竜鱗の剣士と盗賊さん 1話
剣と魔法が栄え、竜と英雄が財宝を巡って争い、神秘が世界に満ち満ちていた時代。
神々の戦いが終わり、古代人の文明が遺跡の奥底に埋もれ、創造神の反逆者、レガロ・ゲルジェートの負の遺産、魔物の軍勢が世に跋扈していた時代。
アルゲート歴946年、フェリシア王国での物語である。
*****
城下町の外れ、裏路地の奥の奥。ならず者どもの集まる酒場は、今宵もまた喧噪に沸いている。
酔っぱらいの怒号、賭け事に熱中するごろつきの騒ぎ声。それら下品な宴から離れた所、酒場の奥の暗がりに、一人の女性が座っていた。
闇に溶けるような漆黒のコート。艶やかに流れる、夜空のような長髪。真っ白な肌とのコントラストが、モノクロの世界からやってきたような印象を受けさせる。気だるげに細められたその瞳だけが、ルビーのごとく煌めいて。彫像のような美貌に生気を与えていた。
一見してみると、深窓の令嬢といった風にも見える女性。しかし、そのコートは金属を糸とし縫い上げられた、非常に重く扱いづらいものであったし、背中に吊られた両手剣は、刀身から柄までの全てが真っ黒な同一の素材で作られた、これまた見た目より遥かに重い代物であった。
これらを軽々しく、無造作に身に付ける彼女は、とてもか弱い乙女とは言えないだろう。
簡素な木の椅子がギシギシと鳴る。重さに耐え兼ね、悲鳴を上げた。
テーブルに頬杖を突き、安いワインを傾け、チーズを少し齧る。彼女は今、少しばかり後悔していた。予想より遥かに喧しい場所だ。待ち合わせ場所に近いからと、適当な店に入ったのが間違いだった。さっさと宿に帰って眠ってしまいたい所だが、生憎と今日は約束がある。月が中天に達するまではまだまだ時間があるだろう。近くに暇を潰しに行くのもいいが、ここらの地理には疎い。道に迷って刻限に遅れでもしたら、あの皮肉屋になんと言われるか。
大きく溜息をつき、もう一本、とワインを開ける。
コツ、コツ、コツ、と軽い足音がやけにうるさく聞こえた。喧噪の中でなお響く音。
そこらのごろつきが履いているのはせいぜい木靴。もっと重い、どかっとした音になるはずだ。こういう足音のするのはだいたいブーツか革靴で、つまりまあこの足音の主はそこそこ裕福なのだろう。商人か冒険者か吟遊詩人か。まあ、別にたいして興味もないのだが。益体もないことを考えるほど暇だということだ。
「そこのお方、ちょっと相席よろしいですか?」
ちらりと視線を向けた先には、こんな場末の酒場には全く持って似つかわない、ふわりとした金髪の優男。服装こそどこにでもいる柄の悪い若者といった風だが、一挙一動、一挙手一投足に育ちの良さが滲み出て、まるで隠しきれていない。有り体に言って胡散臭かった。
「……ご勝手に」
面倒臭そうなのがきた。女性はそう思いながら、適当に返事を返す。そしてまたちびちびとワインを飲み始めた。
男はいそいそと女の向かい側に座ると、安いエールを手にぺらぺらと喋り出す。
「いやぁ、ようやくお会いすることが出来ました。貴女のことはかねがね噂に聞いております、"竜鱗の剣士"レイラ殿。その武勇は正に一騎当千、数々の遺跡を踏破し、数多の財宝を手に入れ、あまりにも伝説的な活躍ぶりは歴史上の英雄に勝るとも劣らない! 王国中、いや大陸全土にすら広がる貴女の英雄譚は今最も有名なものの一つだと断言できましょう! そんな神話に登場してもなんら違和感を抱かないであろう冒険者の中の冒険者たるレイラ殿に会えるこの幸運をなんと表したらよいか! 口不調法(口下手という意味)な僕がこの喜びを語るには何万と言葉を紡いでも足りないでしょうが、それでもあえてこの幸福を語るとしたら──」
