1-(9) フライヤ・ベルク大戦線帯
「軍を辞めていたうえに、着任したてで右も左もわからない天儀総司令に、この星守あかりが現状をわかりやすく、かいつまんでご説明してさしあげます」
「ありがとう。きみの優秀さは旧セレニス軍時代から折り紙つきだ。正直助かる」
「いいえ、これは天儀総司令のためじゃありません。天儀総司令のご趣味は艦内散歩。軍官房部としては戦況もわからない総司令官に艦内をフラフラされては困るのでやってあげるんです」
「はは、そうか」
ここは、ブリッジは総司令部区画にあるブリーフィングルーム。パーティションで仕切られたスペースではなく、ちょっとした少人数の会議や打ち合わせで使用される部屋だ。
部屋の正面に備え付けられたスクリーンには、おおよその戦況がわかる現況図が展開され、その前に教官よろしく星守副官房が立っている。
「で、天儀総司令。なんで、その子も一緒にいるんですかね?」
トゲのある言葉とチクリとした視線。星守副官房は、俺がこの場にいるのがお気に召さないらしい。なお、いま、この薄暗い部屋に居るのは四人。俺、参月義成と天儀総司令。そして六川軍官房長と星守副官房だ。覗き容疑晴れた俺は、天儀総司令にいざなわれこの部屋に入ることとなっていた。
「義成は俺の側近だ。同席させようと問題ないだろ」
「ふーん……。まあいいですけどー」
星守副官房は、俺に疑いの眼差しを向けながらも状況の説明を開始した。
「――コスモ・リソース地帯フライヤ・ベルク。両国は、この場所の所有権を巡って争っています」
両国の間にあるフライヤ・ベルクは、人類が宇宙でいとなみをつぐには、つごうがいい物質の滞留場所。ようは精密機器に必須なレアマテリアル、ガス資源などの多種なエネルギー、そして人が生きていくには不可欠な大量の水。つまり氷岩群。
放射状に広がったこの資源地帯の広さはざっと水星から火星まで。誰だって欲しい宇宙資源。しかも優良。熾烈な内戦を終えたばかりの太聖銀河帝国には、是が非でも欲しい宙域だったろう。
「太聖銀河帝国は、九星系十三惑星を有する大宙域国家です――」
ここからはじまる話は、星守副官房の発言を全部乗せるととても長くなるので、俺がかいつまんで説明する。
太聖皇帝は、約百年続いた太聖宇宙の戦乱をたった十年で終わらせ再統一した若き軍人皇帝。皇帝だが、民衆からは〝竜王〟の愛称で親しまれている若き独裁者だ。とても人気がある。
宇宙規模の巨大な国家で、議論を尽くせばその末端に政策の恩恵がとどくまでに幾年月。いつの時代も理想的にいえば一人の人間が、素早く判断すればきわめて効率的。民主主義か独裁かの議論はこの時代も尽きないが、太聖の人々は若くて強いリーダーの万機親裁を選択した。
だが、思い立ってから統一が早くとも、荒れ果てた国土はすぐにはもとに戻らない。太聖銀河帝国は、フライヤ・ベルクという一大宇宙資源地帯に目をつけたのだ。
そして俺達のヌナニア連合(ユナイテッド・ヌナニア。略称UN)の事情となると、もうご存知だろうが、ヌナニア連合は、つい最近になってグランダ帝国とセレニス星間連合という二つの星系間国家が統合されて成立した国家だった。
俺達の争いも約百年前からだった。隣同士で経済的にも文化的も結びつきが強かった両国で国家統合の話が持ち上がったが、話がこじれ戦争に……。
理由は、ざっくりいってしまえば、グランダ皇帝は殴り合いがお好みだったというだけだ。高貴な血筋もきわまってみれば野蛮。歴代のグランダ皇帝は、軍事的成功を渇望した。歴代の帝国皇帝に欠けていたのは、軍事的プレゼンスの偉大さだけだった。
グランダ皇帝が軍事的統一を渇望し、約百年の間に五回繰り返された星間戦争。第五次星間戦争で、グランダ帝国の星系軍は、セレニスの大連合艦隊を撃破し、ヌナニア連合の成立の運びとなったのだ……。
俺は、チラリと天儀総司令を見た。セレニスの大連合艦隊を撃破したのは、この人だといわれている……。
教科書では、グランダ皇帝が戦争計画を作り、李紫龍という旧グランダ軍人がセレニス軍を撃破したとなっているが実情は違う。経歴抹殺刑だ。つい最近あった戦争なのに、真実は闇のなかだ。
とにかく戦後、二つの国の統合はトントン拍子で進んだ。もともとこの二つの国の統合は、経済的観点からみれば既定事項だったのだ。
