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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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099

 前方にレニノス軍、後方にファーラ軍。

 これはあれか。前門の虎、後門の狼ってやつか。


「ゴーラン、挟まれちまったぞ」

「それに前後から迫って来たわよ」


 俺の予想が確かならば、ちょうど俺たちがいるあたりで両軍が激突する。


 右も左も兵の列が長く続いている。

 どこにも逃げ場はない。


「どうするんだよ、ゴーラン」

 サイファの焦った声が聞こえてくる。


 さすがにこんな事態は想像したことがなかった。


「なんて言ってる場合じゃない!」


 敵の到着まであと三十秒。今から何ができる?


 逃げる? 駄目だ。押しつぶされる。

 どちらか一方に突っ込む? ただの自殺と同じだ。接触が多少遅れたところで、背後から敵が迫る。


 だったらどうする? あと二十秒。


「ねえ、ゴーラン。ヤバいって、コレ」

「考えている。ちょっと黙ってろ」


 あと十五秒。


 逃げるは駄目、戦うのも駄目。あと他には?

 あった! ひとつだけっ! この窮地を脱出する方法が!


 あと十秒。


 まだ間に合う。いくぞ! 秘技……


 ――丸投げ


「……ん? 俺のやつ、急にオレに身体を渡してどうし……でえええええ!?」


 あと五秒。


「ゴーラン!」

「ねえ、ゴーラン。どうしよ」

「ゴーラン様ッ!!」


「俺の野郎ぉ~~~!! 逃げやがったなぁああああ!」



 ――激突



 とっさに抜いた金棒をかざして敵の剣を弾く。

 後ろから迫った敵を裏拳の要領でぶっ飛ばす。


 この間、コンマ五秒。


 近くの兵に蹴りを入れて、首根っこを掴んでぶん投げた。

 足の速い者はこれで片付いた。本隊の集団がすぐそばに迫ってくる。


「うおおおおっ!」


 金棒をぶん回し、数体の敵を吹き飛ばし、敵陣のただ中へ躍り込んだ。

 繰り出される槍や剣をはじき、兵を数人捕まえて盾にしつつ奥へ奥へと進んでいく。


「撤収ぅー! みんなしゃがんでここから抜け出せぇ!」


 もう何がなんだか分からない。

 後ろの方で肉と肉がぶつかり合う音が聞こえてきた。

 おそらくギリギリだ。


 大軍どうしのぶつかり合いがこんなに危険だとは思わなかった。

 幸い、レニノス軍はトトワールの部隊が派遣されたようで、幽鬼種が多い。


 布を被ったような見たことのない連中もいる。

 それらに紛れるようにして戦場を進む。


 途中、兵がばらけて来たところで、立ち上がった。

 そして駆けだした。それはもう一目散に。


「ちょっとゴーラン、待って!」


「無駄口叩くな! 逃げろ!」


 走った。人生で一番真剣に走った。

 なにしろ、数千もの軍勢が集まった中だ。


 気づかれたら終わる。


「走れ! 走れ! 走れ!」


 今日一日で何回「走れ」と言っただろうか。そんなことを思いながら、オレは先頭にたって、戦場を駆け抜けた。


 それはまるで、主君の赤子を抱えて曹操軍のただ中に躍り込んだ趙雲のように。




◎小魔王レニノスの城 ファルネーゼ


「なぜ、ここにムジュラがいる!?」


 ここは小魔王レニノスの城。その玉座の間。


 レニノスと戦うための準備を調えて向かってみれば、そこにいたのは大狒狒おおひひ族のムジュラ。


 ファルネーゼの思考は千々に乱れた。


 城はヘカトンケイル族のレニノスに合わせて、かなり大きく作られている。

 巨大な空間にいるのはムジュラを筆頭に狒狒族、大狒狒族の群れ。


 少なくとも、ここにレニノスはいないことが分かる。


 ムジュラがゴロゴダーンの迎撃に向かってなかったのか。

 ならばゴロゴダーンは放置か?


 そう考えたが、すぐに否定する。レニノスは慎重な男だ。

 敵を軽く見る愚を犯すタイプではない。

 何らかの策は立ててあるのだろう。


 城にレニノスとムジュラがいるならば、ここで戦う意味は無い。

 どうやっても勝てない。


「…………」

 ファルネーゼはムジュラをじっと睨む。

 長い体毛の下からでも盛り上がった筋肉がよく分かる。

 巨躯のわりに身軽に動くと聞いている。


 持てる策をすべて使えば勝てるかもしれないが、長期戦は必死。


「……撤退するよ」


 ゴロゴダーンのところにはノスフェトゥ族のトトワールが向かったのかもしれない。

 とすると、北に戦力を向かわせる作戦が失敗したことになる。


 ゴーランのことだから大丈夫だと思ったが、途中で何かあったのかもしれない。


 ファルネーゼは部下とともに空中に舞い上がり、そのまま窓から外へ飛び出した。

 気になって玉座の間を見たが、異様なほど静かだった。


 ファルネーゼだけならば『空間転移』で逃げられたが、部下は使えない。

 このまま少しでも城から離れたい。


 敵が追ってこないことを確認すると、ホッと胸をなで下ろした。


「……危なかった。戦闘になっていたら助からないところだった」

 レニノスにしか照準を合わせていなかったので、ムジュラのことは完全に想定外だった。


「二人の小魔王を相手にできないしな……いや、待てよ」


 ふとファルネーゼは考えた。

 玉座の間にいたのはムジュラだった。


 他の場所にレニノスがいたと考えたが、本当にそうだろうか。

 もしトトワールが北に向かい、城にムジュラがいるならば、南に向かったのは?


「まさか、ゴロゴダーンのところにレニノスが行ってないよな」


 同じ巨人種といえども、レニノスはゴロゴダーンとは格が違う。

 同種族どうしが戦った場合、種族の差を覆すのはかなり難しい。


 得手不得手がほぼ共通なのだ。より上位の種族が勝つに決まっている。


「早く帰らねば」


 翼を最大限に広げて、ファルネーゼは空高く飛んでいった。




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