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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第1章 見晴らしの丘攻防戦編
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009

 初対面のときから軽いノリだったネヒョル軍団長だったが、今回だけは真面目な顔で聞いてきた。


 ならば俺も真面目に答えようと思う。


「どうして……と聞かれたのでしたら、舐められないためと答えておきます。それと仲間を守るためですかね」


 グロボは俺が気にくわなかったから突っかかってきた。

 もしここが日本で、グロボが会社員だったら、不満を顔に出すことすらしなかっただろう。


 個人の感情など胸の内に仕舞って、何食わぬ顔で会議に参加して、そのまま解散していっただろう。

 だが魔界は違う。むかつけば突っかかるし、そうでなくてもすぐに上下関係をつけたがる。


 自分の方が強いか弱いかは生きていく上で重要なことであり、みな何よりそれを優先している。

 なぜならそれが、魔界の住人の存在意義だからだ。


 考えるたび、気が滅入ってくる。

 ここはなんて世紀末ヒャッハーな世界なのだろう。


「ねえ、ゴーラン。舐められたくなかったから喧嘩を買ったの?」

「そうですね。グーデンは舐められてましたよね。いまの布陣を見れば分かります」


「あは。分かっちゃった?」


「中央のロボスとゴブゴブ兄弟の所に戦力が集中しすぎていますよ。丘の上を占拠している状況で、もっとも数の少ない俺の部隊が攻勢をかける意味はないでしょう」


 グーデンをけしかけたのか、自分から言い出したのか分からない。

 ただオーガ族の突撃をネヒョルが認めた。そこが大事だ。


 会議で見たあの布陣ならば、左右の陣は瓦解しないように守っているだけで良かったはずだ。


 今のオーガ族の戦力で敵の陣地を落とすのは難しい。

 それを敢えてやらせていることから、俺たちは消耗品扱いされていると考えた。


 だからすぐに人員が足りなくなって、追加の徴兵が求められるのだ。

 それは軍団長が俺たちの部隊を軽く見ている証拠。ようは舐められているわけだ。


「でもゴーランは落とすんだよね、明日」

 そう。それが分かっていてなお俺は、敵陣を落とすと言った。


「だからそれは仲間を守るためです。あそこさえ落とせば、当分の間は楽できますからね」


 運良く敵陣を落とせたとしても、そのまま中央を挟撃しに向かうことはできない。


 それでも敵が構築した陣を破壊し、もうあとは敵本陣へいつでも出撃できる状態になっていれば、明後日からの戦闘に参加しなくてよくなる。

 右翼から睨みを利かせるだけで、俺たちの部隊は戦闘に貢献していることになるのだ。


「なるほどね。ゴーランは仲間を守りたいと」

「当たり前です。部隊長の俺が軽く扱われると、部下たちも軽く扱われますからね。そこは譲れません」


 俺が強ければ、ゴブゴブ兄弟とビーヤンは、俺や俺の部下たちをないがしろにできなくなる。

 さきのタイマンは、オーガ族の地位向上に役立ったと思う。


「そっか。じゃ、それについてボクは何も言わない」

「ありがとうございます」

 お墨付きを得た……でいいのかな?