レイラは、ふわぁぁ、と大きく欠伸をし、延々と続く話を遮った。
「いや、アンタ誰? 生憎とアンタみたいな不審者とは知り合いじゃないわ。要件があるなら手短に。ただ嫌がらせをしたいだけならとっとと帰って頂戴」
しっしっと手の平を振りながら言う彼女に、男は頭を掻きながら言葉を続けた。
「いや、これはどうも申し訳ありません……。噂に名高いレイラ殿に出会えた興奮でどうも口数が多くなってしまいました。では、端的に言いましょう。僕の名前はタートス。貴女と同じ、冒険者です。そして何の用かと言えば、僕を貴女の冒険の伴として連れていってはくださらないか、ということなのです」
男は、糸のような目を細め、真剣な表情で続ける。
「自分で言うのもなんですが、僕はかなり器用な男です。鍵開け、マジックアイテムの鑑定、縄術、薬草学、果ては政治や経済の事情にまで通じております。無論、代金などは頂きません。ですからどうか、僕を貴女の側に──」
男の言葉に被せるように、彼女がゆったりと話す。面倒そうに、興味なさげに。
「タートス、ねぇ。その名前なら私も聞いてるわ。"器用貧乏"のタートス。……いや、"竜追い"のタートスと言った方が良いかしら?」
グラスを揺らして弄ぶ。赤い液体がゆらゆら揺れた。
「竜に家族を殺された。いや単に栄光を求めた馬鹿だ。いやいや奴は魔術師で、自分の研究の為に竜の死骸が必要らしい……まあ、いろいろと聞こえるけどね。正直、何の為に竜を追ってるかなんて、興味もないしどうでも良いわ」
ワインを飲み干し、グラスを置くと、背中の剣へ手を伸ばす。そして、射抜くような瞳で男を見据えた。
「私の心臓に埋まった竜鱗が目当てだと言うなら、今ここで燃やし斬って──」
「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってください! あまりにも短絡に過ぎはしませんか!? それに、僕が竜を恨んでるですって!? そんなの真逆、真反対ですよ!」
男が大げさに手と頭を振る。嘘ではないように思えるものの、どうにも嘘くささが拭えない。心からやってこれなら、なんともまあ不憫なことだ。女性はふん、と鼻を鳴らして腕を戻し、またグラスを手に取った。
「アンタ、胡散臭いのよ。ていうか、それだけ私についてぺらぺら喋ってるんなら、当然私が一切パーティーを組まない個人主義だってことも知ってるでしょう? ま、嘘くさい上に全く具体的なこと言ってなかったから、本当に私の事調べたのかも怪しいけど。っていうか、そもそも普通の冒険者が初対面の人間を仲間にすると思う? おまけに素性は明かさない、金はとらない、でも信用はしてくれ……反射的に斬られても文句は言えないわ」
むしろ警告しただけ優しいまであるわね。そう言ってどぽどぽ酒を注ぎ、また一気に飲む。ぷはー、と大きな息をついた。
「……そうですね、僕が急ぎ過ぎたあまり、手順をすっ飛ばしてしまいました」
男は背を伸ばし、落ち着いた声で話し始めた。
「僕の名前はタートス。竜を愛し、竜に焦がれ、竜に人生を捧げた男です。僕の人生の目的は竜を見ること。その為には、何を犠牲にしても惜しくありません。僕は、竜の鱗を心臓に持つ貴女なら、英雄と謳われる伝説的な冒険者たる貴女となら、きっと竜をこの目で見れると思うのです」
「ふぅん、竜を。アリシア教が主流になってる今の世で、また随分と物好きというか命知らずというか……あんまり公言するもんじゃないと思うけど。まあ死なないように頑張れば?」