晴れて誕生となったヌナニア連合は、セレニス星間連合がすでに着手していた優良資源地帯フライヤ・ベルクの開発に改めて着手。国家の一大プロジェクトとして莫大な投資を開始した。
こうしてフライヤ・ベルクという宇宙の宝物庫をめぐって戦争が勃発した……。
切っ掛けは、太聖銀河帝国だ。
太聖皇帝は、一方的に宣戦布告し、フライヤ・ベルクによく懐いた虎と獅子を放った。太聖宙域統一で活躍した歴戦の将軍たちは、またたく間にフライヤ・ベルクを占領してしヌナニア本国へ侵攻する構えを見せていた。
俺達ヌナニア連合は、敗戦待ったなし。この危機的状況に、ヌナニア政府は閣議決定を下した。ヌナニア連合は一人の男を、つまり天儀総司令をフライヤ・ベルク戦線帯に送り込んだのだ……。
「戦場は、フライヤ・ベルク大戦線帯。戦線帯は、第一から第七の七つに分けられ、それぞれに戦線総監部が置かれています。その七つの戦線の後方に位置するのが、私達が今いる泊地パラス・アテネ。ここは最前線の後方基地であり、最大の兵站基地ですね」
そして星守副官房の説明は、各戦線の戦力配置の説明に移り、そこにときおり敵情などが付け加えられ終わった。とても効率的な説明でわかりやすかったが、内容は人事についてが中心だった。総司令官といってもやはり管理職。作戦的な話より組織掌握なのだろう。
「戦況は、はっきりいって不利。結構詰んでますね。もちろん軍内や記者たちには、一進一退で有利という情報を流していますが、今回の天儀総司令の着任で戦況のまずさに気づいたものは多いとおもいます」
だいたいフライヤ・ベルクの要衝を全部占領され有利もない。明確な不利だ。俺達ヌナニア軍は、フライヤ・ベルクを越えなければ太聖領内に進行できないが、太聖側はフライヤ・ベルクを出発して五日でヌナニア連合の絶対防衛ラインまで到達できてしまう。
「というか今朝でた兵員意識調査の集計結果は、10ポイント低下しています。もうすでにヌナニア軍の不利は、公然の秘密状態といっていいでしょう」
星守副官房の言葉ともに、背後のスクリーンにいくつかのグラフと数字が表示された。兵員の仕事への満足度、人間関係の指数、問題意識や改善意識などを数値化したものだ。
なお、兵員意識調査は、一般企業でも会社の現状をしるためおこなわれている従業員への意識調査だ。兵員の部分を従業員と変えればわかりやすいだろう。
そして兵員意識調査のなかでも重要なのは、士気色係数。軍の士気状況が数値化されたこの表は、ピュアグリーン、グリーン、ブルー、イエロー、ピンク、レッド、ダークレッド、ブラックの九段階であらわされる。
ピュアグリーンからブルーなら問題なし。イエローでプロブレム(問題)。ピンクでクライシス(危機)。レッドとダークレッドで、アウト。ブラックがデット。
プロブレムで早急な改善。アウトで士気崩壊。ピンクからの精神的崩壊は早いといわているので、イエローのうちになんとかしないと敗北だ。
法的には、レッドになったら総退却、司令官の交代、司令部の総交代のどれかだ。
教本に載っている士気係数の図はこんな感じだな。士気色表という。
で、スクリーンに表示されたヌナニア軍の士気の状況といえば……って、おい! 俺は驚き胸の前で小さく挙手し、
「あの、自分が今朝、軍内新聞で見た士気色係数は、ブルーだったのですが……」
と、思わず発言していた。そう。俺が、今朝確認した数値はブルー。だが、いま、スクリーンに表示されているのはイエロー。
「あーそれね。総司令官の交代というマイナス要因を加味したものを軍内では公表したの」
「つまり公表前に、数値を改ざんしたんですか信じられない……!」
「いってくれるわね。でも改ざんじゃなく補正ね。間違えないで。それに公表前の補正は、認められている行為よ」
「それは示し合わせて同じ回答をされていたとか、集計装置の異常ででたイレギュラーな数値を切り捨ていいというだけです。見栄えを良くするために数字をいじっていいというルールじゃありません」
「このイエローは一時的なものよ。バカ正直に公表していたらあっという間にメンタル・アウトして撤退よ」
星守副官房の話にならないとばかりの素振りに、俺は戸惑った。ヌナニア星系軍士官学校では、いや、世間一般でこういった数値をいじるのはもちろん厳禁だ。統計の意義をなさない。これは明確な不正。それを星守副官房は、現場の裁量だとばかりにいってのけた。
――こんなことが許されるわけがない!
