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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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◎ワイルドハント ネヒョル


 力自慢のミノタウロス族は魔法が使えない。

 斧を好んで使用し、肉弾戦を得意としている。


 ただし、魔法に対する耐性は高い。

 高位の種族だからか、物理と魔法、明らかな弱点は存在していない。


「さすがギガント種だね。ちょっと手こずっちゃったかな」


 大幅に増加した魔素がなかったら、かなり苦戦しただろう。

 ネヒョルはそう感じた。


 それでも今のネヒョルならば、少々やりにくい程度の相手だ。

 ギガントミノタウロス族の身体がどうと倒れた。


 直後、周囲にいたミノタウロス族たちが恐慌状態に陥り、算を乱すように逃げていく。

 それをやってきた黒衣の集団が狩っていく。


 ここからは一方的な展開だ。

 ネヒョルはその様に目を向けず、城の一番高い場所を目指す。


「これで小魔王チリルの国は落ちたっと。次はどっちに行こうかなぁ」

 ネヒョルは好奇心いっぱいの表情で、城の高みから遠くを展望する。


 その先には、どこの国があるのか……。




 城内の敵を粗方殲滅し終えたワイルドハントの一団は、部下を引き連れて城を出発した。


 このあと城にやってきた将軍たちは、城の惨状に驚き、小魔王チリルがすでに倒された後であることに深い憤りを感じた。


 自分たちがそこにいれば。


 そう思うものの、これだけ見事な襲撃ならば、自分たちがいたところで結果は同じだったのかもしれない。

 いや、これは敵の奇襲だ。迎撃側がしっかりしていれば、結果はまた違ったものになっただろう。


 そんなことを考えつつ、全ての将軍が集まったとき、誰かが言いだした。


 ――それで次の王は誰になるんだと


 小魔王チリルが倒されたことで、麾下の将軍たちは反目し合い、内戦状態に突入する。


 将軍が軍を率いて他の将軍を襲い、漁夫の利をねらって別の将軍が後ろから参戦する。


 国内の混乱が最高潮に達したとき、隣国が襲撃を開始してきた。

 これにより、内戦が一転して防衛戦へと早変わりしていく。


 小魔王チリルの国は、王が倒れたことによって混迷を深めていく。




◎魔王トラルザードの国 メラルダ


 トラルザードとリーガードの攻防は一進一退。

 いまだ決着を付けるに至っていないが、魔王国どうしの戦いはこんなものである。


 総力戦を行えば、勝った方とて大ダメージを受ける。

 そこを狙われたらひとたまりもない。


 局地戦をしつつ、敵戦力を減らしていくのが常套となっている。


 そんな中、前線を離れた将軍メラルダの軍は、自領に帰ることをせず、軍を東に向けた。


 東には小魔王国群が存在している。

 攻め込めば簡単に手に入るだろうが、その先には大魔王国が控えている。


 そんな危険な国と国境を同じにしたくない。

 小魔王国を併呑して大魔王国の隣まで国土を広げるならば、その前に周辺の魔王国を平らげた方がいい。


 ゆえに魔王トラルザードは、軍を東に展開したことはなかった。

 そのため、小国家群の慌てようは凄まじいもので、逆にこちらへ攻め込んでくるのではと思わせるほど、反応は劇的であった。


「……なに? 小魔王チリルが落ちたじゃと?」


 城からメラルダ宛に使者がやってきた。

 伝えられた内容は、驚愕に値するものであった。


「それでチリルの国はどうなったのじゃ?」

「王が不在ゆえ、混乱が起こっているとのことです。このままですと将軍どうしが争い、その余波は他国にまで広がるのではと予想されております」


「ふむ。御苦労であった。休むがよい」

 全ての報告を聞いたあと、メラルダはその端正な顔をゆがめた。


 魔王リーガードとの戦いは、過去よりずっと続いている。

 この先も変わらないだろう。


 魔王ジャニウスは魔王ギドマンとの戦いに忙しく、こちらに気を配る余裕はない。

 ゆえに小魔王国群へ牽制のための軍を派遣する余裕があった。


 チリルが倒され、国の西側が混乱すれば、魔王トラルザードはそちらにも気を配らねばならなくなる。

 兵も有限、将軍も有限である状態で、多くの戦線を維持する余裕はトラルザードにもない。


 人材は豊富だが、守るべき国土も広く、敵も多いのだ。


「西か。何事もなければよいが……いや、混乱は必至か」


 同格の将軍どうしが争うならば、戦いは長期化するだろう。

 お互いに手の内を知っていれば、尚更だ。


 それを黙って指をくわえている他国ではない。

 他の小魔王国は、これ幸いと介入してくるはずだ。


「西は混乱するな」


 それがいつなのか。

 メラルダにはそう遠くない未来のことに思えた。


「……それと、一体だれが小魔王チリルを倒した?」

 その情報はまだ掴めていないらしく、報告にはなかった。


 ただ、何者かによって倒されたとしか。


 仮にもチリルは小魔王である。

 そんな存在を簡単に倒せるような存在など、そうそういない。


 メラルダは、とある会談で上がった名を思い出したが、首を振って追い払った。

 予断を許す内容ではない。


「西にも目を放っておく必要がありそうじゃな」

 メラルダはそう独りごちた。




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