人類は宇宙を飛翔した
ジョン・F・ケネディは、人類史において最大級の偉業を成し遂げた。
アポロ計画は、国家が戦争によって偉大さをしめす時代を終焉させた。もはや戦争は英雄を生産しなくなり、軍事力の強大さで国家が尊敬を集めることを過去のものとした。
人類史において長く続いた戦争による英雄の時代は終わったのだ。
アレクサンドロスから始まりナポレオンを最後した戦争による英雄達の登場。とはいっても20世紀後半には、まだ英雄に憧れる戦争屋の残根が色濃く残っていた。東郷平八郎、エルヴィン・ロンメル、ジョージ・パットン、ヴォー・グエン・ザップらなどがそうだが。アポロ計画は、彼らを完全に過去の遺物とし、一つの時代として葬り去った。
人類をパラダイムシフトさせたという点においてジョン・F・ケネディの決断したアポロ計画は偉大だった。人類は、これ以降戦争での英雄を持たなくなった。
そう。戦争の世紀ともよばれる20世紀が終わろうとしていたとき――。
人類に宇宙時代が始まったのだった。
1969年。これを以て、人類は宇宙暦元年となす。
そして宇宙暦が始まってから約330年。人類は虚数潜行の実験に成功。
虚数潜行は、ワープ理論を応用した超高速移動である。現実世界ともう一つの虚数空間の間を進むのだが、これは難しい話になるのでよしておこう。とにかく虚数潜行つかった宇宙船の移動をアルター航法といい。人類は、このアルター航法でそれまでにない速度で宇宙に広がっていった。
到達。入植。さらに先へ進み。入植。この繰り返しで、気の遠くなるような年月が流れ、天の川銀河を飛びだした人類は、ついにはおとめ座銀河団をでて、その生存域はラニアケア超銀河団全体に広がろうとしていたのだった。
そして、いま、国家の規模は惑星間どころか星系間をまたぐ規模となっていた。陽系のような恒星を支軸とした星系に、人類が入植できるハビタブル・ゾーンに存在する岩石惑星は5つなどと多い場合もあるが、平均すれば0.023個。
そして国家の国土をしめす基準は、最早面積ではなくなった。
例えば義成のヌナニア連合ならば、
――十二星系十九惑星。
このなかには当然として巨大な宇宙基地や百万人規模が住まう半恒久的な大規模コロニーなども多数含まれる。この時代、国家の規模は超大といってよかった。
戦争の世紀は終わり長い年月がたっても、この世から戦争が消え去ることはなかった。
宇宙世紀でも人類はいまだに愚かしい。
太聖宇宙とヌナニア宇宙とよばれる二つの大宙域は、戦争の時代に突入していた。