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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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 ファルネーゼ将軍が行った追跡調査でも、ネヒョルの行方は分からなかったようだ。

 かわりに、国家間を移動する商人からの情報で、支配の石版にネヒョルの名前が載っていたことが確認された。小魔王だそうだ。


 通常、国をまたいで物品の流通はほとんど行われない。

 そういう意味では、鎖国をしていたかつての日本のようなものだ。


 国入りを許された商人たちがたまにやってくるくらいだ。

 魔素のつながりによって、自国の者以外は容易に判別がつくので、一般を相手にした商売は成り立たない。


 それどころか、移動途中で襲われることもある。

 そのため、将軍や軍団長などが、情報収集のついでに売買する程度である。


 ネヒョルが小魔王になったということは、どこかの国を支配下に置いたかなにかだろう。


 ネヒョルの目的はエルダー種に進化すること。

 そのためにまた動き出すかもしれない。注意が必要だ。


「……問題は、俺たちが生き残れるかどうかだよな」

 実はネヒョルのことだけに構っていられなくなった。


 小魔王レニノスを倒す目処が立たないのだ。

 それで今日は将軍に呼ばれていたりする。


 場所は、もともとネヒョルが治めていた町。

 いまはフェリシア軍団長が治めている。


 そこにファルネーゼ将軍がやってきた。


 なぜ将軍がわざわざやってくるかというと、俺が将軍の町まで出向くと、片道だけで五日もかかってしまうからである。


 以前会議で俺がやらかしたのが、いまだに尾を引いている。

 あのとき強引に話を進めなければ、よかったのだ。本当に祟られる。


 ちなみに魔王トラルザードとの密約については、問題なく了承されている。

 他の将軍も賛同したし、メラルダからも問題ないと知らせが届いている。


 ただし、軍を出すのはもう少し経ってからとなった。

 いま魔王リーガードの軍勢が勢いを増していて、ちょうど軍団を入れ替える時期にきているらしい。


 その入れ替えた軍勢を戻さずに東へ張り付けるつもりのようだ。

 そこで鋭気を養いつつ訓練させるらしい。


 魔王の軍勢が東に向かえば、この小魔王国群は大いに慌てる。

 有事に備えて国境付近に軍を向けなければならないが、どの小魔王国も戦争の真っ最中である。


 かなり無理をしないと派兵できない。


「南の小魔王国群の目がそちらに向いているうちに、我々は準備をすべきだな」


 こちらの動きを気取られても困るので、南の緊張が高まった頃に動いた方がいい。

 つまり今は雌伏のときとなる。


「その間に戦略を練ってしまわねばなりませんね。ゴーランの意見を聞きたいです」

 最近、フェリシアは俺に意見をよく振ってくる。


 フェリシアが町を発ったあと、会議の内容を伝え聞いてからいろいろ思うことがあると言っていた。


 だからといって、俺は素人だ。

 あまり戦略に口出しできるものはないと思う。


 それでも聞かれたならば、答えなくてはならない。


「もともと勝算はそれほど高くないので、少しでもそれを高めるような作戦を考えてきましょう」

「たとえば?」


「小魔王レニノスは二つの小魔王国を併呑しました。そして現在、三人の小魔王が国内にいると考えていいんですね」


「その通りだ」

「でしたら、レニノスとそれ以外で戦力を分散させましょう」


 ただでさえこちらは寡兵なのだ。

 そのまま戦争をしても負ける。


「言いたいことは分かるが、そう簡単にいかないからこそ、こうやって悩んでいるのではないか?」


 ファルネーゼ将軍も色々考えたようだ。

 この国で動員できる戦力は、最大で二将軍分しかない。


 メルヴィスが眠る城に一部隊を残さねばならないため、他国へ侵略できる余地がほとんどなかったりする。

 それでも行かねばならないのだが。


「幸い、魔王トラルザードとの密約がありますので、こちらは二将軍出撃できます。一将軍はそのままレニノスの国へ侵攻します」


「ふむ、そうするとただの侵略戦争だな。向こうは迎撃戦となるだけで、短期決戦など、夢のまた夢だぞ」

 将軍は不満そうだ。


「ということは、その軍は囮ですわね」

 フェリシア軍団長の言葉に俺は頷いた。


「こちらが将軍を出してくれば、あちらも将軍を出さざるを得ないでしょう。ゆえに一部隊は城から離れます」


 フェリシア軍団長の言うとおり囮部隊だ。


 だから遅延行動で時間稼ぎだけしてもいい。

 別に撃破する必要はないのだ。


「とすると本命は別か。……だが、まだ二部隊残っているぞ」

「ええ。ですから、力を借りるのです」


「魔王トラルザードにか? 援軍は出せないと言われただろ?」

「違います。小魔王ファーラにです」


 俺の言葉にファルネーゼ将軍は「はっ?」という顔をし、フェリシア軍団長は「んーっ」と悩む姿を見せた。


 小魔王ファーラと小魔王レニノスの国は領土を接している。

 たがいにしのぎを削る間柄だが、この早い段階でぶつかりたくないらしく、ファーラは北へ、レニノスは南へと食指を伸ばしている。


 そんな両者をぶつからせるわけだ。


「どうやってやるんだ?」

「メラルダからワイルドハントの話を聞いてから考えていたんですが、レニノスの部隊の振りをしてファーラの領土内で暴れたらどうなるかと思って」


「そりゃもちろん、殲滅しに軍が派遣されるだろう」

 ですよねー。


「捕まらないようにレニノスの国に逃げたらどうなります?」

「どうだろう。追いかけないんじゃないか?」


 全面戦争は避けたいだろうし、当然か。

「でしたら国境を越えるまで繰り返せばいいですね」


 何度もやれば、さすがに業を煮やす。

 それに何度も国境付近に軍が集まれば、レニノスだって反応せざるを得ない。


 相手はファーラの国だ。侮ることはしないだろう。

 対処できる人材を用意するなら、将軍を派遣するしかない。


 これでレニノス以外の小魔王が南と北に分かれた。

 城に残るはレニノスのみ。


「こっちはなるべく見つからないように進んで、レニノスの城へ進軍します。そして首を取る……こんな感じでどうでしょうか」




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