レイラはあくまで他人事である。
「あの人間至上主義の輩どもですか……」
会話の中の一言に反応して、男の表情が苦々しく歪む。
——アリシア教。
かつて、その力と文明に驕った人類を滅ぼし、その恨みから生まれた魔王によって滅ぼされたという神々を祀る宗教である。近年になって、急激にその勢力を伸ばしていきている。
彼らの教義では、人間とは神を模して造られたものであり、ありとあらゆる生物の中で最も高尚なものなのだとか。故にこそ、造物主たる神を崇め、敬い、その恩恵を一身に受けて神々のために働くのが一番優れた生き方だと説いている。
実際、アリシア教の司祭や祓魔師たちは、神の力を借り受けて様々な奇跡を起こす。傷を癒し、作物を実らせ、雨を呼び、魔を祓うといった、超常の技を持って現世利益としているのだ。その宣伝力は凄まじい。たとえ神を信じていない人であっても、死にかけた恋人が、枯れかけた作物が、まさしく奇跡のように回復するのを見れば、神を信じてもいいか、と思う。思ってしまうのだ。
「僕に言わせれば、彼らこそ無知蒙昧な愚人ですよ。亜人を否定し、自然を嘲笑い、暴虐の限りを尽くす。そんな彼ら自身が、この世界の異物なんだと気付くべきだ」
「いや、アンタの宗教観なんてどうでも良いんだけど」
彼女はばっさりと切り捨てた。
「……はぁ。正直アンタなんかどうでも良いし、ぶっちゃけ居たって邪魔なだけなんだけど。私、そろそろ約束の時間なのよ」
だから、と思い切り溜息をついて、
「明日、朝の鐘が七つ鳴る時までに、東門のとこに立っときなさい。正直、このまま話を続けるのも面倒臭いから、実際に使えるか見たげる。明日はちょっとした依頼で、盗賊のアジトぶっ潰しに行くから、それなりの用意をしとくことね」
そこまで言うと席を立ち、カウンターに向かってお代を放り投げ、ドアまですたすたと歩いていってしまう。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
タートスが慌てて声をかけると、彼女は振り返りながらこう言った。
「ああ、そうだ。アンタの面白い噂の中に、本当は貴族の末息子だ、ってのがあるんだけど、それって本当なの?」
苦虫を噛み潰したような表情で、タートスがうめく。分かりましたよ、行けばいいんでしょう、と呟きながら、
「……そうですね、かつて、ハルシュタットの名で呼ばれていたこともありました。まぁ実家には竜にゆかりのある品々が見つかって勘当されましたし、貴族の間では嫌われものになってしまいましたが」
ですから、貴族時代の人脈は頼りにできませんね、もともと対して有名でもありませんでしたが、なんて表情を硬くしながら無理をして笑う。
「ハルシュタット? ああ、てことは、アンタがあの有名な侯爵家の馬鹿息子、タルティトス=ハルシュタットだったの。そのまま領地と爵位を継いでれば楽に暮らせたでしょうに、馬鹿ね」
まぁ、私も人のことは言えないけど。と女性が自嘲気味に男を笑い、今度こそ店を出て行った。
残された男が、一瞬だけ追い掛けるように手を上げ、力なくうつむいて誰ともなしに呟く。
「……ええ、馬鹿な人間なんでしょうね……。でも、もしも、もしも竜をこの目で見れるなら、たとえ全てをなげうってでも──」
酒場の奥で、賭けに大勝ちしたのだろうか、どっと歓声が沸いた。
宴は、今宵も朝まで続く。
*****
夜空が妖しく輝く月夜。入り組んだ路地の奥の奥、乞食や不良すら寄らない狭く薄暗い場所。そこに彼の人は立っていた。