俺は、すがるように天儀総司令を見た。これは俺が騒ぐより、天儀総司令が厳重注意すべき案件だ。だが、肝心の天儀総司令といえば、
「騙された……」
と恨みがましい目でうめいていた。
「騙された?」
と口にしつつ俺が、怪訝な視線をむけるなか天儀総司令は更に言葉を継いだ。
「首相から不利だと聞いてはいたがここまでとは……」
「はぁ。だからいったじゃないですか結構詰んでるって」
「……星守副官房。各戦線のおおよその人事はわかった。AIによるスコアリングはどうなんだ?」
「1850対1980です。ご存知でしょうが300差つくか、どちらかのスコアが2200になると勝敗が確定的になりますよ」
「……じゃあ。ヌナニア軍と敵との戦力比は?」
「10対8ですね」
「俺らが8か……」
「あのこれもうすでに先程の説明で、申し上げたんですけど?」
聞いていなかったんですか? とツンツンした態度の星守副官房に、天儀総司令がムッと黙り込んでから放った。
「……不利じゃねーか!」
「だからそう申しあげたでしょう。結構詰んでるって! こんなみっともないこと三度もいわせないでください」
「…………くそ」
AIによる戦況分析スコアは、いまは常識だ。戦況はAIによって逐次分析され、将棋などのボードゲームのスコアリングよろしく、お互い繰り出す一手で日々スコアが変動していく。このスコアを蓄積していくと、今後の戦況の推移まで点数化できてしまうという優れものだ。AIによって相手が繰り出す一手がある程度絞り込めるからな。
この戦況の予想は、〝戦況予報〟として軍内で発表されたりする。なお、この戦況予報の精度はかなり高い。
ブリーフィングルーム内は、重い空気に包まれた。いや、違う。天儀総司令だけが頭を抱えている。星守副官房はぷりぷり怒っているし、六川軍官房長は沈黙を保ったままだ。
天儀総司令が課せられたのは、企業再生ならぬ戦況再生。どちらも大変な仕事だが、天儀総司令がしくじると国家が傾く。いや、滅びる。
「ところで天儀総司令。側近とかいってましたけど、この子って何の仕事をやらせてるんですか。側近というからには、軍官房部の私達と職場をともにするわけですし、そこのところはっきり教えてください」
星守副官房は、遠慮をしらないらしい。戦況の打開に悩む天儀総司令相手に、ずけずけと疑いを蒸し返した。もちろん星守副官房のいった〝この子〟とは俺のことだ。
いま、俺を星守副官房からの、
――こんな素人なににつかうんですか?
という突き刺すような冷たい視線が襲っている
「あー。えっとな……」
「え、まさかやっぱり側近に任命したとかいう話は、その場しのぎの嘘?」
「いや、違う。特命係に任命した。そうだよな義成!」
「え、あ、はい! そうです特命係をただいま拝命しました。いえ、以前任命されました」
突然の振りに俺は、すぐさま応答した。
「ほう。特命係? ざっくりですねぇ。で、その特命係くんって、なにする係なんですかねぇ」
「情報収集と、俺の身辺警護だな。雑務もやらせるが、いうなれば総司令官直属の少数精鋭の諜報機関というわけさ。そうだよな義成」
俺は、いま、はじめて知ったが、
――はい!
