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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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◎ファルネーゼとフェリシア


 会議が終わり、ゴーランが去った。

 ファルネーゼとフェリシアはその場に残り、先ほどの印象を語っていく。


「……どうだった?」

「話を聞いたときは驚きましたけど、たしかに違いますね」


 二人ともオーガ族については一般的な知識しか無い。身近にいないためだ。

 魔界には多種多様な種族があり、よく知っている種族もいれば、名前や特徴を知っているだけの種族もいる。


 ヴァンパイア族のファルネーゼは、オーガ族といえば肉壁。もう少し上等な言い方をすれば盾。

 そんなイメージ、その程度の認識しかなかった。これまでは。


 だが、ゴーランと直接話をして感じるのは、知性と深い洞察力。

 ゴーランがネヒョルの部下であることから、最初は彼の入れ知恵ではないかと疑ったほどだ。


「あれが一般のオーガ族でないのは私も分かる。さすがにな」

「ファルネーゼ様は、彼の裏にだれかいると疑っていましたわね」


「それはもうないと思っている。あれだけ自由闊達に話せるならば、だれかの傀儡になるようなことはないだろう」


「わたくしもそう考えます。そうなると不思議なのは……ほんとうにオーガ族なんですの?」

 フェリシアの問いかけにファルネーゼは苦笑した。


 ゴーランの外見はオーガ族以外のなにものでもない。

 行動様式もそっくりだ。


 ムカつけば殴るか喧嘩を売る。

 魔法が使えないので、肉弾戦で対処する。


 行動はまさにオーガ族の典型だ。


「知性を除けばとてもオーガ族らしいオーガ族なんだが……いや」

「どうされました?」


「そういえば、大牙たいが族とギガントケンタウロス族の部隊長を倒している」


「資料はわたくしも目を通しております。でもそれは不可能かと思いますわ。勝率は……いいとこ数パーセント。普通ならばゼロと言って差し支えありませんもの」


 戦果を大げさに宣伝する者は後を絶たない。

 ゆえにフェリシアはそういった報告にあまり重きをおいてなかった。


 報告と実際が違うことがとにかく多いのだ。

 また、ゴーランを直接見たことも大きい。


 あの魔素量では倒すことなど到底不可能であると結論づけている。


「それがそうでもないのだ。飛鷲族の偵察でも確認が取れている」


「それこそ知性を持つオーガ族だからといって、魔界の常識まで覆されるわけにはいきません。もしオーガ族がギガントケンタウロス族を倒したのでしたら、それはもう別の何かです」


 フェリシアとしてもそこは譲れない。


 知性については、たまたま素養を持って生まれて、小さな頃から先導者に恵まれた場合、あのように成長する可能性もあるからだ。


 だが、相手の半分もない魔素量で次々敵を撃破できるかと言えば、ノーである。

 そこまで魔界は甘くない。


「……まあ、彼のことはこれくらいにして、先の作戦を詰めようか」

「そうですわね。わたくしが事前に用意した作戦よりも、彼の方が実用性が高いと思います」


 今回、わざとゴーランに喋らせるつもりでいたため、フェリシアが用意した作戦は出していなかった。


 もともとは、ゴーランが会議でぶち上げた内容をフェリシアに話したことが発端となっている。

 そこまで主張するならば、彼に作戦を立てさせてみましょうとばかりに、この場を設定したのである。


 結果、フェリシアが立てた作戦は出さずに終わってしまった。


「カウンター作戦だったが、それはいいのか?」

「ええ、危険度が高い作戦ですし、わたくし自身、あまり乗り気ではありませんでしたので」


 フェリシアが立てた作戦は、行商人を通してこの国が混乱していることをレニノスに知らせることからはじまる。


 レニノス側は、二回も侵攻して負けたのだ。

 こちらの混乱が伝われば、リベンジとばかりに仕掛けてくる。

 それをメルヴィスの城で迎え撃つ。


 その隙に二将軍がレニノスの国へ速攻をかけるというものだった。


 レニノスの性格からして、この国に軍を派遣するときに、他国、とくにファーラの国から狙われないよう、反対側への防備を疎かにしない。


 すると必然、レニノスの城には一部隊しか残っていないことになる。

 そこへ攻め上がる予定でいた。


 だがこちらも二部隊が動けば当然察知される。

 城で待ち構えられる可能性もあるし、途中で迎撃されることも考えられる。


 もたもたしていると、自領の防衛戦で負ける可能性も出てくる。

 そうしたら国が終わる。


 あまりにリスクの高い作戦であった。


「私がレニノスと戦ったとして、勝率は二割か」

「現時点ではです。入念に準備をすれば半分くらいまで上がるよう、その詳細はこれから詰めていきましょう。時間はまだあります」


「そうだな。作戦決行は一ヶ月後か、二ヶ月後か。それまでにやればいいのだからな」


「わたくしの方もまだ軍備が調っておりませんので、すぐにはお役に立てないかもしれません」


「仕方が無い。ネヒョルの子飼いがみな去ってしまって、残った者の半数は戦闘に向かない種族。肝心のゴーランは外れてしまったからな」


「申し訳ございません。一ヶ月のうちには軍備再編を終わらせてみせます」

「期待している」


 こうして計画は少しずつ形をなしていった。




◎ワイルドハント ネヒョル


「ねえ、レグラス。ちょっと出て行っていいかなぁ?」

「ネヒョル様がなさりたいことでしたら何でも」


「ありがとう、レグラス。ぼくは西に行こうと思うんだ」

「西ですか……とするとリーガードを混乱の渦に?」


「ううん。もっと西」

「ということはトラルザードですか。あの爬虫類どもを喰い散らかすわけですね」


「残念。もうひとつ西のチリルってところにね」

「チリル? そうでございますか」


 レグラスは頭の中に地図を思い浮かべた。

 トラルザードのすぐ脇に、たしかにチリルという小国がある。


 だがそれ以上の情報はなにも持っていなかった。

 何の価値もないと考えていたからだ。


 そこへネヒョルがなぜ向かうのかまったく分からないが、レグラスは深く聞くことはしなかった。


 話したければするし、内緒にしたいのならば、レグラスがどんなに懇願したとしても、教えてはくれまい。


「気をつけていってらっしゃいませ」

「うん。またね」


 ネヒョルの出立は、魔界に新しい混乱を巻き起こす風となるのだが、それはまだ先の話。




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