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魔界本紀 下剋上のゴーラン  作者: もぎ すず
第2章 ワイルドハント編
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083

 村でダラダラと過ごしたい。

 昼間から酒を呑んで、自堕落な生活をしたい。


 それでもって、面倒くさそうな仕事をだれかが全部やってくれれば最高だ。


「ゴーラン様、本日の陳情が参りました」

「も――どうにでもなーれー」


「……はっ?」


 リグが不思議そうな顔を向けてきた。

 現実逃避はそのくらいにしておこう。


「陳情ね。中身はなんだ?」

「ここから町までの道中で、魔物の数が増えているようです。なんとかしてほしいと」


 見かけたら狩ればいいと思うのだが、戦闘種族以外だと厳しいか。


「今までどうしていたんだ?」

「魔物は山岳部から流れて来ているようでして、その辺は前軍団長の管轄になります。直属の部下を派遣していたようです」


「ああ、黒衣の集団が狩っていたのか」

「おそらくそうかと」


「……分かった。人を揃えて近日中に山狩りさせる」

「本日行わないので?」


「俺は橋の様子を見に行かねばならない。帰ってから人集めだな」

「なるほど。でしたら、明日以降と伝えておきます」


 一礼してリグが去って行った。


 ……とまあ、俺がいま村で訳の分からない陳情処理をやっていたりする。

 もともとネヒョルの管轄だったが、出奔したことで陳情の持って行き先が無くなってしまった。


 フェリシア軍団長はいま軍の再編中とかで、大忙しらしい。

 それは分かる。


 ネヒョルが自分の子飼いを連れていってしまったのだから、残った戦力は四人の部隊長だけ。

 戦力としては心許ない。


 また、いまになって理解したが、ネヒョルはそれなりにうまく町を回していたようだ。

 ちゃんと陳情の窓口を作って、戦闘・狩猟系は子飼いの者たちにやらせていた。


 この辺は田舎なので住民も少なく、魔獣の方がよっぽど多い。

 魔獣でも倒せばほんの少しでも器が広がるので、積極的に倒していたのだろう。


「それでも広がるのは誤差程度って聞いているんだけどな」


 魔獣を倒してもほとんど強くなれないというのが通説だ。

 それでも十年、二十年ではなく、百年、二百年単位でやれば塵山ちりやまになるのだろうか。

 なるんだろうな。


 ネヒョルが抜けた軍事面をフェリシア軍団長が必死に立て直しているため、陳情が俺のところに回ってきている。

 そして、俺が動かせる連中といえば……。


「おう、ゴーラン。来てやったぜ。今日こそ覚悟しろよ!」

「そうだよ。今日のわたしたちはひと味違うんだからっ!」


 駄兄妹を筆頭とした、脳筋オーガ族ばかりである。


「うるせえな。まとめて相手をするから表へでやがれ!」


 しょうがないので、いつものルーチンワークをはじめることにする。

 兄妹仲良くぶっ飛ばすだけだけど。


 もう少しオツムの出来が良ければ助かったんだが、いかんせんオーガ族はみんなこんな感じだ。

 人を使うなんてことはできない。


 よって、面倒な陳情も俺が出て行かざるを得ないのだ。


「明日から山狩りだ。魔獣三昧だから覚悟しておけよ」

「きゅう~」

 ベッカが変な声を出したが……まあ、大丈夫だろう。


「リグ、いまから橋を見に行く。用意してくれ」

「はっ!」


 オーガ族の村と、かつてネヒョルがいた町を結ぶ街道。

 途中に大きな橋がある。


 かなり頑丈に作られているが、魔界の住人はときどき予想を上回ることをしでかす。

 といっても、何のことはない。巨人族が走ってきて、橋の上で転んだのだ。


 橋は揺れ、真ん中にヒビが入ったらしい。

 それと欄干らんかんが破損したとか。


 俺が様子を見に行って、指示をださねばならないのだ。

 あー、めんどい。




 橋は中央に穴が空いていて、そこから放射線上のヒビが走っていた。

「これは補修だけで間に合うのか?」


 魔界にもコンクリートのようなものがある。

 土と灰と砂利、それに水を混ぜたものだ。


 穴が開いて気づいたが、橋を軽くするため、橋はかなり薄くなっているようだ。

 これなら穴があくのも致し方ない。それと気になったことがある。


「おい、だれか」

「はいただいま」


 コボルド族とレプラコーン族が慌ててやってきた。

 別に怒るわけじゃないのだが、顔がこわばっている。


「強度を増すための筋交すじかいとかは入れてないのか?」

「筋交いと言いますと?」


「鉄線をこう……格子状にしたのを入れたりしないのかと思ったんだ」

「さあ……あまりそういうのは見たことないと思います」

「ふむ」


 俺も素人だから詳しいことは分からないが、日本ではよく中に入れていた。

 彼らにはイメージが掴めなかったらしく、いろいろ説明していたら、少しだけ思い出した。


 そうやってつくったものを鉄筋コンクリートと呼んでいた。

 建物や橋など重要なものには必ず入っていたと思う。


 道場の庭の外構工事でコンクリを敷いた。

 たしかあのときにも入れていた。


 小さな四角いコンクリのキューブを下に敷いて下駄を履かせた上に、格子状の鉄筋を乗せていたような気がする。


 あんな普通の庭にも使うのだから、橋にもあった方がいい。


「それを中に入れることで橋が頑丈になるんだ」

 あとは偉そうに言えばお終いである。


「すぐにやってみます」とのこと。

 針金を作ることができるんだから、問題ないだろう。


「橋はもう老朽化している。隣に新しいものを作り、それが完成したら古いものを撤去するように。これは危険だ」

「分かりました!」


 鉄筋を入れていない老朽化した橋……しかも薄いときている。

 崩落が起きてからでは遅いからな。


「次は巨人族が倒れても大丈夫な橋を期待する」

「お任せください」


 その後、新しく作るものには、すべて鉄筋が入れられるようになったらしい。

 それで長持ちするといいな。




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