1-(1) 人食い鬼
ヌナニア星系軍。国軍旗艦瑞鶴――。
総司令官室――。
「このご時世に兄さんを轢き殺した犯人がわからないだなんてあるわけないだろ。兄さんがはねられたのは市街化区域。総監視システムで、街なかはカメラだらけ。絶対に犯人がわからないわけがない!」
顔が火を吹くほどの興奮で熱くなっていた。俺は、参月義成。ヌナニア星系軍の若き士官だ。
いきりたって叫んだ俺の興奮にはわけがある。ヌナニア軍総司令官の暗殺を計画し、まさかの大成功。俺の目の前には、真っ青になって慌てる無様な男しかいない。
半年ほど前だ。軍の優秀な諜報員として働いていた俺の兄である参月義潔は、謎の死をとげていた。
当時の俺は、ある特別な学校を卒業したて。兄が軍の諜報員だったとしったのもその縁なのだが、とにかく俺は兄の死に不信感を覚えた。
――犯人はわからない。
警察はそういっていた。だが、そんな理不尽がこの時代に、あるわけがないのだ。
俺が通っていたのは、とても特別な学校だ。そこで特殊工作員の訓練をうけた俺は、単身で兄の死の真相を調べることにした。卒業後の腕試しのつもりではないが、自信はあった。
だが、調べた結果は、詳細はほぼわからずじまい。落胆した。とにかく諜報。これだけは自信があったのだ。ただ、これは兄の死が、もみ消されたということも意味した。この情報化された時代に、画像ひとつないというのは逆になんらかの不正があったという裏付けとすらなる。そう記録がないわけがない。
俺の兄の死についての記録だけが、ぽっかり穴が空いたようになかった。俺が見た軍の内部資料である兄の経歴の最後は、死亡という文字すらなく空白だった。
普通なら〝交通事故により死亡〟というような除隊の理由が書かれるはずだ。それすらないとは怪しすぎる。これでは除隊処分の手続きすら進まず兄は永久に在隊状態。
――死んだことすら認められないということか?
兄さんを尊敬していた俺は、この理不尽に強い憤りを覚えたのだった。
だが、なにも記録が見つけられないのであれば、なにもわかりようもない。俺は憤りを抱えながらも途方に暮れていたが、そんなときにある人が俺へ、
――天儀。
とう名をつたえてきたのだ。
いま、俺の目の前で、真っ青になって慌てる男の名をな!
「待て、待つんだ! 話せばわかる!」
「その口で、ほざくな人食い鬼の天儀!」
「気持ちはわかる。いや、わからん。だが、俺を殺してもなにもならん!」
「問答無用――!」
死あるのみだ。
――死ね人食い鬼!
俺は心中で強烈に叫んでナイフごと体当たりを仕掛けたのだった――。