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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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 俺たちは小魔王ファーラの国に入った。

 ここまで見つからずにたどり着けたのは、奇跡か。


「まったくもって、運が良かったな」


 一、二回は見つかって、戦闘を覚悟していた。

 途中、危険はあったものの、順調にここまで来た。


「これはあれだな、成功しろとガイアが俺に囁いているな」

「……別に何も聞こえませんけど」


 副官のリグが地面に耳を当ててそんなことを言った。

 すべてまじめに受け取らなくてもいいのだが。


「コホン。さてここからだが、簡単な方針を話す」

 いくつかの策を用意してきた。


 正直、どうなるか分からなかったので、最悪の状況すら考えてきた。


「おう、ようやく暴れられるな」

「楽しみだね~」


 駄兄妹はやる気だ。だが待ってほしい。

 ここまでうまく行ったのならば、少しだけ欲を出してもいいのではなかろうか。


「本来、俺たちの正体がばれるか、敵に追われているかなど、いろんな事態を想定していた。だが、いまだだれの目にも留まっていない。これは好機だ」


 全員の反応を見る。分かっているのか不安だが、とくに意見もなさそうだ。


「そのため、俺たちはレニノスの軍のフリをする。具体的にはトトワールの部下のように振る舞う」


 トトワールはレニノスの将軍だが、小魔王のひとりだ。

 実力的には、絶対に出会ってはまずい相手。


 トトワールが率いるのは幽鬼種や夜魔種など、地球でいうところのアンデット系がほとんどだったりする。

 これは意外と簡単に擬態できる。いま俺たちがかぶっている布がそうだ。


「簡単に言おう。俺たちはこのヒラヒラした布をかぶったまま戦う」

「え~? 邪魔だろ」

 サイファが真っ先に反対してきた。


 いま頭からすっぽりと布をかぶり、目だけ出している状態だ。

 これはオーガ族も死神族も同じ。


「バレるまではこれでいく。うまくすれば、ファーラとレニノスの全面戦争の引き金にもなるかもしれない」


 さすがにそこまで楽観視はしていない。

 だが、ファルネーゼが失敗した場合、もしくはレニノスが死んで、この国が分裂した場合に備えて、布石を打っておきたい。


「よく分からねえけど、この格好で戦えば、いいこと(・・・・)が起きるんだな?」

「そういうことだ。やってくれるか?」


「ゴーランが大将だ。俺はいいぜ」

「あたしも~」


 他のオーガ族も問題ないらしい。

 というか、毎日一緒に移動していて気がついたが、なんか俺、同じオーガ族に恐れられている。


 気軽に話しかけたら、ビクビクされてしまった。

 若くて体力がある連中を選んだので、フレンドリーに話しかけたのだが。


 あれか? ひとりひとり特訓を施したからか。

 いや、全員まとめてかかってこいと、無双したのがいけなかったか。


 だれも死んでもらいたくなかったので、毎日足腰が立たなくなるまで面倒をみたのに懐いてくれないなんて。

 まったく薄情な連中だ。


 それはまあいいとして、死神族の反応をみたが、そっちも否はないらしい。

 死神族も実際、何を考えているかよく分からなかったりする。


 レニノスが俺たちの国を占領すれば、死神族の居場所がなくなるため、必死というのは分かっている。


 ただあまり感情を表に出さないため、その必死さがあまり伝わってこないというか、大丈夫なのか? と心配になるほど反応が薄いときがある。


 種族差を越えて親しくなれればいいのだが。


「それでは作戦を発表する。この格好で、周辺のどこかにある砦を攻める。そこにはファーラの軍が常駐しているから、できるだけたくさんのダメージを与えて撤退する」


 レニノスとファーラの国境は砦だらけだ。

 少しでも見落としがありそうな場所には砦をつくり、兵を置いている。


 そのため、砦といってもそう大きなものではない。

 百人も入れば、いっぱいになりそうな砦が十も二十も近くに存在している。


 国境付近にあるすべての砦を数えたら、いったいいくつあるのか。


 俺たちは急ぐ必要はないし、慌てる必要もない。

 いま気をつけなくっちゃいけないのは、襲撃前に見つかることと、仲間に死者や捕虜が出て、こちらの意図に気づかれることだ。


「そういうわけで、敵の少なそうな砦を探す。見つけたら、夜を待って襲撃するぞ」


「おっしゃ! ぶっ飛ばすぜ」

「腕がなるねえ~」


 ……本当に、こんなやつらで大丈夫だろうか。


 アップをはじめた駄兄妹を眺めつつ、おれは将軍から貰ったばかりの太刀の感触を確かめた。


 その後、コボルド族を偵察に出し、いくつかの候補を見つけた。


「……よし、ここにしよう」

 それは三方を崖に囲まれた砦だった。


 砦までの道は一本のみ。

 ゆえに近づけば目立つ。


「ペイニーできるな」

「はい。問題ありません」


 死神族に先行してもらう予定だ。

 なぜか知らないが、あまりこのような搦め手を使う習慣がないらしい。


 敵の裏をかくのはよくやっているんだけどな。何が違うのか。

 不思議と、密かに潜入という発想が浮かばないようだ。


 さて、襲撃予定の砦だが、大きさは見つけた中では最小。

 石垣と丸太で出来ている。


 丸太は重量があり、攻撃に耐えるのはいいが、いかんせん場所を取る。

 必然、砦の中は狭くなっているだろう。

 これは予想だが、敵の数もそれほどいないのではないかと思っている。


 砦を攻めて、敵を何人か残す。

 それだけで俺たちの襲撃は意味を持つ。


 ファーラの軍が出てきたらこっちのものだ。

 どうしたって、レニノスの軍は国境を警戒せざるを得ない。


「さあ、夜を待って出発だ」




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