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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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098

 このまま岩陰に隠れていても飛行種からは逃げられない。


 森に逃げ込んだら、樹妖精種や妖精種に見つかってしまう。

「あいつら、森の中限定でやっかいな特殊技能持っているからな」


 木々の記憶を読み取る『森の隣人』や、森の中で人為的な音だけを拾う『葉擦れ』などを持っているケースがある。


「レニノス領まで走るぞ」


 最善は最速で国境を越えること。


 計画ではファーラ軍の出動を確認した後、レニノス領まで戻る予定になっていた。

 町から捜索に多数の人員が派遣されたことから、もうすぐ軍が出てくる。

 だが、それにはタイムラグが必要。


 ファーラ軍が出てくる前にレニノス領へ逃げ出してやる。


「走れ! 走れ!」


 オーガ族とコボルド族には白い布を被せたまま、森の中を疾走させる。

 なんとなくバレバレのような気もするが、ないよりマシなはずだ。

 死神族はそのまま。遠目には同じような種族と思われるはず。


「砦と砦の間を抜けるぞ!」


 とにかく町から出てきた捜索隊から離れるのが先決。

 森の中を移動するしかないが、妖精種たちに早晩見つかってしまう。


 いまは少しでも国境まで近づけ……


 ――ピィイイイイイ


「おい、ゴーラン。見つかったぞ」

「分かってる!」


 笛の音が高らかと響き渡った。


「ねえ、ゴーラン。どうすればいいのよ」

「走れ! とにかく走れ」


 前部隊長のグーデンみたいなことを言っているなと自分でも思うが、しょうがない。

 ここで足を止めたら追いつかれる。


「近づいてきます」


 ペイニーが地面を滑るようにしてやってきた。

 というか、足がついてない。便利だな、死神族。


「どっから来る?」


 オーガ族よりも死神族の方が、感覚器官がすぐれているらしい。

 俺には近づいてくる気配は感じられない。


「――えっと、左右からですけど」


「走れ!」

 語彙が貧弱なんじゃない。それしか言う事がないのだ。


 しばらくして、近くに矢が落ちた。

 飛んできた方角からすると、後方にいるな。

 なんとか前をふさがれるのを防げたようだ。


「速度を落とすなよ。今なら抜けられる」


 頭の中で地図を思い出す。

 ちょうど砦と砦の間を抜けたはずだ。

 森はこのまま国境付近まで続く。


 このペースならなんとか抜けられそうだ。


「ペイニー」

「はい。なんでしょうか」


「前方に敵はいるか?」

「…………いえ、気配はありません」

「よし!」


 町の捜索隊には見つかっているだろう。

 こんなに騒がしく移動しているんだ。国境付近を守っていて、これを見逃すなんてヌルい連中じゃないはずだ。


「だがこれで任務は果たせそうだな」

 ファーラ軍が動けば、レニノス軍だって動く。


 俺たちはレニノス領に逃げ込んだあと、隠れながら国まで帰るか。


 しばらく走って、ようやく森が切れた。


「よし。ここからは国境まで草原だ。後ろから矢が飛んでくるかもしれないぞ、気を抜くなよ!」

「うぇーっす!」


 俺を先頭にちょうど三角形の形になっている。

 まるで突撃陣形のようだが、それでいい。このまま国境越えを……


「ちょっ、ちょっ! なんだあれ!?」



 ――目の前に大軍が現れた



「レニノス軍のようです」

「分かってる!」

 つい、リグに怒鳴ってしまった。


 まるでこれから攻め込む直前のように、すでに陣形が完成している。

 いつから準備していた?


「あれは横陣ですね」

「だから分かってるって! なんだって急に」


 意味が分からない。まだファーラ軍がようやく動き出したかどうかという段階だ。

 これからレニノス軍を呼び寄せる予定だったのに、なんで整列している?


「おい、ゴーラン。このまま行くとやべーぞ」

 サイファが今、いいことを言った。


 いま俺たちはやじりになって、盾に突っ込もうとしている。

 あの陣を抜けられるとは思えない。


「ぜっ……全員、反転しろぉおおおおおお!」


 両足で急ブレーキをかけて、もと来た道を全速力で戻った。


「おそらくですが、わが国が攻め込んだときに、軍を国境に派遣したのではないかと」


「だろうな。魔王ジャニウス領との国境を進んだときに現れた連中……あれもそうだったんだろ」


 想像以上にレニノスは慎重なヤツらしい。

 俺たちの国が攻め込んだのが分かると、周辺諸国をちゃんと警戒したとみえる。


「ねえ、敵が向かってくるわよ。ゴーラン、どうすればいいかな?」

 最後尾にいたベッカがいま先頭を走っている。

 立ちふさがっているのは、砦から現れた連中か。


「後ろにレニノスの大軍がいるんだ。あれを抜けるしかねえ!」

 敵を蹴散らして森にもう一度入る。


「なんか、適当だな」

「まさかもうレニノスが軍を揃えているとは思わなかったんだよ!」

 想定外にも程がある。


 幸い、砦から俺たちを追ってきたのは、ゴブリン族と火狐ひきつね族だ。

 蹴散らせばいい。


「……よし、森が見えた。あの森へ全速力で突っ込……めええええ!?」


 森の中から大軍が現れた。

 状況からして、俺たちを追ってきたファーラ軍か?


「ゴーラン、こっちもやべーぞ」


「全員! 反転の反転だぁああああああ!!」


 あれはヤバい。あの中に突っ込んだら死ぬ。


 先頭のベッカが急停止したので、後ろが詰まった。

 将棋倒しになるが、モタモタしていられない。


 もと来た道をまた戻ることになった。



「おい、あっちにはレニノスの軍がいただろ」

「いた」

「どーすんだよ」

「知るか。後ろを見ろ。ファーラ軍が追ってくるぞ」


 そう、ファーラ軍は俺たち目指して駆け出してきやがった。


 俺たちは……必死にレニノス軍に向かって逃げていた。




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