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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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 大まかな作戦は俺が提示した通りになった。

 レニノスの国にいる三人の小魔王。そのうちの一人はレニノス本人なので、いいとして。


 問題は、他の二小魔王だ。

 大狒狒おおひひ族のムジュラとノスフェラトゥ族のトトワール。


 両小魔王とも、かなりやっかいらしい。

 ムジュラは狒狒ひひ族の進化種らしく、力は狒狒族の数倍。


 狒狒族は森の暴虐王とも呼ばれるほど強く、そして凶暴。

 腕力と瞬発力にあかせた攻撃を得意とするらしいが、その進化種である大狒狒族の強さは未定。かなり強いと見ていいだろう。


 耐久力に優れているだけでなく、すべて狒狒族の上位互換だと言われれば、絶望しか湧いてこない。


 もう一方のトトワールだが、ノスフェラトゥ族というこれまたヴァンパイア族と同じくらいやっかいな相手だ。


 魔法型だが肉弾戦もできるヴァンパイア族とは違い、ノスフェラトゥ族は魔法オンリーということで、オーガ族みたいな脳筋にはかなりやりづらい相手である。


 物理攻撃をほぼ無効化するので、倒すならば魔法しかないというので、ぶつける相手を選んでしまう。


「なにより恐ろしいのはレニノスだろうがな」


 小魔王レニノスはそんな連中を倒しているあたりで、肉弾戦だろうが魔法戦だろうが問題なく戦える事が分かる。


 俺が大牙族やギガントケンタウロス族を倒したときのように、格下の者が挑んで戦う場合、万一勝利することができたら、それは僥倖である。

 負けた側は死を意味する場合がほとんどである。


 同格どうしが戦う場合は、死ぬのは半々くらいか。

 どちらにしろ配下に加えるならば、よほど実力差がないと難しい。


 敵を配下にする場合、無力化させて心を折れば可能だ。

 生殺与奪の権を握るのは強者のみに許されている。


 小魔王を下して配下にしたからには、レニノスの強さが群を抜いているのだと容易に想像できる。

 本当に倒せるのか、心配になってきた。




「さて、俺たちは密かに出発するぞ」


 現在、国を挙げて戦争準備の真っ最中である。

 兵と物資が町を行き交い、今まさに攻め入ろうとする雰囲気がひしひしと感じられる。


 これだけ大がかりな戦準備をしていれば、他国も敏感に反応するだろう。


 俺たちはその間にひっそりと国を出る。

 今回は隠密行動なので、連れて行く人数を絞った。


 オーガ族と死神族が三十名ずつ。それに非戦闘のコボルド族を入れて全部で八十名あまり。

 戦闘を考えるとこれが限界だ。


 これ以上多くすると目立つし、少なくすると戦闘に支障をきたす。

 俺としてはこのメンバーでやりとげて、無事村まで戻らなければならない。


「おっしゃ、腕が鳴るぜ」

「しばらく戦わないからな!」


 出発前、何か勘違いしているサイファにげんこつを落とす。

 すでに何度も説明してあるが、作戦の概要を覚えてないらしい。


 戦闘面では頼りになるヤツだが、やはりオーガ族に難しいことは理解できないようだ。

 敵地で単独行動をさせないようにしよう。




 俺たちはぞろぞろと街道を進んで、魔王ジャニウスとの国境付近に到着した。


 レニノスの国に行くのではないのかと思うかもしれないが、馬鹿正直にレニノスの国を通っていくことはしない。


 通るのは隣国のジャニウス領だ。


 ジャニウスの国は広く、だれも住んでいない地域が多数広がっている。

 今回俺が考えたのは、ジャニウスとレニノスの国境付近を通過する作戦だ。


「よし、全員正体を隠せ」


 トトワールの部下に見えるよう、夜魔種や幽鬼種に似たかぶり物をする。

 ようはボロ布をすっぽりとかぶるわけだ。


 こういう細かい演出は、魔界の住人の発想にないらしい。


 遠目には、幽鬼の集団が進んでいるようにしか見えない……はずだ。

 そして俺たちが進むのはジャニウス領。


 もしジャニウスの兵に見つかった場合、すぐにレニノス領に逃げ込めるよう、国境線ギリギリを進む。


 その代わり、道なき道を往くことになる。

 体力馬鹿のオーガ族は道がなくても問題ないし、上位種族の死神族は空中に浮くことができる。


「――休憩だ」


 コボルド族の体力がすぐに切れる。

 かといって、彼らを置いていくと、さまざまな所で不便なのだ。

 コボルド族にあわせて進むしかない。


「偵察に出した者たちから報告がありました」


 休憩をしていると、リグがやってきた。

 数日前から、コボルド族を単独で斥候に出してある。


「魔王ジャニウスは魔王ギドマンと戦争中だから、ここは戦場の反対側となる。よほどの事がない限り注目を集めたりしないと思うが、目立つ行動は避けてくれよ」


「分かっております。進む先に村や町がないかだけ確認させておりますので」


 日中はこのようにして情報収集をしつつ、ゆるやかに前進。

 夜に進めるだけ進んで、夜中から朝にかけて寝る。そんな感じで進軍している。


 死神族はもとよりオーガ族もいまのところ不満を顔に出している連中はいない。

 死神族はもともと規律を重んじる種族らしいので問題ない。


 オーガ族は出発前に俺が口をすっぱくして……じゃなくて、実力行使で黙らせたから大丈夫だと思う。


「それと、目的地に着いたら存分に暴れられるからかな」


 いまは目の前にニンジンをぶら下げた馬みたいなものだ。

 暴発するまでは、まっすぐ進んでくれるだろう。


「この先は進んで問題ないか」

「見える範囲で何も発見できなかったようです」


 斥候の報告によると起伏のある山が続くものの、村すらひとつもないらしい。


「ここはレニノス領との国境だしな。危険な場所に村なんかないよな」

 交流するにも不便過ぎるし。


 進軍は思ったより順調だった。




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