口元まで隠した焦げ茶のターバン。全身を覆う、鼠色のぴたっとした上下。手のひらと足を保護するくすんだ茶のブーツ、グローブ。唯一そこだけ地肌が覗く、灰色のまんまるな目は、子供のようにくりくりと動いて一瞬だって落ち着かない。
その人物は、どこか軽い雰囲気のする、笑みを含めた独特な喋り方で彼女に話しかけた。
「やあ、レイラ。どうしたんだい? そんなにぴりぴりして、君らしくもない」
──"鴉"のドーズ。顔も性別も定かではなく、人種や髪色すら分からない怪しげな人物。どんな情報も確実に依頼者へ提供する、ここらでは一番の情報屋である。その卓越した情報収集能力に対する危惧と、誰とも知らない人間が重大な機密を握っているという不安から、常にその命と身柄を狙われている。もっとも、むしろ自分から生きるか死ぬかの綱渡りを仕掛けて楽しんでいる節があるので、同情の余地は微塵も無いのだが。
答える彼女は腕を組み、酷く不機嫌そうだった。
「どうしたもこうしたも無いわよ。どーーせアンタのことだから、あの"器用貧乏"に私の居場所を売ったんでしょ? 私は普通、ここらへんの酒場になんて来ないわ。今日たまたまここに来るのを知ってるのはアンタだけ。違う?」
情報屋がターバンの覆面越しでも分かるほど口角を釣り上げた。
「その情報は銅貨一枚かな」
銅貨を持ったレイラが、振りかぶってー、投げた。ど真ん中、へそのあたりに命中。受けてはお腹を抑えて踞っている模様です。
「げほっ……酷いなぁ、鉄板仕込んでなきゃお腹に穴が開いちゃうとこだったよ」
「あーら、アンタの真っ黒な汚れきった腹なら、風穴を開けて少し風通しを良くしたほうが良いんじゃない?」
「んー? ちょっとなんのことだか分からないかなぁ」
若干目を泳がせた情報屋がごほん、と咳ばらいし露骨に話題を変えた。
「それより、ボクが彼に情報を売ったかって? うん、そりゃ売ったよ。売ったとも。売れる情報ならなんでも売るのがボクのモットーだからね。知ってるだろうけど。それにしたって、人嫌いの君がパーティーを組むだなんて珍しいじゃないか。明日は槍でも降るのかい?」
早口でまくし立てるドーズに、レイラがじっとりと軽蔑を含んだ視線を送ってあからさまに溜息をつく。
「相変わらず気持ち悪いほど耳が早いわね……別にパーティーなんて組まないわよ。見極めるってのは建前で、アイツを仲間にする気なんてさらさら無いわ。あとそれ以上人を小馬鹿にすると物理的に槍が刺さるわよ」
情報屋は肩をすくめると、どこからか取り出した革の手帳にメモを取る。
「ふむふむ、やはり"竜鱗"はぼっちを貫く、と。この情報はいくらで売れるかな……」
「焼き切るわよ?」
目が据わっていた。殺気すらこもっていた。
「おおう、怖い怖い……さて、ふざけるのもこれくらいにして、本題に入ろうか」
ドーズは、おもむろにその声音を真面目なものへ切り替えると、懐から、手帳と入れ違いに獣皮紙の束を取り出した。
「月明かりじゃ見づらいし、ちょっと明かりだしてくれない?」
「もう、締まらないわね。ほら」
冒険者が中指と親指をパチンと擦り合わせ、人差し指の先に火を灯した。ぼっ、と空気を少し焦がして、暗闇を払い辺りを明るく照らす。その不自然な小さき火は、自然の炎ではありえない、彼女の瞳と全く同じ、深紅の輝きを宿していた。
ゆらゆらと揺れる影を背に、情報屋が悪びれもせずニヤリと笑う。
