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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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 途中死神族の村に立ち寄ってからはどこにも寄り道せず、俺は村に帰ってきた。


「うん、ここは平和だ」

 村に入った早々、オーガ族どうしの殴り合いを見てしまったが、それはいつもの日常だ。


 この村では、殴り合う光景を見ない方が異常だったりする。

 そのため、ときおり聞こえてくる怒声なども蝉の鳴き声程度でしかない。風物詩と同じだ。


「おかえりー!」

 道を歩いていると、ベッカが俺を見つけて近寄ってきた。

 何か背負っている。


「おうただいま」

 ほぼ毎日俺に転がされているにもかかわらず、よく寄ってこられるな。

 同世代の連中は怖がって、俺と目すら合わせないというのに。


「あれ? ゴーランはどっか行ってたの?」


 ひどい言い様である。連日家に押しかけてきて戦いを挑むくせに、俺がいなくなったのを忘れているとか。


「町までな……それよりおまえの背中、なんだそれ?」

 ベッカは、キメラみたいな生き物を背負っている。


「これ? 猪と大蛇と狼だよ。今日の獲物」

「そうか……別々に持ってきたらどうだ?」


 猪の口の中に大蛇が頭から詰め込まれている。

 もちろん口に入るのは頭から少しいったところまでだ。残りは口からにょ~んと出ている。


 その先を狼の首に巻き付け……蛇でしばってあるのか。

 ようは、ひとつの生き物のようにして持ち帰ってきたと。シュール過ぎる。


 なんというか、一般的なオーガ族でもベッカほど適当じゃないぞ。


「それ、全部殴り殺したのか?」

「どうだっけ? バキッとやったかな」


 ベッカの場合、純粋な腕力だけなら、兄のサイファをしのぐ。

 俺なんか握手したら手を握りつぶされる。


 ただベッカの場合、身体の使い方が適当なので、掴まれたことは一度も無いが。


 ベッカと分かれて我が家に入る。

「お帰りなさい」

「おかえりなさいませ」


 ペイニーとリグが俺の家にいた。なぜだろう。


「今日あたり帰ってくると思っていましたので、こちらで待たしていただきました。食事の用意ができていますので、どうぞ」

 さすが俺の副官。よく分かっている。


「ありがとうな、リグ」

「いいえ。お帰りがもう少し早いかと思って、先に準備しておりましたもので、若干冷めていますが」


「ああ、死神族の村に寄ってみたんだ。遅れたのはそのせいだな」

 帰りの時間まで把握されているのか。これはさすがと言うべきか、恐ろしいと言うべきか。


「私の村にですか?」

「ルマに会ってきた。特に用はなかったのだが、一度村を見ておこうと思ってな」


「そうでしたか。あそこはいいところです」

 オーガ族にとっては湿っぽい場所だが、それは言わないでおいとく。


「そういえば、他国の死神族がこの国に来たいと聞いたが」


「前回私が村に戻ったときに、その話を聞きました。ですが、交流のあった一族ではないようで、互いに知っている相手がいないようなのです。ですので、来るかどうかまだ分からないだろうと聞きました」


「国をまたいで移動するだけでも大変だしな。落ちつく気になったらくればいいさ。……それより、また戦争が始まりそうだ」


「相手はどこですか?」

 リグの顔が険しくなる。


「同じだ。今度はこっちから攻め上がる」

「…………」

 リグもペイニーも驚いた顔をした。


「小魔王レニノスは強大です。戦力的にはかなり厳しいのではないでしょうか」

「そうだな。死なないために、そして負けないために準備は必要だな」


 戦争と言っても、実際に攻め込むのは密約をしたトラルザードが動き出した後になる。完全な他力本願だ。

 トラルザードが他の小魔王国を引きつけてくれないと、怖くて攻め込めやしないのだ。


 そして俺の案が採用されるならば、俺たちがファーラの軍をレニノスの国まで連れてこなくてはならない。


「いろいろ準備が必要だな」

 少しでも生存確率を上げるためなら、なんでもしたい。


「次もがんばります」

 ペイニーが意気込んでいる。


 ようやく死神族の居場所ができたのだ。これを失いたくないのだろう。

 失いたくないのは俺も一緒だ。


「おそらくかなり厳しい戦いになる。ただし、時間は十分ある。いまから気を張っていると疲れてしまうぞ」


 どうせ戦いからは逃げられないのだ。

 覚悟を決めて特訓だな。またかと言われそうだが。




 俺はリグに頼んで、レノニスとファーラの国の地図を取り寄せてもらった。

 城にあるということなので、リグには写しに行ってもらったのだ。


 その間俺は、オーガ族と死神族を分け隔てなく特訓した。

 簡単に言うと、特殊技能なしの組み手だ。


 なぜか魔界の住人は種族固有の能力や、特殊技能に頼るクセがある。

 他種族と違う自分たちだけのものなので、頼りたくなる気持ちは分かるのだが。

 俺はそれを矯正したかったのだ。


 それと困ったことに、それだけ依存度の高い特殊技能であるにもかかわらず、その有効具合を検証していない場合が多い。

 俺からしたら「何やっているんだ!」と怒鳴りたくなる体たらくである。


 出撃までの二ヶ月間、俺は連中を徹底的にシゴキ、甘えを捨て去らせた上で、心を折るまで相手をした。


 おかげで俺の方が強くなったかもしれない。

 ちなみに、死神族の基礎能力は凄かったとだけ、言っておこう。俺も相当鍛えられた。




 こうして準備が調ったところで、出陣の命令が届いた。いいタイミングだ。

 俺の作戦が了承されたとの報告も届いた。



 レニノス討伐がこれから始まるのである。




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