と、やはり明快な返事をした。俺だけでも頑張って上手く演じないと、これが即興の任命だったことが星守副官房にバレてしまう。
「情報のしゅうしゅうぅ?」
「そうだ。義成には、敵将の頭の中を探らせる」
「はい??」
と星守副官房が露骨に顔をひきつらせた。
なお、俺もびっくりだ。天儀総司令は、ナカノ・スクール出身の特殊工作員を魔法使いかなにかと思っているのだろうか。確かに俺は、諜報能力には長けているが、脳みその中は無理だ。いや、これはもっと物理的なもので、脳みそそのものを盗み出してこい。つまり、暗殺しろということなのか? それなら不可能じゃないが……。
「違うなにを勘違いしている二人共。俺を変な目で見やがって、俺がいっているのは敵の司令官達の人なりだ。組織には、トップの意向が必ず反映される。竜王とやらの人物像。各戦線の敵将の人物像。それをしらずにどう戦う」
「しらなくてもいいんじゃないですかね……。というか諜報活動なら二部(情報部)の優秀なベテランになにをしりたいか具体的に仰ってください。経験が物を言う仕事ですから、そのほうがいいですよ。それとも天儀総司令は、ベテラン諜報員よりこの新人君が優秀だっていいたいんですか?」
「そ、それはあれだ。こいつはナッ……」
天儀総司令が、ナカノ・スクールといいかけて寸前で押しとどまった。俺も焦った。超極秘だからな。副官房ぐらいになれば、ナカノ・スクールの存在はしっているかもしれないが、それでも紹介で、彼はスクール出身だなんて口にしていいものじゃない。
「ナァ?」
「ナんとか頑張るだろこいつは……」
「……最低。やっぱり側近に任命したとか痴漢の容疑から逃れるためのその場しのぎの嘘だったんじゃないですかぁ」
星守副官房が、疑いを強め天儀総司令に詰めようるようにしたとき、
「義成くんは、黄金の二期生だ。天儀総司令は、優駿な補佐官をお望みなんだろう」
と、それまで黙っていた六川軍官房長が口を挟んだ。
「え、嘘! 参月特命くんって、ヌナニア星系軍士官学校の二期生なの!? あの卒業後即戦力とまでいわれてる。……信じられない」
「……すみません。その二期生です……」
俺は、謝罪を口にせずにはいられなかった。だって星守副官房のいいぶりときたら、こんな子があの優秀揃いと有名な黄金の二期生だなんて嘘でしょという感じだった。俺は、間違いなく二期生の評判をさげた。情けない……。
「ま、能ある鷹は爪を隠すっていうしな」
「天儀総司令。ないものを隠してるとはいいませんよ。……へぇー、でも二期生なんだぁ」
星守副官房は、納得したというより、優秀な新人をどういびってやろうかという感じだな。くそ……。黄金の二期生の評判は、よくも悪くもあるからな。次代を担う俺達は、目をつぶっていても昇進できる。古参兵からは、気に食わないと思われているし、とくに二期生上位だったやつらの態度は、とんでもなく横柄でわがままだ。優秀すぎて指導が難しく、そのぶん不満は大きだろう。
「星守くんは簡単にいうが、軍官房部から人を出すといってもこちらも手一杯だ。義成くんが、天儀総司令の付き人をやってくれるならありがたい話だ」
「あ、付き人」
と星守副官房が鼻で笑った。それなら納得というふうだ。なるほど特命係は、雑務係ねーなんていってるぞ。実際そういう仕事もあるだろうが、くそ見てろ。あっという間に敵艦隊内にスパイを仕立ててやるからな。
天儀総司令が、いった敵将の人なりがいしりたいというのは嘘じゃないはずだ。敵の旗艦にスパイ作って驚かせてやる、と俺はこのとき決意した。
「とうことで義成。当面は、俺の身辺警護を頼むぞ。取り敢えず総司令室への来客管理をしてくれ。着任したばかりの俺には来客が多い。挨拶がひっきりなしだ」
「はい。お任せください」
「俺は、総司令官室の警備に、お前ほどの適任者はいないと確信しているぞ」
だろうな。俺は、一度この人を暗殺するために総司令官室への侵入を成功させている。目には目を歯には歯を、とは少し違うが、ハッキング対策にハッカーを雇うのは常識だ。そう思えば、総司令官室のガードに俺ほどの適任者はいない。
「しっかり守ってくれよ。なにせ――」
「なにせ?」
「――今日から俺がヌナニア軍だ」
天儀総司令は、恥ずかしげもなくそう断言した。俺はこの言葉の意味をこのときよくわかっていなかったが、凄まじい威風に飲まれていた。これが――総司令官! と全身で感じた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
義成と天儀が去ったブリーフィングルームでは、六川公平と星守あかりが残っていた――。
