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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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◎ワイルドハント 小魔王チリル


 小魔王チリルの国は、数日前から不穏な空気に包まれていた。


 発端は、辺境の村がひとつ壊滅したこと。


 原因は分からない。

 何者かの襲撃を受けたのはたしかだが、敵の死体はひとつとして転がっていなかった。

 あるのは村人のものばかり。


 近くの町に報告が行き、調査隊が出発したものの、それが行方不明。

 二度目の調査隊を出すとともに、城へ報告を出した。


 村があった場所は、魔王トラルザードとの国境に近い。

 まさか、魔王軍が攻めてきた?


 事態を重要視した小魔王チリルは、各地に散っている将軍を集める指示を出した。


 その翌日、城にほど近い町が襲撃を受けたと駆け込んできた者があった。

 最初は村、次は派遣した調査隊、そして今度は近くの町。


 敵が何者か分からないが、確実に近づいてきている。


「門を閉ざせ。兵よ、装備を纏え」

 チリルの判断は素早かった。


 敵は必ずここに来る。そんな確信があった。


 慌ただしく動く部下たちを眺め、チリルは彼我の戦力を試算する。


(報告によれば、町はほぼ一日で灰燼に帰した。中途半端な迎撃では足止めにもならん)


 城に近くなるほど町の防備は強力になっていく。

 とくに城塞都市と呼ばれるいくつかの町では、一旦門を閉ざすと、容易に破壊することすら困難となっている。


 城塞都市で敵を引きつけている間に、各地に散っている将軍を軍隊ごと呼び寄せる。

 それが最善の策であるが、すでに喉元にまで敵が迫っている。


(あまりに神出鬼没。敵は何者だ? そして呼び寄せた将軍は果たして間に合うのか)


 一番近くにいる将軍で早くて三日後。

 軍を引き連れてくるならば、その倍は軽くかかる。


 将軍全てが揃うとすれば、十五日は見た方がいい。


(……軍を連れてきては間に合わんな)


「おい、追加で伝令を出せ。各将軍へだ。まずは身ひとつで……」


 チリルがそこまで言いかけたとき、城門付近で巨大な破裂音がした。


 ――ズズーン!


 地を揺るがすような音、そして地響き。

 チリルはすぐさま愛用の斧を掴んだ。


「敵襲だ! 来るぞ!」


 城門の鉄板の厚みは一メートルもある。自慢の一品だ。

 あれは腕力だけで破壊できるものではない。


 それでもチリルには確信があった。敵は来ると……。




「やあ、はじめましてかな?」


 城門に向かう……が、中庭にさしかかったところで陽気な声が聞こえてきた。

 まさか自分が声をかけられるとは思わなかったチリルは驚いた。


「おまえはっ、ヴァンパイア族かっ!」

「そそっ。驚いたかな?」


 そこにいたのはヴァンパイア族の少年。


「馬鹿め。たったひとりでノコノコと」


 ヴァンパイア族は空を飛べる。

 どんなに厚い門があろうとも、飛び越えれば単独で襲撃可能である。


 だが、それがどうした。


 敵の城に単騎で侵入。それは自殺となんら変わりない。

 よほどの力量があったとして、城の兵をすべて相手できる訳がないのだ。


「落とせ!」


 チリルの言葉が言い終わるよりもはやく、視認できない速度で多くの槍が飛んだ。


 ミノタウロス族の集団が、『槍投擲』の特殊技能をフルに使い、次々と打ち出したのである。


「あれ? ちょっ、とっと……」


 その者は、数十本に及ぶ槍をすべて受け流す……ことはできず、何本か身体に喰らって、頭から地面に激突した。

 情けない姿である。そこへミノタウロス族が群がる。


「たった一体で何ができる」

 再び城門の方で大きな音が響き、チリルの興味はそちらへ向いた。


 直後、殺到したミノタウロス族がひとり、またひとりとくずおれた。


「何なんだよ、も~……いきなりだな」

 ヴァンパイア族の少年は大した痛痒を感じてないようだった。


 チリルはそこで警戒度を最大限まで高めた。

 ここでようやく冷静になり、敵の魔素量が小魔王クラスであることを理解したのだ。


「キサマがサジブの村とスルタンの町を襲ったのか?」

「うーん、知らない名前だけど、村とか町なら襲ったかな」


 ミノタウロス族の屍の上に立ったヴァンパイア族の少年は、くりくりとした目を器用に動かして邪気のない笑顔を向けた。

 チリルはその目に、いい知れない狂気を見た。


「……何が狙いだ?」

「え~、狙い? そんなのないよ。邪魔だったからかな」


 邪魔だから村や町を滅ぼした。目の前の相手はそう言っているのだ。

 チリルはギリッと奥歯を噛みしめた。


「ならばここで死ね」


 特殊技能の『憤怒』は自身の力を高めることができ、『咆哮』は相手の心を萎縮させ、力を削ぐ効果がある。


 ミノタウロス族のギガント種であるチリルには、それを併せ持った特殊技能『憤怒咆哮』が使える。

 自身の力が大幅に上昇し、敵と認識した相手の力が大幅に下がる。


 ――ブボォオオオオオオオオ!


 チリルの咆哮が城全体にこだました。


 肌を赤銅色に染め上げ、躍動する筋肉が膨れあがった。


「どうだ! これっ……でっ……え?」


 小魔王チリルの首から大量の血が噴き出した。


「あれ? 首が落とせなかった? うーん、どうしてだろ。威力は十分すぎるんだけどな」


 なんでゴーランみたいに出来ないんだろ……チリルの耳にはそんな独り言が聞こえた。

 まるでこちらのことはどうでもいいかのような態度だ。


 斬られたのは左の首筋。そこから今も血が流れ出している。


「ふんぬっ!」


 筋肉で止血し、改めて目の前のヴァンパイア族の少年を見る。

 いつ取り出したのか、巨大な剣を持っていた。


 それはチリルの持つ戦斧と比べても遜色のないものだった。


「あれれ? なにかおもしろいことをするね」

 血を止めたことを言っているのだろうか。


 目の前の敵は自分より強い。そう思ったチリルは、一撃に全てを賭けることにした。

 先ほどから、城門の音がどんどんヤバくなっているのだ。


 チリルは戦斧の柄を強く握りしめ、全身に力を巡らす。


 ――ズズーン! バーン。


 一際大きな地響きが大地を揺らす。

 城門が破られた。チリルはすぐそれを理解した。


「ようやくだよ、も~、遅いんだから」

 どうやら敵も城門が破られたのが分かったらしい。


 このままだと、敵が殺到する。

 その前に戦いを終わらせなければならない。


 そう思ってチリルが一歩踏み出したとき、目の前の敵は場違いなほど陽気な笑顔を向けてきた。


「じゃ、いい時間になったみたいだし、ボクのために死んでくれる?」




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