097
一夜明けて、ただいま真っ昼間。
そして俺たちは途方にくれている。
どこにいるのか場所はだいたい分かっているし、進む方向も分かっている。
ただし、行きたい方角へ行けない。敵の捜索隊がウロウロしているのだ。
「本当に対応が早いな。それによく訓練されてる」
とにかく敵に見つからないよう、俺たちはさらにファーラ領奥深くへと進んでいる。
こんなに進んで大丈夫かというくらいに。
「……ここで休もう」
大きな岩の陰に集まり、休憩する。
一息ついたら、今後の方針を考える。
「ちょっと聞きたいんだが、砦の兵だけじゃなく、町からも兵を出したのはどうしてだと思う?」
俺たちが襲った砦は二つのみ。
てっきり近隣の砦からだけ、捜索隊が派遣されると考えていた。
だが、実際は違った。
すぐに町の方から増援部隊がやってきたのだ。
これはヤバいと、レニノス領へ逃げ込もうとしたら、砦の方も監視の目が厳しくなり、周辺に多くの兵が現れるようになった。
「砦の襲撃で、翼の音が聞こえたと言っておりましたが、あれが町に知らせに向かったのだと思います」
「まあ、そうなんだろうな。だが、そんなにすぐ動くものなのか? 明け方から動き始めたってことは、夜中に準備していないと間に合わないはずだぞ」
.
「さあ、私はなんとも……」
副官のリグにも分からないらしい。
町からやってきた大部隊が俺たちの捜索を開始したため、逃げ場がなくなってしまった。
「草の根分けても探し出せ!」と命令が出たのかと思うほど、念入りに捜している。
必然、町や砦から遠ざからざるを得なくなり、どんどんと深みにはまってしまった。
「レニノス領は大きいからな。ずっと大回りして帰ってもいいんだが……」
今回の目標は敵を国境付近へと近づけることにある。
「こんなことなら、適当にレニノスの町や砦でも襲ったら良かったんじゃねーの?」
サイファがそんなことを言った。
それは俺も一瞬考えた。だが、その作戦には致命的な欠陥がある。
「俺の部下はオーガ族と死神族だよな。それがレニノスの町を襲ったら、すぐに俺たちの仕業だとバレるだろ」
二度も敵の陣地を破壊したのだ。そのとき、部隊長も倒している。
敵が俺たちのことを間違えるわけがない。
あの戦争で、こちらの動員できる数はほぼバレているだろうし、小魔王の称号を持つ者を引っ張り出すまでには至らない。
やはり、ファーラ領からの侵攻くらいのインパクトがなければ、成立しない作戦なのだ。
「俺たちじゃひ弱過ぎて、そこらの部隊で事が足りると思われてお終いだぞ」
俺がそう言うと、サイファは「弱いってのは悲しいな」と理解を示してくれた。
最近、サイファが達観することがよくある。人生に疲れたのか?
「さて、仮定の話はここまでとして、どうすればいいと思う?」
ファーラが軍を出したのはいいが、逃げ場がなくなった。
「夜まで隠れて、闇に乗じて逃げ出すしか方法はないと思いますが」
「リグの言うことは正しい。ただ、夜まで隠れていられるか?」
問題はそこだ。
「なんで? 森に入っちゃえばいいんじゃないの?」
ベッカが不思議そうに尋ねてきた。
「遠目だが、町から出てきたのは樹妖精種や妖精種が多い。森で彼らの目をごまかせるとは思えない」
「そっかぁ。……じゃ、ずっとここにいれば?」
「ここは岩場だし安全だが、飛行種が近くに来たら、一発で見つかる」
そもそもこんなに奥へ入りこむつもりはなかったのだ。
「もっと奥に入ったら?」
「ファーラ軍をレニノス軍に見せるのが狙いなんだ。あまり国境から外れたら、ここまで来た意味がなくなってしまうだろ」
「そっかー……じゃ、今から敵を蹴散らして帰ろうよ」
「おまっ!」
結局最後はその案か。
オーガ族に任せると、そういう結論になるだろうなとは思ったさ。
「できるだけ安全な方法を選択したい。ファルネーゼ将軍がレニノスを倒す間だけでいいんだ。うまくこっちの情報が伝わって、レニノスが軍を出発させたという事実があるだけで成功だと俺は思っている」
ファルネーゼ将軍ならば、脱出したあとも、追っ手をまくことくらい容易いだろう。
「なら尚更早くレニノス領へ行った方がいいんじゃねーの?」
「それはそうだが、安全性がな……」
いまここから動いたら、一時間もしないうちに見つかってしまう。
ここにいたら、数時間以内に同じ結果になりそうだけど。
「ゴーランなら大丈夫だぜ。行くっきゃねえって!」
「そうよ。安心安全なんて、いまは戦争中なんでしょ。そんな場所なんて幻想よ」
サイファとベッカが口々に言う。
他のオーガ族も頷いている。
「おまえら…………戦いたいだけだろ!」
「バレたか」
「鋭いよねー、ゴーラン」
やっぱりか!
マジで戦いたいだけだったんだな。
それでもここにいたらじり貧だ。
起死回生の案なんて、どこにも浮かんでこない。
「しょうがない。森と砦を抜けてレニノス領へ行くぞ」
「おっしゃ!」
「やったあ~!」
サイファたちにうまく乗せられた感もあるが、ここにいるよりかはマシだと信じたい。
俺たちは白い目出し布を頭からかぶった状態で森に入った。
目指すはレニノスとの国境。
「……のはずなんだがな!」
結構早い段階で見つかって、絶賛追いかけられ中である。