「……あんな子が、ヌナニア軍総司令官の側近だなんて」
「星守くんは、義成くんの抜擢に不満なのかい?」
「ええ、経験不足すぎますよ。一千万規模の軍隊に影響を及ぼす位置にあの子はいるのに、そんな自覚てんでないように見えます。というか六川さんは、なにも思わないんですか」
「僕の予想では、彼は適任だよ」
「どうして……」
「それに天儀総司令は、人を見つけるのが上手い。とてもね。そんな彼が、いいといったらいいのだろう」
「いいえ。あの人は、自分が楽することに余念がないだけです。黄金の二期生を雑務係は無駄が大きすぎます。さぞ天儀総司令は楽ができるでしょうけど、他のことやらせるべきです」
「はは、厳しくいっているようで、星守くんも黄金の二期生の優秀さは認めているというわけかい」
「ええ、まあ……。悔しいけど」
「義成くんは、真面目で正義感の強いいい子じゃないか。普通なら流してしまいそうな数値の操作も、彼は敢然と指摘した。中々できることじゃない」
「……そうですね。正直いうと、多分なんか昔の自分を見ているようで苛つくんだと思います。私も旧セレニス軍で初めての一般大学からの総司令部要員。旧軍トップの側近でしたから。彼も私も若くして才能を嘱目された異色の存在。立場が似ています」
職業適性検査。AIを利用した将来の進路の決定は、星守あかりという女性の出身惑星では常識だった。八岐の大蛇と名付けられた政策立案AIの仕事は、政策立案だけでなく八つあった。その一つが、職業の適性の判定だ。
なにをしたいかわからない。金を稼げればいい。もっと前向きに、やりたいことより向いた仕事があるなら、大きな成果の出せる仕事他にあるなら、それに情熱を燃やしたい。
八岐の大蛇は、誰にとっても都合良いものだった。少なくとも星守あかりの出身惑星ではそうだった。
その八岐の大蛇が、無双の適正者として旧セレニス軍に推薦したのが、当時二十歳の星守あかりだ。
「軍のエリートといったら、遅くとも十五歳ぐらいから専門教育をうけているからね。僕も君への風当たりは強かったのを覚えているよ。よく頑張った。そんな星守くんなら彼をよく指導できるんじゃないかと僕は、思うだがどうだろう」
「ええ、厳しく指導しますよ。優しくなんて私らしくないし、彼のためにもなりませんからね」
「はは、こりゃ義成くんは大変だな。星守くんに好かれるだなんて。君は嫌いな相手へは、にこにこ顔であしらって基本無視だ」
「違います! これは先輩としての務めですから。で、六川さん。本当のところはどうなんですか?」
「本当のところとは。はて、僕にはわからない問だな」
「またはぐらかして、参月特命くんを天儀総司令の側近として認めた理由ですよ。黄金の二期生ってだけじゃないですよね?」
「……二期生に一人。スクールに送られた不運な生徒がいたと噂がある」
「え、ナカノ……!?」
「シッ。口にしちゃいけない」
「それって、本当ですか?」
「おそらくね。彼は、最初であったときに正規パスを持っていなかった。僕が身分を問いただしたときにパスをださなかったから間違いない。恐らく偽造パスで入ったと推測できる。だが、ここはそんなに簡単に入れる場所じゃない。パスを偽造できたとなると、相当な能力があるね。例えば特殊工作員のね」
「ふむ……。あの子は、ただのスケベじゃないないか」
「天儀総司令は、慧眼ありだ。たしかに僕らには、敵情が不足している。本国政府は基本的に、外宇宙には興味がない。内で手一杯だし、いまの国家は他国へ攻め入る必要性は基本的にない。戦争するより新しい無人宇宙に入植したほうはコストが安いからね」
外宇宙とは、ヌナニア宇宙以外、つまり領土外の宇宙の情勢のことだ。もちろん他国との外交関係は重要だ。厳密には、他国の内政に興味がない。遠すぎる国家の情勢など、安全保障に影響し得ないからだ。
いまの時代中央政府が、他の国家の内情に興味を持つときは、経済を中心としたあらゆる面で交流が増加したときで、一つの国家にまとまってしまったほうがいい場合だ。
こうなるとヌナニア連合と太聖銀河帝国の状況は、イレギュラーともいえるが、戦争は外交の一端にすぎない。近づいた両国のファースト・コンタクトが、不幸な手段だったというだけだろう。
「それじゃ私達もそろそろいきますか」
「そうだね。仕事が山積している」
「あ、あと彼のパス作ってあげなきゃ」
「頼むよ。義成くんが入ってくるたびに偽造パスを使っていたんじゃそのうち問題になる」
「ええ、笑っちゃいます。あの子ってどこか抜けてそうだから、ずっと偽造パスなんてやりかねません」
二人が退室し、ブリーフィングルームの灯りが落ちた。