「けど、できれば彼らも仲間だと認めてほしいかな。ボクたちは同じ軍団でしょ」

 困った。そう来るか。


「善処します」

「うん、今のところはそれでいいや」


 それだけ言うと、ネヒョルはかき消えた。

 やっぱり現れたり消えたりするのは、ヴァンパイア族の特殊技能か。今度知っていそうな者に聞いてみよう。


「……ふう、やれやれ」

 ネヒョルの気配がなくなったので帰ろうとすると、副官のリグが固まっていた。


 なぜ部隊長になった当日に、他の部隊長に喧嘩を売るのかと呆れられてしまった。


「オーガ族では普通のことなんだよ」と言ったら、長い息を吐き出していた。

 もの凄く言いたいことが一杯あって、それをすべて飲み込んだんだと思う。


 帰り道、リグがずっと黙ったままなのが気まずい。


「なあ、リグ。もし生まれ変わったら、何になりたい?」

 沈黙に耐えかねて、俺は変な質問をしてしまった。


「考えたこともないですが……上位種でしょうか」

「コボルド族の上位種っていうと……ラージコボルド族だっけ?」


「そうです」

「もっとこう、強いのとか、カッコイイのとかにはなりたくないのか? たとえばヴァンパイア族とか」

 ネヒョルは強いぞ。


「いえ、私はコボルド族ですから、生まれ変わってもコボルド族がいいです」

「ふうん」


 リグはコボルド族である今の自分が気に入っているらしい。

 強さに関係なく、コボルドという種族に誇りを持っているのだろう。


 俺はどうだろうか。人間からオーガ族に転生した。次に生まれ変われるとしたら、何になりたいだろうか。

 魔界では上位種というのは多数いる。絶対数が少ないだけで、種類は豊富だ。


 でも俺はヴァンパイア族や竜族になりたいだろうか。どうだろう。あまりそうなった自分が想像できない。


「ゴーラン様は、オーガ族がお嫌いですか?」

 沈黙した俺を見かねて、リグが問いかけてきた。


「そんなことはないぞ」


 もとは人間だったが、オーガ族に転生しても嫌悪感も抱いてない。

 だが、次に生まれ変わるとしたら……ああ、そうか。


「俺は守れるようになりたいんだ」

「はっ?」


「そうか……種族は何でもいいんだ。俺は、俺が守ると決めた連中を最後まで守れるならば、何になってもいいみたいだ」

 ストンと気持ちが落ちた。


 母が言っていた台詞、守ると決めたならば、命を賭してでも守り抜きなさい。

 それが実現できるなら、どんな種族だっていいし、何に生まれ変わっても、やることは変わらない。


「あの……ゴーラン様?」

「ありがとう、リグ。俺のアイデンティティが確認できた気がするよ」


 上機嫌になった俺に、リグは「良かったですね」とやや引き気味だった。




 翌朝俺は、自分の部下に作戦を伝えた。

「いいか、今日は敵陣に突っ込んであそこを占領する」


 言っていることはグーデンのときと変わらない。

 そのため、部下たちはなにを今更という顔をしている。


「ただし今回はバラバラに突っ込むぞ。それとレイス族を無視する。目指すは陣の破壊だ」


 細かい説明はいい。したってこいつらには分からない。

 めいめいが突っ込んで、石と木でできた陣を破壊する。それが最初の目標だ。


 それが達成されたら、次の命令を出せばいい。


「この中で〈腕力強化〉を持っている者はそれに変えておけ。ないやつは〈岩投げ〉だ」


 グーデンは防御が高くなる〈赤い肌〉を好んで使っていたが、もともと魔法耐性がほとんどないオーガ族では、たかが知れている。


 飛来する魔法が当たれば一撃で死ぬんだから、少しくらい防御をあげたところで、この戦場では意味はない。


「よしおまえら、一気にいくぞ! 俺に続けぇ!」

「――ォオオ!」


 俺の部隊は六十体のオーガだけ。涙が出るほど少ない。

 だがやるしかない。


 昨日までは隊列を組んで突撃していたのでいい的になっていたが、今日は違う。


 一人一人がかなりの距離を開けて走っている。

 これならば魔法を撃つ方だって、狙いが絞れない。


 しかも前が詰まっていないので、俺たちは全速力で走ることができる。

 昨日の半分の時間で敵陣近くまでたどり着けた。


「レイス族は無視だ。陣地を壊せ! 中に入れ! 邪魔する奴は蹴散らせ!」

「うおぉおおおお!」


 咆哮とともに、敵陣のあちこちで破砕音が聞こえてくる。

 俺も棍棒の一撃で石垣を破壊し、それを乗り越えて敵陣の中に入っていった。




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