俺達が、トートゥゾネに到着したとき李飛龍艦隊は健在なのだろうか。最悪の場合天儀総司令は、総司令部機動部隊単独で戦うつもりなのだろうが、勝って勢いに乗った敵軍はいうまでもなく手強い……。