「いやあ、悪いねえ。さってと、今回の依頼はジェイル盗賊団についてだったね。根城の場所に、抜け穴、見取り図、盗品の隠し場所、そしてその規模。いや、なかなかに骨の折れる仕事だったよ。これを一日で調べろとか、君も結構無茶言うよねぇ」
「あら、そのぶん料金は弾んでる筈だけど?」
「まあね。別に文句があるわけじゃないさ」
ドーズが手に持った紙束を渡す。そこには詳細な地図や情報が細やかな文字で書かれていた。
それを片手で受け取り、中身をざっと確認したレイラは満足げに頷く。
「うん、相変わらず良い仕事振りね」
「お褒めに預り恐悦至極。で、君が受けた依頼は盗まれた物品の回収と、可能なら盗賊団の壊滅……でいいんだっけ? ずいぶんと厄介なのを受けたねぇ」
「ええ。どっかの貴族がわざわざご指名で依頼してきたのよ。できる限り急ぎで、しかも内密に、ってね」
レイラが嘆息し、指先の炎をふっ、と吹き消す。
「面倒臭いけど、その依頼主が結構な家の貴族でね。反アリシア教の大派閥ってこともあるし、断るわけにもいかなかったのよ。なにせ、私は教会にあんまり好かれないし」
そう言いながら、右手の親指で心臓のあたりを叩いた。
「……君さあ、今まさに依頼主の情報を情報屋相手にぺらぺら喋ってるけど、それは良いのかい?」
あきれた声でドーズが首を振る。
「名前出してないから平気よ平気。具体的に言わなきゃいくらでもすっとぼけられるでしょう。向こうだって諜報員の二十や三十は持ってるはずだし、ちょっと情報漏らしたくらいじゃびくともしないわ」
覆面の下で、注意深く見なければ気付けないほど小さく、ぴくりと眉間に皺が寄った。
「……ふーん。そうかなぁ。その諜報員とやらも、案外大したこと無いかもよ?」
その声はどこか不機嫌そうだ。
「いや、なに拗ねてんのよ。なんか気に障ることでも言った?」
「別にー? でもさぁ、その貴族さんも間抜けだよねぇ。せっかくこっそり手に入れたアリシア教の聖遺物を、盗賊に盗まれるだなんて」
「……は?」
不自然な沈黙が場を満たす。
ギギギ、と音がしそうなほどぎこちない動きで、レイラが耳に手を当てた。
「……おかしいわね。今ちょっと一瞬耳が聞こえなくなってたみたい。で、何が盗まれたって?」
「聖遺物」
「……聖遺物?」
「うん、聖遺物。アリシア教の。十一枚目の『貨幣』だって」
天を仰ぎ、額に手を当て、大きな大きな溜息と、小さな声の悪態をついて、ガクリとレイラが肩を落とす。
「あ"ー……もう、最悪。とんだ厄ネタじゃないの……」
「あはは、お疲れ。今からでも依頼取り消したら? 流石に今回はヤバいと思うよ?」
「冗談。信用と名声を失った冒険者なんて、笑い話にもなりゃしないわ。情報屋も似たようなもんでしょ? はぁ……」
溜息をつき、しばらく腕を組んで何事か考えていたレイラは、顔を上げてこう言った。
「うん、やっぱ一度受けた依頼を反故にするのはムリよ。悪いわね、せっかく警告してくれたのに」
情報屋が微苦笑を声に混ぜながら応える。
「仕事なんだから、別に気にしないくて良いのに。君も、相変わらず生真面目というか、頑固というか……まあいいや。ボクはそろそろ帰るよ。情報も全部伝えたしね」
「分かったわ。いつも悪いわね」
「ははっ、よしてよ、君がそんな素直だと、ホントに明日どうにかなるんじゃないかって思っちゃうじゃないか。じゃあね!」
そんな捨て台詞を残して、路地の壁を猫のようにするりと登り、屋根の向こうへ消えていった。
「……今度会ったらただじゃおかないわ」
分かりづらくも情の深い、素直じゃない友人へ、応えるように軽口をひとつ。
見上げた月は、憎らしいほど輝いていた。