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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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◎ワイルドハント ネヒョル


「あれれ? もうおしまい?」

 ネヒョルは両手を頭の後ろで組み、余裕をもって相手を見つめた。


 一方見つめられた方はというと、ネヒョルに軽口を返す余裕も無い。


 ただ射殺さんばかりに睨むだけ。それが精一杯の抵抗だった。


 ここは小魔王リストリスの国の城。


 ネヒョルは今回、この国の小魔王を倒すべく、ワイルドハントの面々とともに来た。


 国境付近からゆっくりと中心部に向かって進み、部隊長や軍団長を複数撃破している。

 そしていま、将軍職にある者と一騎打ちをしている最中であった。


 といっても、敵はもう血だらけになって、ネヒョルを親の敵のように睨んでいる。

 この敵はオフィール族と呼ばれている。蛇の頭をもった戦闘種族である。


 寒さには弱いものの、毒などの状態異常につよく、素早さと力強さがウリの突撃タイプの種族である。

 それがもう満身創痍。


「ねえ、そろそろいいかな? もう十分だよね」

「!?」


 両手の槍を構える暇すら与えず、ネヒョルの腕がオフィール族の胸を貫いた。心臓をひと突きである。

 ネヒョルは腕を抜くと、そのまま首を薙ぐ。


 胸と首筋から血を流し、オフィール族は倒れ伏す。


「ひぃいいいい」

 これで勝敗は決した。


 オフィール族の部下たちは、少しでもネヒョルから離れようと、後ずさりする。


「やっちゃって」

 ワイルドハントの面々が音も無く忍び寄り、周囲の敵に致命的な一撃を与えていく。


「うーん、やっぱりここの敵も予想の域を出なかったね」


 目の前で殺戮が行われているというのに、ネヒョルは我関せずで、ブツブツと呟きながら、通路の奥へ消えていった。


 通路の先には、小魔王リストリスのいる玉座がある。それを守る障害は取り除かれた。

 迷いのない足取りでネヒョルは奥へ進む。


「やっぱりボクの予想を覆してくれるような敵はいないのかな。ゴーランが特別だったわけか。惜しいことしたかな」


 飽きるほど生きているネヒョルにとって、わずかな寿命しか持たないオーガ族など、本来記憶の隅にですら留めておく必要のない種族である。


 だが、あの一戦以来、ネヒョルはちょくちょくゴーランのことを思い出している。


「会いたいなぁ。会いに行っちゃおうかな」

 あれから数ヶ月。

 ゴーランはまた強くなったかもしれない。


 だったら、刈り取ってもいいのではないか。

 ゴーランの全力は、ネヒョルもまだ味わったことがない。


 今度は全力で戦ってみたい。そうしたら、どんな手札を切ってくるのか。

 それを夢想するだけで、ネヒョルの身体がムズムズした。



 小魔王チリルを倒したことで、現在チリルの国は麻のように乱れている。

 残された将軍どうしが相争い、国内の覇権をかけた戦いが毎日どこかで発生している。


 その報を聞きつけた小魔王リストリスは、好機とばかりに軍を派遣した。

 漁夫の利を狙ったのである。


 まさか、その隙に自国の城が攻められるとは。


 多くの兵を隣国に侵攻させた小魔王リストリスに、ネヒョルが迫る。





◎小魔王レニノスの国 ファルネーゼ


 将軍ゴロゴダーンが城を出発して多くの耳目を集めたあとで、将軍ファルネーゼは密かに国境を越えた。


 夜に移動して昼は休む。

 その繰り返しで、ようやく小魔王レニノスの城付近までたどり着くことができた。


「小魔王レニノスを倒す準備は出来ている。問題は突入するタイミングだ」


 夜を友とするヴァンパイア族ならば、夜間戦闘はなんら苦にならない。


 また空を飛べるため、直接城の中へ侵入することもできる。

 ただし、相手は小魔王レニノスである。多数の精鋭が城を守っている。


 城に常駐している兵は多く、また強い。

 少しでも時間をかければ、すぐさま寄ってきてしまうだろう。


「明け方の一番暗い時間帯を狙おう。城は大きい。固まって進むぞ」

 時間がなく、城の情報を入手できなかった。


 ファルネーゼは連れてきた者たちを見る。


 ここにいるのは全部で十名。

 すでに複数の策を弄している。

 今回、レニノス戦は、この中のメンバーを五人選んで戦うつもりである。


 多くの準備を終えたが、それでも勝率は五割に届くかどうか。

 その上、援軍がやってくる前に事を終わらせなければならない。


「時間が勝負だぞ」

 ファルネーゼの言葉に全員が頷く。


「よし、行こう」


 城を見下ろす崖の上から、ファルネーゼたちは飛び立った。

 できるだけ上昇し、見張りに見つからないように飛ぶ。


 目指すは城のてっぺん。そこから侵入する予定である。


 空を飛びながら、眼下に見える城を確認する。

 庭や建物の周囲を二十名ほどの兵が巡回している。


 中も同じように見張りがいることだろう。

「……一度も戦闘しないで進むのは無理そうだな」


 最低限の戦闘だけしたとして、どのくらいの時間がかかるか。

 ファルネーゼとて、小魔王メルヴィスの国の将軍である。


 強さには絶対の自信がある。だがここはレニノスのいる城。

 自国の将軍クラスがゴロゴロいたとしても不思議ではない。


「……音を立てるなよ」

 城に降り立った後は、気配を消してゆっくりと進む。


 ――ぐえっ!


 出会い頭に会った敵を爪で刺し殺す。

 下っ端の巡回兵ですら、部隊長クラスの実力があった。

 ファルネーゼは一層、気を引き締める。


「だれだ!?」


 暗くて長い廊下を進んでいるとき、誰何の声が奥から聞こえてきた。

「――チィ!」


 ファルネーゼは駆けだした。


「敵襲だ!」

 駆け寄ってすぐに止めを刺したが、その前に叫ばれてしまった。

 これで巡回兵が次々やってくる。


「走るぞ。ついてこい」

 隠密している場合ではない。ファルネーゼは城の中を駆けだした。


 城の構造など、自国とほとんど変わらない。

 勘を頼りに、レニノスがいそうな場所を目指してかける。


 途中出会った敵を殺し、部屋をいくつも抜け、ついに王のいる間に到着した。

 そこには……。


大狒狒おおひひ族!?」


 なぜか、将軍ゴロゴダーンと戦っているはずの、大狒狒族の姿があった。




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